こちらは相談屋です。 第3話 人を呪わば


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<登場人物>
久世 萌(くぜ もゆる):
 相談屋を営む少年。見た目は実年齢よりも幼く、名前や外見から性別も間違われがち。
 普段は怠惰に生活しており、生活能力はあまりない引きこもり。
 余裕ゆえにまったりした性格と古風な口調で騒ぐのが苦手。

炬炉(ころ):
 人の成りをしているが、その正体は妖怪「古籠火(ころうか)」。
 普段は相談屋の前にある石灯籠になっており、人型になると長身の美女となる。
 やや話し方がぎこちないクールビューティー。

吉川 浅黄(よしかわ あさき):
 特区に住まう女子高生。いつもセーラー服姿で相談屋に通い詰めている。
 いいところのお嬢様だが、口調や嗜好面において庶民派を主張している。
 明るく元気で真っ直ぐな行動派の一般人。

鬼灯 緋凪(ほおずき ひな):
 齢18歳の絶世の美男で、元人間。黒髪と赤い眼を持つ。
 穏やかで優しく押しに弱い性格だが、妖力が枯渇すると静かな狂気を見せる。
 特区に慣れるまで、相談屋で働くことになった。

西寺 凛(にしでら りん):
 常に作業着を着ている土方の男だが、正体は妖怪「経凛々(きょうりんりん)」。
 ぶっきらぼうでやや口が悪い反面、困っている人を放っておけない。
 但し、誰かを呪うことに関してはよほどの理由がない限り頼まれてもやりたがらない。



※「」:通常セリフ/【】:ナレorモノローグ
 劇中に出てくる難読単語の振り仮名集はこちら

!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



緋凪【万(よろず)商店街、通称『特区(とっく)』。
   専門業を営む店が多く並び、大型スーパーやコンビニ、高層ビル等々、
   現代における都会的な建築物が存在しない。
   全体的に古めかしい外観を持つ店ばかりで、特区内の高低差も殆どない。
   そんな場所に、今日は大きな雄叫びが上がった。】


浅黄「『第3話 人を呪わば』」


[相談屋・外。石段を勢いよく駆け上がってくる凛。]

凛「(遠くから)うおおおおおおおお相談屋ぁああああああああああああああ!!!!!」

炬炉「やかましいわ!」

凛「のぅわぁあああああああちちちちちちち!熱っ、熱いっつってんだろがッ!!!」

炬炉「燃やしてやらんと黙らぬ貴様が悪い」

凛「てんめぇ・・・!」

浅黄「あれ?炬炉ちゃん、お客さん?」

炬炉「いや、迷い子だ」

凛「違ぇよ!客だ客!」

浅黄「って、なぁんだ、凛ちゃんじゃん!やっほ〜!」

凛「ちゃん付けで呼ぶな浅黄!」

緋凪【ある日の昼過ぎ、嵐のようにやってきたその人。
   俺が相談屋に雇われてから、初めての妖のお客さん。
   石灯籠(いしどうろう)の姿で眠っていた炬炉さんとは、どうやら面識があるらしい。】

