<登場人物> 久世 萌(くぜ もゆる): 相談屋を営む少年。見た目は実年齢よりも幼く、名前や外見から性別も間違われがち。 普段は怠惰に生活しており、生活能力はあまりない引きこもり。 まったりした性格と口調で騒ぐのが苦手だが、やや子供っぽい嗜好を持つ。 吉川 浅黄(よしかわ あさき): 特区に住まう女子高生。いつもセーラー服姿で相談屋に通い詰めている。 いいところのお嬢様だが、口調や嗜好面において庶民派を主張している。 明るく元気で真っ直ぐな行動派の一般人。 鬼灯 緋凪(ほおずき ひな): 齢18歳の絶世の美男で、元人間。黒髪と赤い眼を持つ。 穏やかで優しく押しに弱い性格だが、妖力が枯渇すると静かな狂気を見せる。 特区に慣れるまで、相談屋で働くことになった。 ※「」:通常セリフ/【】:ナレorモノローグ 劇中に出てくる難読単語の振り仮名集はこちら⇒ !━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━! 緋凪【万(よろず)商店街、通称『特区(とっく)』。 専門業を営む店が多く並び、大型スーパーやコンビニ、高層ビル等々、 現代における都会的な建築物が存在しない。 全体的に古めかしい外観を持つ店ばかりで、特区内の高低差も殆どない。 そんな場所の、一番高い位置にある店で、俺は働くことになった。】 浅黄「『第2話 人と妖と』」 [相談屋。] 緋凪【新たに名前を与えられて、雇われてからおよそ一週間が経過した。 俺の主な仕事はおつかいと掃除、そして家事手伝い。 今日も今日とて、簡略化された地図を頼りに買い出しへ。 特区内では際立って高所にある相談屋までは、 少し長い石段を登って行く必要がある。 元々神社があったらしいその場所には、悪い妖が来づらいのだという。】 萌「おかえり、緋凪。思ったより遅かったが、少し迷ったか?」 緋凪「はい。ここを下りたら、どこも似たような景色ばかりで・・・」 萌「まだ見慣れぬ町、迷うのも仕方あるまい。 店の看板を注意深く見ておくといい。 どれもこれもきちんと特徴がある。」 緋凪「看板、ですか。」 萌「特区では、看板は店の評価に等しい。 全ての看板は看板屋が作っているゆえ、良い店ほど装飾も多彩。 この相談屋もまた然り。」 緋凪【俺の雇い主・相談屋の主人である萌さんの言う通り、 相談屋の看板は細かな装飾の施された豪華な看板だ。 豪華であればあるほど、腕のいい仕事人がいる証拠というわけらしい。】 浅黄「こんにっちは〜!遊びに来たよ〜!」 緋凪「浅黄さん、こんにちは。」 浅黄「緋凪ちゃん!こんにちは!っとと、100円100円・・・・・っしょっと!」 緋凪【元気よく入ってきたのは、相談屋の常連・浅黄さん。 人間のお嬢さんで、ほぼ毎日相談屋にやってくる。 年下で人間だと判明しているせいか、彼女とはもう仲良くなれた気がする。】 萌「学校はどうだ?また妙な儀式でもやっていないといいが。」 浅黄「さすがにあれは超しょっ引かれてたよ〜。 周囲にいた善良な妖まで怒らせちゃってたから大騒ぎ。 似たような儀式をやろうとして、式神作れる先生にお仕置きされてたもん。」 萌「何事も、遊び半分でやってはいけない。思わぬ災いを招きかねん。」 浅黄「ふふん、私は萌ちゃんとお話しできるから、下手に突っ込まないも〜ん♪」 萌「それならば良い。」 緋凪【浅黄さんは、相談屋に来るたび、 入り口付近に置いてある小さな賽銭箱に100円を入れ、 萌さんが座っている座敷に腰かけ、談笑していく。 相談屋とは、文字通り相談に乗るのが仕事。 話の長さや種類に関係なく、相談料は100円らしい。】 浅黄「あ、緋凪ちゃん緋凪ちゃん。興味本位なんだけど、聞いてもいい?」 緋凪「はい、なんでしょう?」 浅黄「緋凪ちゃんって、元は人間だったんだよね?」 緋凪「そう、ですが」 浅黄「じゃあ、鬼としての力って、使えないの?」 