こちらは相談屋です。 第4話 或る狐在りて


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<登場人物>
久世 萌(くぜ もゆる):
 相談屋を営む少年。見た目は実年齢よりも幼く、名前や外見から性別も間違われがち。
 普段は怠惰に生活しており、生活能力はあまりない引きこもり。
 余裕ゆえにまったりした性格と古風な口調で騒ぐのが苦手。

吉川 浅黄(よしかわ あさき):
 特区に住まう女子高生。いつもセーラー服姿で相談屋に通い詰めている。
 いいところのお嬢様だが、口調や嗜好面において庶民派を主張している。
 明るく元気で真っ直ぐな行動派の一般人。

鬼灯 緋凪(ほおずき ひな):
 齢18歳の絶世の美男で、元人間。黒髪と赤い眼を持つ。
 穏やかで優しく押しに弱い性格だが、妖力が枯渇すると静かな狂気を見せる。
 特区に慣れるまで、相談屋で働くことになった。

新参屋(しんざんや):
 無精ひげを生やしたおじさん。年中麦わら帽子を深めに被っている。
 特区内の全ての店や住民を網羅しており、近隣の仕事の仲介を行っている。
 面倒見がよく、人も妖も分け隔てなく接する人間。



※「」:通常セリフ/【】:ナレorモノローグ
 劇中に出てくる難読単語の振り仮名集はこちら

!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



緋凪【万(よろず)商店街、通称『特区』。
   専門業を営む店が多く並び、大型スーパーやコンビニ、高層ビル等々、
   現代における都会的な建築物が存在しない。
   全体的に古めかしい外観を持つ店ばかりで、特区内の高低差も殆どない。
   そんな場所のある店で、今日は衝撃を受けることになる。】


浅黄「『第4話 或る狐在りて』」


[相談屋・店内。起床後、居間にやってくる緋凪。]

緋凪【それは、今朝の出来事。本当に、いつもと変わらない朝のはず、だった。】

緋凪「おはようございます、萌さん。」

萌「おはよう緋凪。新参屋に頼まれていたものが出来た。
   朝餉(あさげ)が済んだら届け物をしてほしい。」

緋凪「はい、わかりました。ではすぐ朝食を・・・用意・・・・・え・・・・・!?」

萌「ん?どうした?」

緋凪「も、萌さん・・・あの、あの!ああああ頭!頭に!!!」

萌「頭?虫でもついているのか?」

緋凪「ちち、違います!その、頭に、耳が!」

萌「(頭を触ってみる)あぁ、今宵は月が満ちるのか。
   どうりで座り心地が悪いわけだ。」

緋凪「座り心地・・・?って、わあああああああああああああああ!!!」



間。



[新参屋。緋凪の話を聞いて笑っている浅黄と新参屋。]

浅黄「あっはっはっはっはっは!そりゃビックリするよ!アハハハハハハ!」

新参屋「ホントホント、人間かと思ってた奴にいきなり狐の耳が生えちゃなぁ!ハハハ!」

緋凪【今朝の出来事を、おつかい先である新参屋さんと、
   偶然その場に居合わせていた浅黄さんにお話しすると、
   お腹を抱えて笑われてしまった。
   俺としては本当に驚いたことだったために、心がついていかない。】

浅黄「まぁ、萌ちゃんのことだから、その時に話せばいいや〜って思ってたんだろうね〜」

新参屋「その耳について、しっかり聞いたか?」

緋凪「満月の日には1日中生えているものだと仰られていました。
   狐のような耳だけでなく尻尾も生えていましたし・・・・・はぁ。」

新参屋「アイツぁただの人間じゃねぇし、ただの妖ってのでもねぇからな。
   どうせ説明がめんどくさくて、割愛しまくったんだろ。
   お、それ俺が頼んでたヤツか?」