凛「てか、てめぇらと話しに来たんじゃねぇ。相談屋の旦那、今いるか?」

緋凪「萌さんなら先ほど、入浴に行ったばかりで・・・」

凛「あぁ!?こんな時間にか!?」

炬炉「黙れクソ経文。主人が気分屋なのは貴様も承知のはずだ。」

浅黄「あちゃ〜、せっかく苺持ってきたのにぃ〜」

緋凪「あ・・・えっと、お客様でしたら、店の方でお待ちいただけますか?
   萌さんには、俺から伝えに行きますので。」

凛「お、そりゃあ助かる。て、見慣れねぇ顔だな?新入りか?」

緋凪「は、はい。鬼灯緋凪と申します。」

凛「緋凪ぁ?なんか女々しい名前だな」

炬炉「貴様もだろうが、『リンリン』」

凛「ばっ、人としては西寺凛って名乗ってんだよ!リンリンとかどこのパンダだ!?」

萌「やれ、何やら騒がしいと思えば、久しい顔が見えている。」

緋凪「あ、萌さん!」

炬炉「主人・・・髪はきちんと乾かせと、浅黄から言われていたはずだが?」

浅黄「あ〜!萌ちゃん、風邪引いちゃうでしょ!?髪乾かすまで苺お預けだよ!?」

萌「む、それは困る。とは言え、目の前に客人が来ているゆえ、
   どちらにせよ立ち話はここまで。全員店に入るといい。」

凛「おう、邪魔するぜ。」

炬炉「ホントに邪魔だな」

凛「あぁ!?なんか言ったか!?」

浅黄「炬炉ちゃん!喧嘩売らないの!」

緋凪【なんだか不機嫌な炬炉さんと、少しぶっきらぼうな凛さん。
   そして、相も変わらずマイペースな萌さんに、元気な浅黄さん。
   今日は一体、どんな一日になるのやら。】



間。



[相談屋・店内。]

炬炉「主人、せめて『自分でやる』という選択肢は用意すべきだと思う」

萌「雇い主権限というものがあってだな」

浅黄「ふふっ、最近変なことばっかり覚えてるね。
   あ、コンデンスミルク使うでしょ?」

萌「無論。」

炬炉「・・・小皿持ってくる。」

凛「なんだかんだでお前も動くじゃねぇか」

炬炉「うるさい。」

緋凪【全員相談屋の中に入り、浅黄さんが持ってきてくださった苺を頂いた。
   萌さんの大好物だそうで。
   食べやすいように、前もってヘタの部分が切り取られている。
   俺が萌さんの髪を乾かしている間、萌さんは嬉しそうに、
   爪楊枝で苺を刺し、コンデンスミルクを付けてから口へ運んでいく。】

萌「して、久方ぶりに来訪されたが・・・・・よく面倒を拾うものよ、『経凛々』。」

凛「好きで拾ってるわけじゃねぇよ、ったく。」

浅黄「それで凛ちゃん」

凛「ちゃんって付けんな!」

萌「(わざとらしくゆっくりと)『凛ちゃん』」

凛「ぐっ!?」

萌「ククッ、愉快愉快。」

凛「だぁああああもう!いいから本題だ本題!」

緋凪【お客様である凛さん。どうやらかなり弄られやすい体質のご様子。
   しかし、いざ相談となると、萌さんたちも真剣な表情になった。】

凛「呪符を剥がすの、手伝ってほしい。」

浅黄「呪符?」

炬炉「貴様、誰かを呪ったのか?」

凛「違ぇ、俺じゃねぇ。俺の勤め先のおやっさんが呪われちまって、それで・・・」

緋凪「呪われたことが、わかるんですか?」

萌「経凛々とは、西寺(にしでら)の僧・守敏(しゅびん)が捨てた経文が付喪神となったもの。
   東寺(ひがしでら)の僧・空海との法力(ほうりき)比べで敗れた守敏の怨念が取り付き、
   以前は人を呪い彷徨っていた。」

浅黄「だから、凛ちゃんは法力と呪いのスペシャリスト!ってとこかな」

緋凪「なるほど。」

炬炉「貴様の法力では払えんのか?」

凛「それが、ベッタリくっついちまってるもんだから、一度弱らせねぇと。
   ありゃあ三日三晩燃やしたって剥がれねぇよ」

浅黄「となると、まずは妖術とか呪術とかの力をどうにかしないと、だね。
   確かに他のお店には頼みにくい話かも」

凛「悩んでる間にも、おやっさんの容態は悪化の一途をたどってる。
   時は一刻を争うんだ、頼む!」

炬炉「凛の法力で抑えられているとはいえ、侮れんな。
   ・・・面倒だが、主人、どうする?」

萌「うむ。報酬は、苺でももらおうか。」

凛「って今食ってんじゃねぇか!・・・・・わぁったよ。それで頼む。」

緋凪【一瞬、俺も凛さんと同じ指摘をしてしまいそうだった。
   どうやら萌さんは、凛さんの依頼を引き受けることに決めたらしい。
   そしてこれが、俺の初めての仕事になる。】