緋凪「う〜ん・・・使えないわけではないのですが・・・・・・」 浅黄「けど?」 緋凪「少し容姿が変わって、人より力が強くなるだけなんです。 何らかの術が使えたりとかっていうのはなくて。」 萌「ないわけではない。わかっていないだけだ。」 緋凪「っ、そうなんですか?」 萌「あぁ。緋凪は名の通り、妖としては未だ雛鳥。 妖力という餌も、与えてもらわねば上手く喰らえぬ。」 浅黄「萌ちゃんにとって雛鳥ぐらいだったから、 妖力も奪ったっていうより、与えてもらったってこと?」 萌「その通り。」 緋凪【鬼灯緋凪。それは、萌さんに与えられた、俺の名前。 緋凪という響きがなんだか可愛らしくて、少しくすぐったかった。 最初は、俺が思い出せたものに読みを当てただけかと思っていたけれど、 雛鳥と言われてしまっては、妙に納得してしまえた。】 浅黄「緋凪ちゃんは雛鳥ちゃんかぁ。 ふふっ、萌ちゃんを襲った時も、ちっちゃな反抗みたいだったもんね♪」 緋凪「あの、萌さんを襲った時の事、俺、よく覚えてなくて。 掴みかかったところまではかすかに記憶にあるんですけど、 俺はどうやって妖力を奪おうとしたんですか?」 浅黄「あ、あ〜・・・それは・・・う〜ん・・・・・」 萌「緋凪は吸血鬼という鬼を知っているか?」 緋凪「え、あ、はい。人や動物の血を吸って生きる鬼のこと、ですよね?」 萌「うぬ。緋凪はそれに似た鬼と言える。」 緋凪「!?」 萌「妖力は生命力に似て、食うことによりそれを補える。 万物の生き物は、口を使って物を食らう。 そして、妖力が出ていくのも、その殆どが口から。 すなわち口は、妖力を食らい、妖力を放つ重要な器官と言える。」 緋凪「あ・・・詳細までは覚えていませんが、 そのようなことを、言われた気がします。」 萌「小生が緋凪に教えた。 親から教えられねば、子は知識を得られぬゆえ。」 緋凪「で、では、俺は萌さんに、噛みついて・・・!?」 浅黄「かかか、噛みついてはいないよ!?うん、噛みついてはない。」 萌「接吻はされたがな」 緋凪「・・・・・・・・え?」 浅黄「あうぅ・・・それを言っちゃうかぁ」 緋凪「お、俺、まさか・・・まさか!?」 浅黄「あ〜、うん。緋凪ちゃん、萌ちゃんにキスしちゃってたん、だよね。」 緋凪「えぇえええ!?」 萌「フッ、随分愉快な反応だ。」 緋凪【衝撃は、かなり大きかった。 少年の姿をしている萌さんに、俺がキスしたと。 特区の外であれば、問答無用で警察沙汰だ、いろいろと人生が終了してるはず。 ましてや、一応性別的には、男同士ともあれば・・・その・・・・・】 浅黄「きき、キスして妖力を奪える妖も、いるんだ、ね!」 萌「食らい方はそれぞれ異なる。 緋凪、妖力が不足した時、何か感じなかったか?」 緋凪「感じたもの・・・よく覚えていないのですが・・・・・あ!」 浅黄「何、何かあったの!?」 緋凪「・・・甘い香りが、しました。萌さんから。」 浅黄「甘い香り?」 萌「緋凪は、妖力を嗅ぎ分けられるようだな。 中でも質の高い妖力は甘く感じる。 匂い自体は小生から感じられるものの、匂いの元はどこにあるやら、 小生に教えられるまでわからなかったのだろう。」 浅黄「あ、そっか。萌ちゃんが口を使えって言ったから、 お互いの口を介して甘い香りのするものを奪えるって思ったんだ」 緋凪「直接妖力を食らうために・・・・っ、恥ずかしい限りです。」 萌「雛鳥は親鳥から口移しで食わせてもらうものだ。 小生としては、肉を食われるよりよっぽどいい。 血の匂いはあまり好きでない。」 浅黄「そういう問題ナンダ・・・」 緋凪【心の中は、罪悪感よりも羞恥心でいっぱいになった。 これから先、何らかの原因で妖力が再び枯渇してしまった場合、 また誰かにキスをして妖力を奪ってしまうのだろうか。 ・・・・・不安と恥ずかしさが、募りに募る。】 