緋凪「え?あぁはい、萌さんに頼まれて、お届けに。」

新参屋「サンキュー。待ってたんだよなぁこれ!」

浅黄「なぁに?それ」

新参屋「まだまだ子供の浅黄にゃわからねぇよ。コイツの味がな♪」

浅黄「ということは、またお酒?飲み過ぎちゃダメだよ?」

新参屋「わぁーってるって。にししっ、今夜は月見酒だ〜」

緋凪【ただの人間でなくて、ただの妖でもない。
   では萌さんは一体、何者なんだろう?
   確かに、持ちうる知識や口振りなどとは想像もつかないほど、外見は幼い。
   大きく見積もっても、ギリギリ中学生と言われるか否か。
   ただ1つ言えることは、見た目はどう見ても人間であるということ。
   今朝の出来事と合わせて考えると、萌さんは・・・・・・狐?】

浅黄「そうだおじさん、萌ちゃんに何か他に用事があるんじゃなかった?」

新参屋「あ?あぁ〜そうだったそうだった!兄ちゃん、ちょいと手伝ってくれるか?」

緋凪「はい、なんでしょう?」

新参屋「そこにある箱を運んでくれるか?デカい方は俺が持ってくからよ」

緋凪「わかりました。」

浅黄「私も行くー!今日はね〜、栗ようかん買ってきたの!みんなで食べよ!」

緋凪【木箱を抱え、3人で相談屋へ向かうことになった。
   帰ったら、萌さんについてもう少し聞いてみよう。
   人間でも妖でもない、その正体を。】



間。



[相談屋・店内。コタツで微睡んでいる萌。]

緋凪「ただいま帰りました。」

浅黄「やっほー萌ちゃん!栗ようかん持ってきたよ〜!」

萌「よく来たな。ん、新参屋も一緒か。」

新参屋「よう、邪魔するぞ〜。ちょっくら用事があったんだ。」

萌「ふむ、では緋凪を使いに出したのは二度手間だったか。」

新参屋「いやいや、荷物持ちしてもらえて助かった。気にすんな。」

緋凪【店に着いて、萌さんは新参屋さんと親しげに会話をし始めた。
   新参屋さんは人間であると、来る途中に本人から伺っている。
   特区では、人間と妖の区別が難しい。
   もしかしたら見分け方があるのかもしれないが、
   まだ俺には判別しがたい。】

浅黄「はい萌ちゃん。お茶と栗ようかんだよ」

萌「ありがとう。して、此度の用事とは?」

新参屋「まずは1つ。おーい兄ちゃん!アンタが運んできた方の箱開けてくれ」

緋凪「え?えっと、これ、ですか?(箱を開ける)っと・・・これって・・・・・」

新参屋「おう。今日作ってもらった油揚げ。今晩のおかずにでも出してやってくれ。」

萌「小生は狐ではないぞ?」

新参屋「似たようなもんだろ、ハッハッハッハ!」

緋凪【狐じゃない・・・人間でも妖でも、ましてや狐でもないとしたら、
   本当に萌さんは何者なんだろうか。
   油揚げまで用意されたというのに、いよいよわからなくなってきた。】

浅黄「そっちの大きい箱は何?」

新参屋「こっちが本命だ。・・・見世物屋(みせものや)に流れてた代物だ。」

萌「・・・・・なるほど。これはまた珍しい。」

新参屋「あぁ。今回はホントにやべぇのが憑いちまったらしい。
   俺が見つけて引き取ってなけりゃあどうなっていたことやら。
   ・・・・・ってわけで。」

萌「箱は開けるな。浅黄と緋凪にはちと刺激が強すぎる」

緋凪「何か、恐ろしいモノでも・・・?」

浅黄「ひひひ緋凪ちゃん、ここは何も聞かない方がいい、むしろ聞いちゃダメ!
   見世物屋にあったって時点で、グロテスクなものと考えた方がいいよ!!!」

緋凪「は、はい。」

萌「箱をこちらへ。直ちに片付けよう。」

新参屋「おう。」

緋凪【大きな木箱は、新参屋さんの手によってそっと、畳の上に置かれた。
   何の変哲もない木箱に見えるが、新参屋さんの手が離れた瞬間、
   空気がピリピリとし始めた。
   浅黄さんは何も感じていないらしいが、少し怯えている様子。
   新参屋さんは、目に見えて表情が強張っている。
   ふと、萌さんが、木箱の方へ手をかざした、その時。】