間。



萌「相談屋の仕事は3つ。
   1つ、客の話を聞くこと。
   1つ、客の悩みに助言をやること。
   そして最後が、客の悩みを解決すること。」

炬炉「当然、実際の解決ともなれば、報酬は跳ね上がるがな。」

緋凪「普段はお話を聞くだけですから、いつもの浅黄さんのように、
   お店にある小さな賽銭箱に入れられる100円が相談料、ということですよね?」

浅黄「そうだよ〜。だから、今回みたいなお仕事は、報酬いっぱい!」

炬炉「主人は気紛れだからな。報酬は大金やら着物やら苺やらと、一貫性がない」

緋凪「なるほど。それで先ほどの要求だったんですね。」

炬炉「さて主人。如何にして呪符を剥がす?」

萌「経凛々、呪符は何処(いずこ)に?」

凛「あぁ、これだ。おやっさんに許可もらって持ち出してきた。」

緋凪【そう言うと、凛さんは懐から金槌を取り出した。
   持ち手の部分は比較的真新しい木に見えるが、
   頭の鉄は使い古されているようで、所々に傷がある。
   木を交換してまで使われていることから見ても、
   長く愛用し、大切にされていることは容易に想像できた。】

凛「たぶん、同業のヤツがやったんだろうと思う。
   おやっさんの夢に、金槌を持った男が出てきたらしいから。
   あぁあと、呪符の種類は痩身呪符だ。」

浅黄「そうしん?」

炬炉「身が痩せてゆく呪符だ。人の肉が落ちていく。生気も吸い取られるぞ」

緋凪「なぜそのような呪符が使われたのでしょうか?」

萌「肥えるより痩せゆく方が、人を弱らせる。
   必要以上に呪符の力を働かせて、衰弱させるのが目的だろう。」

浅黄「普通に剥がせそうだけど・・・ダメなの?」

凛「人間や弱い妖が触れりゃあ、妖力奪われて終わりだ。
   完全に剥がす前にこっちがやられる。
   かと言って、相談屋の旦那みたいな強い奴が無理やりやると、
   呪われてる物まで破壊しちまう。」

炬炉「なら、その金槌ごと処分すればいいだろう。」

凛「それはできねぇ!こいつぁ・・・おやっさんの爺さんに当たる人の形見なんだ。
   ほらここ、ちゃんと銘が刻んであるだろ。
   持ち手の木はどうしてもボロボロになっちまうから換えられてっけど、
   これだけば大事にされてきてんだ。
   持ち手ならいくらでも換えられた、けど頭の部分はダメだ。
   これだけは捨てられねぇ。」

萌「ふむ。呪符は持ち手だけでなく、金槌の頭から貼られている上、妙な結界が見える。」

浅黄「結界?」

萌「この痩身呪符は、金槌に込められた念を糧に結界を張っている。厄介だな。」

緋凪「念が、厄介なんですか?」

炬炉「長年使われてきた物は、込められた念より自我を持ち、妖力を得て付喪神となる。
   この道具は、持ち手を変えられてもなお大切に扱われてきた。
   付喪神となるのも時間の問題だったところに呪符を貼られ、
   念、すなわち力を吸い取られているようだ。」