間。 [夕暮れ時。眩しい夕陽が相談屋に入ってくる。] 浅黄「あ、もうこんな時間!帰らなくっちゃ!」 萌「宴か?」 浅黄「うん。お偉いさんたちが集まるの。いい顔しないとね♪」 萌「フッ、資産家の娘は大変だな。」 浅黄「ホントホント、一般人も学生も、それからお嬢様もやらなくちゃいけないからね〜。 それじゃ萌ちゃん、緋凪ちゃん、まったね〜!」 緋凪【空が綺麗な橙色に染まった頃、浅黄さんは相談屋を飛び出していった。 いいところのお嬢さんらしいが、普段の素振りからは到底想像がつかない。 元気で明るい、普通の女子高生に見える。】 萌「・・・おや。」 緋凪「?どうされました?」 萌「忘れ物だ。やれやれ、これを落とすとは珍しい。」 緋凪「あ、俺が行きますよ。まだ石段にいると思いますし」 萌「あぁ、頼む。」 緋凪【浅黄さんの忘れ物だというレモン色のお守りを受け取り、相談屋の外へ出た。 石段の方へ行って下を見ると、 ちょうど浅黄さんが慌てて引き返してきたところだった。】 浅黄「ぜぇ・・・ぜぇ・・・わ、忘れ物〜〜〜!!!」 緋凪「これ、ですか?」 浅黄「あ!それそれ!ありがと〜緋凪ちゃぁ〜ん・・・!」 緋凪「クスッ、大事なものなんですね。誰かから頂いたんですか?」 浅黄「うん!萌ちゃんに作ってもらったの!」 緋凪「萌さんに・・・・・」 浅黄「これがないと私、普通に生活できないレベルでヤバいんだよね〜。 落としたのが相談屋でよかったぁ〜!」 緋凪「生活できないレベル?浅黄さん、何か特殊な事情でも?」 浅黄「あ・・・・うん。ちょっとね。」 緋凪【すると、先ほどまでの元気な笑顔から一変、明るさを失った表情になった。 浅黄さんは、受け取ったお守りに視線を落としながら、再び静かに口を開いた。」 浅黄「私さ。・・・人間、嫌いなんだ。」 緋凪「!?」 浅黄「神通力って知ってる?まぁ、そこらへんの霊能力とおんなじ扱いされてるんだけど。 私、その神通力ってものが使えるんだ。 でも、力の強さが人とはだいぶん違うみたいで・・・ 子供の時から、他人の心が何でも見通せたの。 他心通(たしんつう)って言ってね、他人の心が常に丸見え状態。 しかもこの力、私じゃオフにできないもんだから、毎日人と会うのが辛かった。 見たくない部分を、たくさん見なくちゃいけなかったから。」 緋凪【人間の口から紡がれる言葉なのに、その端々に人間への憎悪が見られる。 浅黄さんは、どれだけ人間の闇を見せられてきたんだろう。 特区の外の人間を嫌悪していた自分にも、浅黄さんの気持ちは痛いほどわかる。 やがて浅黄さんは、吹っ切れたようにまた笑顔を見せた。】 浅黄「でもね、お父さんがここに連れてきてくれたんだ。 お父さんだけは、いつでも私の味方だった。 自分の心を見られても、私を気持ち悪いだなんて思わなかった。 それで、特区に引っ越してきて最初に行ったのが、萌ちゃんの営む相談屋だったの。」 緋凪「本当に、特区に来たばかりの頃から、ずっと通って・・・」 浅黄「うん!それでね?すっごく不思議だったんだ〜。 見た目は人間、それも少年の姿してるのに、萌ちゃんの心見えなかったの。 なんというか、薄い膜みたいな霧に包まれてる感じだった。 それから萌ちゃんお手製のお守りを作ってもらって、 誰の心も見えなくなるようにしてもらったんだ。 お守りさえあれば私の力は抑えられるから、 おかげで一応学校も通えてるし、人と接するのも大丈夫になったし!」 緋凪「毎日通っているのは、その頃からの縁ですか?」 浅黄「それもあるけど〜・・・やっぱ、まだ人間は苦手なんだよね。 萌ちゃんや妖と話している方が楽しいの!」 緋凪【喜怒哀楽のハッキリしている人だ。 『人間』という単語を出すたびに、彼女は表情を曇らせる。 反面、萌さんや妖に関する話は、嬉々として紡いでくれる。 妖にならずとも、人間と距離を置きたがる人間は、俺だけではなかったんだ。】 