浅黄「うわぁっ!?」

新参屋「動くな嬢ちゃん!下手に刺激すっと、何されるかわかんねぇぞ?」

浅黄「う、うん・・・!」

緋凪【木箱の内側から、青白い炎が噴き出した。
   ところが木箱の外・・・畳などに燃え移る様子はなく、
   まるでもがいているかのように揺らめいている。
   萌さんは、動揺の1つも見せずに、手をかざしたまま口を開いた。】

萌「案ずるな。貴殿には迎えが来よう。
   貴殿の逝く先は、その迎えに尋ねるといい。必ずや、導いてくれる。
   もうこの世に貴殿の居場所も、存在する理由も消え失せた。
   今は静かに、眠りにつくといい。」

緋凪【静かに、優しく諭すように言葉を紡ぐ萌さん。
   すると、青白い炎が木箱を一気に包み込み、よりいっそう強く燃え盛り、
   かと思えばゆっくりと勢いを失い、木箱は僅かな消し屑となった。
   不思議なことに、あれだけ燃えていたにもかかわらず、
   畳には焦げ跡すら残らなかった。】

浅黄「おおお終わり?ねぇ、終わったん、だよね?」

新参屋「あぁ。無事、仏さんになったよ。いやぁ〜よかったよかった!」

浅黄「はぁ〜〜〜〜〜〜。」

緋凪「あの、あの木箱は一体・・・?」

新参屋「簡単に言えば、凶悪な呪物(じゅぶつ)が入ってたんだよ。
   相談屋には大元である人間の肉体ごと浄化してもらって・・・・・あ。」

緋凪「に、人間!?」

浅黄「(泣きそうな声で)やっぱり人間が入ってたんだー!!!」

新参屋「やべ、うっかりボロが出ちまった。」

萌「仕方あるまい、直接見せなかっただけマシと言えよう。」

新参屋「そうだな。ま、あとは雑談だけだし、ようかんでも食いながら説明しようや。」

緋凪【衝撃的な事実を伝えられた俺と浅黄さんは、驚きが隠せなかった。
   いや、正確には、驚愕と動揺を覚えたのは俺だけで、
   浅黄さんはおおよその見当がついていたのだろう。
   『やっぱり』と言っていたことから、以前も似たようなことがあったのだろうか?】

萌「稀に、守護霊を持たずして生まれくる人間がいる。
   霊的な存在の入っていない入れ物は、浮遊霊たちの依り代となりやすい。
   アレは、悪鬼の念が取り付いた胎児・・・・・生まれたばかりの子供だった。
   まぁ子供はすでに事切れていたが、魂は悪鬼の念に囚われたままだった。」

浅黄「じゃあ、さっきは悪鬼の念を浄化したの?」

萌「念を取り払っただけでは意味がない。
   現世に留まるための身体を失った魂は、あの世へ行かねば転生できぬ。
   迎えを呼び寄せ、連れて行かせた。
   あの炎は、悪鬼が見せた最後の足掻き、すなわち鬼火。
   無論、小生の力の前に、木箱と子供の身体以外は焼かせなかったがな。」

新参屋「悪鬼の念と子供の魂、それが抜けた後に残る子供の死体ってのは、
   最高最悪の呪物として利用されやすい。
   んなもんを見世物屋に置き続けてりゃ、誰かが大金払ってでも
   買い取っちまう可能性がある。
   だから、無理やり引き取って相談屋に浄化してもらったってわけだ。」

緋凪「そうでしたか。子供が、呪物に・・・・・」

萌「珍しいことではない。
   胎児や子供を呪物にする行為は、古来より凶悪かつ強力な呪いとして伝わっている。
   未来ある子供ほど運命の糸が複雑に絡み合っているゆえに、
   人の運命を狂わせるのに最も適した呪物であることは確か。
   小生とて、モノが違えばそうなっていたやもしれん。」