浅黄「じゃあ、呪符自体に力は・・・」

萌「そこまで大きな力はない。ただ、『根が深い』と言えばわかるな?」

浅黄「ええっと・・・あ、寄生虫!みたいな?」

萌「虫は苦手だが・・・・・まぁそれであながち間違いではない。」

緋凪「つまり、金槌に宿る妖力が強いため、呪符を弱らせるのが難しい、と?」

浅黄「おぉ、なるほど!」

萌「だが、呪符自体は所詮素人の作ったもの。
   ならば、腹を膨れさせてやれば油断の1つや2つを見せる。」

浅黄「どうするの?」

萌「・・・緋凪、お前の初仕事だ。」

緋凪【唐突に振られた、呪符を剥がすという仕事。
   しかし、今までの話を聞いていても、俺が呪符を剥がせるとは思えなかった。
   妖力の高い金槌に貼り付いている、燃やすことのできない呪符を、
   素手で剥がせるわけがない。
   混乱を覚えたのは、もちろん俺だけではなかった。】

凛「おいおい、こんなヒョロいヤツに何ができるんだよ?」

炬炉「ガタイだけが取り柄の阿呆は黙っておけ」

凛「あぁ!?」

浅黄「喧嘩しないの!もう。」

萌「緋凪、金槌に貼られた呪符を剥がせ。それだけなら素手でもできる。」

緋凪「は、はぁ。」

凛「ちょっと待った!んなことしたら・・・・・!」

萌「(さえぎるように)炬炉、完全に剥がれきった瞬間に呪符を燃やせ。」

炬炉「!・・・御意。」

浅黄「大丈夫、なの?なんか強硬手段に見えるんだけど」

萌「半ば無理やり、というのが正しい。だが、最も被害が小さく、
   依頼人との利害関係を鑑みれば、最良の選択と言える。」

緋凪「萌さんが仰るなら、ご協力します。しかし、剥がすだけでいいんですか?」

萌「あぁ。とにかく剥がせ。完全に剥がさねば意味がない。」

緋凪「わかりました。やります。」

凛「っ、相談屋の旦那が言うなら、やってもらうしかねぇか。」

緋凪【凛さんは、萌さんが何をしようとしているのかを察しているらしい。
   とはいえ、任せられた仕事、とにかく呪符を剥がしてしまうほかない。
   金槌を持ち、呪符へ手を伸ばす。
   指先が近づくにつれ、ピリピリとした感覚を覚える。
   剥がれかけていた呪符の端を掴んだ、その瞬間。】

緋凪「ぅぁ!?」

浅黄「緋凪ちゃん!」

萌「狼狽えるな、そのまま引き剥がせ」

凛「早くしろ!お前の身体がもたなくなる!!!」

緋凪【酷い眩暈に襲われ、視界が、頭がクラクラする。
   呪符を掴む指先の感覚がなくなっていき、手が震えだす。
   しかし、手は呪符から離れず、まるで俺の指に貼り付いてしまったようだ。】

萌「緋凪、意識を手放すな。まだ腕は動く。そのまま引けば良い。」

緋凪「くっ、ぅ・・・ぁ・・・・・!?」

浅黄「緋凪ちゃん!頑張って!」

凛「ちぃっ、やっぱりこれじゃあ・・・!」

炬炉「黙れ経凛々、もう少しだ!」

緋凪「ぅぐ・・・・・ぅぁぁあああああ!!!」

浅黄「ぁ、剥がれた!」

萌「炬炉」

炬炉「御意に!『燃え朽ちろ!呪いと共に灰となれ!』」

緋凪「っはぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ・・・っ!」

浅黄「緋凪ちゃん!」

凛「待て!妖力が枯渇してる、迂闊に近づいたら・・・・・」

萌「なぁに、問題ない。想定通りの事態よ。」

緋凪「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・ぁぁぁああああ!!!」

萌「っ!」(押し倒される)