浅黄「あー!いいいいい急いで帰らなきゃおめかしする時間なくなっちゃう! 緋凪ちゃんまたね〜!」 緋凪「あ、はい、お気をつけて!」 緋凪【どうして人間は、本当に面倒なんだろう。】 間。 緋凪「浅黄さんにお守りを渡してきました。今、夕飯の支度を・・・っ!?」 萌「ん?緋凪?」 緋凪【相談屋に戻った瞬間、急に眩暈がした。 思わずその場にしゃがみ込む。 この感覚、一週間前のに、似ている・・・!?」 萌「あぁ、飢えたか。やはりあれだけでは足りなかったと見える。」 緋凪【萌さんの声が聞こえる。けれど、上手く視線を上げることができない。】 萌「先日の事、小生の与えた妖力が少なかったようだ。 美味いものほど、もてなされるのは微量なれば、 人間だった頃の価値観ゆえ、それで気分を満たしたつもりだったのだろう。 生きる糧としては、足りなかったな。」 緋凪【また、あの甘い香りがする。 萌さんが俺に一歩近づくたびに、萌さんが一言発するたびに。 その香りは強くなっていって、俺の理性が悲鳴を上げる。】 萌「堪(こら)える必要はない。貴殿の餌はここぞ。」 緋凪【そっと、俺の頬に添えられた萌さんの手が、俺の顔を上げさせる。 あぁ、この香りだ。 俺の飢えを満たしてくれる、最高の御馳走。 ダメだ・・・抑えられない・・・・・!】 萌「んっ・・・ぅ・・・・・」 緋凪【貪る。誰に奪われる心配もない。だから、じっくり、味わうように・・・・・】 萌「んん、っ・・・ぁ・・・・・」 緋凪【小さな、抵抗とも言えない抵抗をものともせず、 ただ、その唇を奪って、舌を・・・絡ませて・・・・え・・・・・?」 萌「っはぁ、ふぅ。腹は膨れたか、緋凪?」 緋凪「あ・・・あ・・・・・あああああああああああああああああああああ!!!」 萌「ククッ、やれ愉快。」 緋凪【正気に戻った時には、時すでに遅すぎた。 目の前には萌さんの顔があり、最初に認識できたのは、 萌さんと濃厚なキスをしたあの独特な感触の余韻。 今なら、顔から火が出せそうだ。】 萌「食欲は生きとし生けるモノたちの本能行動。 飢えれば食う、餌があれば食らいつかぬ獣はいない。 そして、腹が減ると動く気力も失せるものよ・・・」(緋凪の方へ倒れる) 緋凪「ぁ、萌さん!」 萌「ふむぅ。さすがに内(うち)から持っていかれると、それなりに消耗する。 夕餉まで、ちと寝ていよう。コタツまで運んでくれ。」 緋凪「は、はい・・・・・・その、すみません。」 萌「何を謝っている?餌付けをしたのは小生ぞ?」 緋凪「え・・・えづけ・・・・・」 萌「ククッ、では。しばし眠る。」 緋凪【自分の性質といい、浅黄さんの人間嫌いといい。 今日は身近なことを少し深く知りえた気がする。 俺自身は振り回されっぱなしなのに、萌さんはいつも余裕の笑みを浮かべている。 ・・・人と、妖と。 いや、人も妖も、いろんなものを抱えて、生きている。 人から妖になった俺にも、例外なんて、なかった。】 浅黄「『こちらは相談屋です。』次回は、『第3話 人を呪わば』」 緋凪「あぁ・・・まだ顔が熱い・・・」 浅黄「もしかして、萌ちゃんとまたチューしたの?」 緋凪「い、いえ、そういうわけでは!」 萌「緋凪、さっきから口元を触り続けているが?」 緋凪「それは、その、まだ萌さんとキスした感触がのこ・・・ハッ!?」 浅黄「ふふっ、やっぱりチューしたんだね♪」 緋凪「あ・・・あああ・・・・・!!!」 萌「ククッ、此度の事、『問うに落ちず語るに落ちる』」 To be continued. 〜つい、そう、ポロッとね〜 どうも、犯人です。 妖台本2話目、いかがだったでしょうか? 人にも妖にもいろんな事情があると思うんです。 あんまりお笑い話は持ってこられそうにありませんが、そこは別の台本で我慢しt(ry ウルトラ疑似BLタイムがあったりあったりしますが、よかったらどうぞ。