緋凪「え?」

浅黄「あ〜、前に言ってたヤツ、だよね。萌ちゃんの守護霊的な狐さん。」

新参屋「人間に有害な野狐(やこ)とは違って、なにせ大神狐(おおがみぎつね)だもんな!」

緋凪「おおがみ、ぎつね・・・?」

萌「ふむ、緋凪にはまだ話していなかったな。」

新参屋「たまには昔話もいいんじゃねぇか?お前いっつも自分の話、しねぇんだからよぉ」

萌「それもそうか。久しく、小生の長い話でもしよう。」

緋凪【真っ白な毛色の耳と尻尾を揺らし、そっと湯呑をテーブルに置く萌さん。
   今朝は驚くばかりでよく観察できなかったけれど、
   浅黄さんが用意してくれた栗ようかんとは別の、甘い匂いがする。
   萌さんの妖力が高まっているのだろうか。
   その姿はどこか神秘的で、少しでも油断すると魅入られてしまいそうになる。】

萌「人は生まれながらに、霊的な加護を受ける。
   それは先祖か、はたまた仏か、皆が皆同じではない。
   だが稀に、なんの加護も受けずして生まれる者もいる。
   小生は、そんな子供だった。」

浅黄「萌ちゃんには、守護霊がついてなかったんだよね。」

緋凪「では、先ほど浄化した子供のように・・・!?」

新参屋「そういうこと。空っぽの状態、依り代としちゃ最高の餌ってわけだ。」

萌「いつ悪霊などに侵されてもおかしくない状態だった小生は、
   生まれ持った霊能力の才があった。
   そのためか、多少の下級霊の侵入を許さず、
   物心がつくまでは大いなる存在に襲われることもなかった。
   ・・・あれは、5つを過ぎたあたりだったか。
   不意に、身体が満たされたような感覚に襲われた。
   痛みも安らぎも、快も不快もない、どこかに空いていた隙間が、
   その一瞬に埋められたような感覚だった。
   小生は何もわからなかった。
   母であった女に連れられ、名のある霊能者に会うまでは。」

浅黄「詳しい話は私も初めて聞くんだけど、萌ちゃんは狐さんに憑かれたんだよね?」

萌「うむ。出歩いた際、たまたま霊能力を持つ女とすれ違った。
   曰く、『子供に強力な妖狐が憑いている』と。
   狐憑きと言われては、良い印象を持つ者もあまり居ない。
   母だった女は、狐を取り除いてほしいと頼んだ。
   だが、小生に憑いた狐はあまりにも強大過ぎて、
   逆に霊能者を殺してしまった。」

緋凪「殺した?力を持っていた人を、ですか?」

浅黄「返り討ちにあったってこと!?」

新参屋「そん時の霊能者が、アホみたいに術を使っちまったんだろう。
   強すぎる術は負荷も大きい・・・・・っつーより、
   霊能者は跳ね返された術を防ぐ、あるいは無力化するだけの力がなかった。
   だから、狐の霊を除霊するどころか、自分で自分を殺しちまった、ってところか。」

浅黄「うわぁ・・・悲惨だけど、なんか同情しづらい・・・」

萌「自信を以て挑んだ霊能者が死んだことで、母だった女は病んでしまった。
   幼い小生は何も理解できず、女の喚き声や八つ当たりさえなければ、
   非常に恵まれた人生があったと言えよう。
   ケガや病といった不運もなく、運を試せば良い結果がもたらされる。
   強いて不運なことと言えば、母だった女が騙されたことか。」

緋凪「騙された?狐に、ですか?」

萌「否、狐は小生の口を使わなかった。
   まぁ、霊能者を殺した頃から、声は聞こえていたがな。
   元より父なる男もいなかった小生には、狐は多くの知識を与えてくれる師であった。」