凛「旦那!」

炬炉「動くな、緋凪の力は弱い。」

凛「けど、飢餓状態の妖は・・・!」

緋凪【喉が乾いた、腹が減った、頭がボーっとする。
   何か、空っぽになった俺を満たす何かが、欲しい。】

萌「・・・案ずるな。貴殿を満たすモノはここにある。
   安心しろ、逃げも隠れもしない、お預けもない。
   思う存分、食らえばよい。」

緋凪【食らう・・・・・そうだ、食らう。
   何を?どうやって?どうすれば、満たされる?】

萌「雛鳥は親より、餌を奪い取るように貪り食らう。
   食らうためには、皆同じものを使う、鳥も人も、妖も・・・んっ・・・・・」

凛「な゛っ!?」

緋凪【声が聞こえるたびに、甘い匂いがした。
   そうだ、これが欲しい、これが俺を満たしてくれる。
   貪り食らう、深く、より深くまで、欲しがる。】

萌「んむっ・・・ぅ・・・・・ん・・・ぁ・・・・・」

浅黄「(赤面して)わぁ〜・・・//////」

緋凪【甘い、甘い、極上の味。それに混じって何か、また甘い味がする。
   果物?これは、そうだ、イチゴ・・・苺?苺って、確か、萌さんが・・・・・】

萌「ぷは・・・・・ふぅ。しっかり飢えていたのか、遠慮なく食らえたようだな。」

緋凪「あ、あぁ・・・ああああああ・・・・・うあああああああああああああああ!!!」

凛「うわぁ、すっげぇ可哀想。主に公開処刑的な意味で」

炬炉「緊急事態だったからな。確かに被害も最小限で済んだ。」

浅黄「(恥ずかしさで赤面しながら)けけ、結構、濃厚なキス、しちゃうんだ、ね・・・」

炬炉「より内側から奪えば、質の高い妖力が手に入る。」

浅黄「へ、へぇ〜・・・・・」



間。



[相談屋・店内。]

炬炉「・・・・・して、主人はどうした?」

浅黄「眠たそうにしてたけど、凛ちゃんにおんぶされてどっか行っちゃった。」

炬炉「ふむ、呪いの様子を見に行ったか。まぁ念の為、だろうが。」

浅黄「ねぇ炬炉ちゃん。萌ちゃんってどうやって呪符を剥がそうとしたの?
   殆ど打ち合わせ無しに強行突破した感じがしたんだけど」

炬炉「なぁに、呪いの性質を利用しただけだ。簡単なこと。」

浅黄「性質?」

炬炉「素人の作った呪いは単純で、なおかつ返しやすい。
   『呪い返し』とは、その呪いを、術者自身へ返すことにより終わらせる手法。
   これは強力な術者の呪いでない限り、比較的容易に行える。
   人間の言葉にも、『人を呪わば穴二つ』などという古い言葉があるだろう?
   馬鹿な術者は、呪いを自らと繋げていないと上手く術を維持できない。」

浅黄「じゃああの呪符も、呪いをかけた人と繋がってたってこと?」

炬炉「そういうこと。痩身呪符は、呪った相手の生命力を吸い取る。
   その吸い取った生命力はどこへ行くか。」

浅黄「あ・・・・・術者が間接的に奪ってたんだ!」

炬炉「おそらくはな。だが、少しずつ吸い取っていたはずの力が、
   許容以上の勢いで一気になだれ込んで来たら?」

浅黄「ええっと・・・おなか、いっぱい?」

炬炉「向こうが吐き気を催す、つまりは、吸収しきれず呪符が機能しなくなる。」

浅黄「そっか。緋凪ちゃんの妖力をいっぱい食べさせて、動けなくさせたんだ。
   でも、危なかったよ?また緋凪ちゃん、萌ちゃんの事襲ってたし。」

萌「緋凪だからこそ、あの呪符を剥がすのに使った。
   吸収が早く、即座に妖力を回復できる手段を持っていたゆえに。」

浅黄「あ、萌ちゃん!おかえり!」

凛「おろ、緋凪はどうした?」

浅黄「あ〜・・・顔を真っ赤にしたまま、引きこもってる。」

萌「フッ、無理もない。食事に夢中になって、周りが見えていなかったのだからな。」

凛「相談屋の旦那、もう少し世間体とかっての、気にしてやれなかったのか?」

萌「余計な情報や緊張を与えぬために事を急いだ。
   あれは人間から鬼になった者、より人に近い存在と言える。」

凛「・・・そういうアンタこそ、自分の妖力を食わせるなんて、命張りすぎだろ。」

炬炉「確かに。いくら主人の妖力が絶大と言えど、限りはあるぞ。」

萌「死にはしないとわかっていた、それゆえの餌付けだ。」

浅黄「え、づけ・・・・・・あ、どこ行くの?」

萌「少々緋凪の様子を見にな。夕餉の支度は任せたぞ。」

炬炉「わかった。」



間。



[相談屋・店内奥。自室で頭を抱える緋凪。]