浅黄「じゃあ、誰がお母さんを騙したの?」

萌「自称霊能者。なんの霊能力も知識も持たない、狡猾な人間よ。」

新参屋「特区の外じゃ珍しくねぇらしいからな。
   そういう悪徳商法ってやつ?特区でやったら重犯罪だ。」

緋凪【確かに。霊能力や特殊能力を謳う人間は存在した。
   もちろんそれを詐欺に利用する人間も。
   但し、その性質上胡散臭かったり現実味がなかったりすることから、
   引っかかる人もそれほどいなかったと思う。
   少なくとも俺の周りには、詐欺師が存在した覚えすらない。】

萌「霊能者を騙る人間は、除霊と称して小生を殴るように言った。
   母だった女は、その自称霊能者と共に小生を殴り、狐の霊を追い出そうとした。
   だが、なんの霊能力も持たない人間が小生を殴ろうとも、
   霊体まで被害が及ぶわけもなく。
   衰弱するだけだった小生は家を飛び出し、やがて飢えて動けなくなった。」

浅黄「ちょっ、それ何歳の時!?萌ちゃんが死にかけたとか初耳なんですけど!?」

新参屋「落ち着け浅黄。詳しい年齢まで覚えてるわきゃねぇだろ。」

浅黄「だってさぁ!!!」

萌「詳しい齢(よわい)は覚えていないが、少なくとも十(とお)は過ぎていた。
   いや、むしろ十になったばかりだったかもしれん。
   倒れた小生に、狐は言った。
   『永遠(とわ)の呪いか、刹那の終わりか』。
   当時の小生には、狐の言う小難しい言葉が分からなかった。
   ただ、狐が何かをしようとしていることだけはわかった。
   小生は答えた。
   『貴殿の望むものを。』と。」

浅黄「そ、それでそれで?どうなったの?」

新参屋「お前は落ち着けって。」

萌「気が付くと小生は、あらゆる知識や術を会得していた。
   身体の傷は癒え、飢えはなく、生きることに対する不安が消えていた。
   だが、小生は涙を流していた。
   ・・・狐が消えてしまったことを理解できた。
   寂しさと悲しみこそあれ、それで立ち止まるほど小生は、もう弱くなかった。
   狐は自らの自由を代償に守護霊となり、己の知識・力・術・そして時間を、
   呪いとして小生に譲渡したのだ。」

緋凪「っ!では、萌さんは、やはり人間・・・・・」

萌「元は、という方が正しい。」

緋凪「え?」

萌「小生は確かに人の形(なり)をしているが、その性質は妖に近い。
   かと言って妖かと問われれば、生い立ちは間違いなく人間であり、
   狐の力を得た後、僅かながら身体が成長した。
   こちらも是(ぜ)とは言いがたい。
   『永遠(とわ)を生きる呪いをかけられた人間』、『人間のような妖』など、
   表現が一様に定まらぬ。
   ・・・ゆえに小生は、ただの人間とも言えず、ただの妖とも言えぬ存在だ。」

緋凪【萌さんは、終始穏やかな笑顔のまま、自らについて語った。
   一概にどちらと定義することのできない存在であることに苦はないのだろうか。
   人から妖になった俺と違って、どちらとも言い難い、非常に曖昧な状態。
   そんな状態で、萌さんはずっと・・・・・】

新参屋「特区に来たときゃぁ驚いたぜ。
   見た目はただのガキのくせに、そこらの物知りジジィより達観してんだから!」

萌「万商店街という存在は、外を渡り歩いている時に噂で聞いた。
   小生ならば住まうことができると知り、己の足で赴いた。
   初めこそ街中をふらふらしていたものだが、
   今はこうして居を構え、隠居するように引きこもっている。」