緋凪【また、やってしまった。
   いくら不本意な飢餓による暴走といっても、
   そろそろ自分で抑制できるくらいにはと思っていたのに。
   ましてや、浅黄さんや炬炉さん、初対面の凛さんの目の前で、あのような・・・】

萌「緋凪」

緋凪「ぅわ!?」

萌「随分と塞ぎ込んでいるようだが、具合でも悪いか?」

緋凪「いいいいいいいえ、だだ、大丈夫です!」

萌「そうか。ならばよかった。ククッ」

緋凪【萌さんは、初めて会った時からこの笑顔だ。
   焦りや躊躇い、緊張、わだかまり、壁、距離、そういったものが殆どない。
   常に余裕のある笑顔を浮かべ、こちらの動揺すら手玉に取っているようだ。】

萌「呪符は無事に灰と化した。呪いは術者へ返り、呪われた者もじきに回復するだろう。」

緋凪「呪いが、返った?」

萌「呪いの根源たる呪符が壊れた以上、呪いは術者へ返る。
   『人を呪わば穴二つ』、呪いの代償は大きい。」

緋凪「・・・・・なぜ、呪ったのでしょうか。呪うほどの恨みを、どうして・・・」

萌「人は呪って生きるものだ。他人、物、果てには己の命をも。
   呪いは己の中で膨れ上がり、やがて外に出る。
   此度の呪いも、外へ出たモノが元へ戻った。
   緋凪、呪うことすべてが悪いとは言えぬゆえに、
   此度のことも、貴殿が気に病むものではない。」

緋凪「萌さん・・・」

萌「呪うと言えば、散々飢えさせては貴殿に餌付けし、貴殿を辱める小生こそ、
   これから何度、貴殿に呪われることやら。」

緋凪「ハッ!?」

萌「ククッ、呪いとはそういうものだ。覚えておくといい。」

緋凪【人は呪う、生きている中で、小さくても、何度も、誰かを、何かを。
   それが日常であることを、萌さんは教えてくれた。
   『人を呪わば穴二つ』。
   きっとその穴は、自分の足元に作られた穴の方が、
   相手を陥れる穴よりもずっと、大きくて深いものに違いない。】



浅黄「『こちらは相談屋です。』次回は、『第4話 或る狐在りて』」

凛「なぁ、緋凪って妖力消耗するたびに旦那とキ、キス、してんのか?」

炬炉「お前、見かけによらず初心(うぶ)だな」

凛「ううううううるせぇ!おまっ、だ、お、男同士、だぞ!?」

浅黄「凛ちゃん、もしかしてそういう経験があったり・・・?」

凛「そ、んなこと、ねぇよ!」

炬炉「先ほどから目が泳いでいる。」

浅黄「ふふっ、凛ちゃん可愛い〜♪すっごくキョロキョロしてる〜!」

凛「べべ、別に、お前らが考えてるようなことはねぇから!絶っ対ねぇからな!?」

萌「此度の事、『目は口ほどに物を言う』。」

凛「な、だだ、旦那!?誤解を生むような発言はよせ!やめろぉ!!!」



To be continued.





〜(^ω^三^ω^)〜
どうも、犯人です。
妖台本3話目、でしたッ!
ヤバい、経凛々が上手く使いこなせてなかった感・・・orz
単発キャラで終わらせてやらないからな!な!(`;ω;´)
相も変らぬ諸行の取り入れは健在ですが、よかったらどうぞ。
		






   
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