浅黄「私が来る前は割と出歩いてたんだ。・・・・って、あれ?
   おじさんが知ってるってことは、萌ちゃん、長くここにいるわけじゃないの?」

萌「どれほどの時間を『長く』と定義できるかは知らんが・・・・・そうだな。
   見積もって半世紀ほどはここにいる。」

新参屋「おい待て。俺が死にかけたのは半世紀前なんだから、80年は固ぇぞ?」

緋凪「・・・・・え!?」

浅黄「80年!?それにしてはおじさん若すぎるじゃん!
   子供だったとしてもそれはない、絶対ありえない!」

新参屋「うるせぇ!しょうがねぇだろ、俺の体質なんだからよぉ。
   ここまで年取るの苦労したんだっつーの。」

浅黄「え〜・・・」

新参屋「疑念の眼差しを向けんな浅黄。
   『常坂(ときさか)』って名前が災いして時間遡行体質になったとか笑えねぇんだよ。
   起源?だかなんだかっつーのが確立されちまって、
   ようやっと30歳まで年取ったかと思えばいきなり若返ってくんだぞ?
   しかも10年で20歳分な」

浅黄「え゛」

緋凪「たった10年で、10歳に逆戻りですか?」

新参屋「そういうこった。まぁそれも相談屋になんとかしてもらったけどな。
   その頃からの付き合いだから、狐のこととかも聞いてた。」

萌「人の性質は、客観的に見れば偶然により変わってしまう。
   運命・必然といった言葉で一括りするのも乱暴といえるが。
   貴殿らの性質も、小生や新参屋のように、『偶然』そうなってしまったと言える。」

浅黄「あ・・・・・そう、だね。確かに。」

緋凪【俺が人から鬼になった事、浅黄さんが強力な神通力を生まれ持った事。
   不運とも言えるそれらは、確かに客観的には偶然だ。
   この特区には、不思議で、不運で、偶然が重なった存在が集まっている。
   けれど、今彼らが穏やかに笑って過ごせるのは、
   万商店街と呼ばれる此処が、本当に良い場所だから。
   悪いことが1つも起きないわけではないけれど、
   穏やかに、平和に暮らせるから。】

萌「『或る狐在りて、人の子に呪いをかけしその狐、名を空狐(くうこ)と申す。』
   3000年以上生きた妖狐を、空(そら)の狐と書いて空狐という。
   小生に憑いた狐はそれを自らの名前として称していた。
   空狐の声はもう、小生には聞こえぬ。
   されど、空狐がいたことは、小生の存在が証明してくれる。
   永遠(とわ)の呪いが続く限り、途絶えることなく。」

緋凪【今日は、特区のことと、それと・・・・・。
   萌さんのことを、少しだけ知ることが出来たと思う。
   本当に、少しだけ。】



浅黄「『こちらは相談屋です。』次回は、『第5話 神事仕(つかまつ)るは』」

緋凪「新参屋さん。一度若返ったということは、今の年齢はおいくつなんですか?」

新参屋「あ?んっと、三十路から10年で10歳に戻って、
   そっからまた年取って40歳だろ〜?
   あ〜でも邪気とか瘴気とかに当てられる度にちょいちょい時間遡行してるからなぁ」

浅黄「おじさんの体質、自分で操れるんだね」

新参屋「まぁな。つっても相談屋のおかげだが。
   自分が感じてきた時間をまるごと戻す感じだから、
   何かに触って呪われた時とかはすっげぇ便利!」

緋凪「触って・・・・・もしや、先ほどの木箱に入った呪物も?」

新参屋「あ〜、まぁそうなる。
   てか、ああいうのは1度や2度じゃねぇからな。はははは・・・・・」

萌「此度の事。『2度あることは3度ある』」

新参屋「3度どころか、3桁突入してんじゃね?」

萌「フッ、かもしれん。」

浅黄「(小声)この二人、本当に何歳なんだろう・・・?」



To be continued.





〜ちなみに俺の台本は3桁越えてます\(^o^)/〜
どうも、犯人です。
長くなりましたが、萌の過去の話+αですた。
ただの人間・ただの妖は、彼らの住む万商店街・通称『特区』にはあんまりいません。
それぞれが抱えるモノ、言うなれば『裏』の存在を主張できていれば幸いです。
まぁただの犯人なら俺がいるんですが、よかったらどうぞ。
		






   
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