こちらは相談屋です。 第1話 鬼の災難


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<登場人物>
久世 萌(くぜ もゆる):
 相談屋を営む少年。見た目は実年齢よりも幼く、名前や外見から性別も間違われがち。
 普段は怠惰に生活しており、生活能力はあまりない引きこもり。
 余裕ゆえにまったりした性格と古風な口調で騒ぐのが苦手。

炬炉(ころ):
 人の成りをしているが、その正体は妖怪「古籠火(ころうか)」。
 普段は相談屋の前にある石灯籠になっており、人型になると長身の美女となる。
 やや話し方がぎこちないクールビューティー。

吉川 浅黄(よしかわ あさき):
 特区に住まう女子高生。いつもセーラー服姿で相談屋に通い詰めている。
 いいところのお嬢様だが、口調や嗜好面において庶民派を主張している。
 明るく元気で真っ直ぐな行動派の一般人。

鬼灯 緋凪(ほおずき ひな):
 齢18歳の絶世の美男で、元人間。黒髪と赤い眼を持つ。
 穏やかで優しく押しに弱い性格だが、妖力が枯渇すると静かな狂気を見せる。
 見世物屋に売られそうになって逃げていたところを芙実に招かれる。

美馬 芙実(みま ふみ):
 妖怪「文車妖妃(ふぐるまようび)」が人の成りをとった者。
 面倒見の良い性格である反面、恋文を粗末にする人間を絶対に許さない。
 お淑やかな大人の女性で、アパートに一人暮らししている。



※「」:通常セリフ/【】:ナレorモノローグ
 劇中に出てくる難読単語の振り仮名集はこちら

!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



緋凪【万(よろず)商店街、通称『特区(とっく)』。
   専門業を営む店が多く並び、大型スーパーやコンビニ、高層ビル等々、
   現代における都会的な建築物が存在しない。
   全体的に古めかしい外観を持つ店ばかりで、特区内の高低差も殆どない。
   これは、俺が初めて特区にやってきた時の話。】


[相談屋。浅黄が店に駆け込んでくる。]

浅黄「おっはよ〜!萌ちゃん起きてる〜!?」

炬炉「おはよう、浅黄。
   主人は昨晩の仕事が長引いたため、まだ起きていない。」

浅黄「き、緊急事態なのに・・・!!!」

炬炉「用件は私でも聞ける。言伝を預かろう。」

浅黄「あ、えっとね炬炉ちゃん」

萌「(あくびしながら登場)ふぁ〜〜〜・・・朝から騒がしいな、浅黄。」

浅黄「萌ちゃん!おはよう!あのね、緊急事態なの!」

萌「それはさっき聞こえてきた。それより、100円は入れたのか?」

浅黄「おおっと、忘れるところだった。んっと・・・っしょと(箱に100円玉を入れる)」

炬炉「主人、朝食にソーセージパンを買ってきた。」

萌「頂こう。ついでにミルクティーでも淹れてくれ。」

炬炉「御意。・・・浅黄も飲むか?ミルクティー」

浅黄「頂きます!」

萌「(あくび)ふぁ〜・・・して、今朝の緊急事態とはなんぞ?」

浅黄「うん、ほらこれ。新聞屋の掲示板に貼られてた号外記事。
   見世物屋(みせものや)に売られた『鬼』が脱走した、って。」

萌「ほう、見世物屋か。」

浅黄「ヤバいよ萌ちゃん。売られてきたってことは、特区じゃ危ないよ。」

炬炉「売り物が逃走したのであれば、もうジャッジが動いているのではないか?」

萌「いや、普段の見世物屋の行いがあるからな、売り物1つでは動くとは思えん。
   それより、鬼の行方が気になる。
   何も知らぬ鬼の子が、よもや妖に食われようものなら心痛ましい事態だ。」

炬炉「動くか?」

萌「ふむ・・・如何せん、眠気が飛んでおらぬゆえ、頭もろくに働かん・・・。
   浅黄、可能な限りでいい、見世物屋から4つ以内の区画を調査してくれ。」

浅黄「わかった、見世物屋が『漆−拾参区(ななのじゅうさんく)』にあるから、
   『玖(きゅう)』から『拾漆(じゅうなな)』までを探索してみる!」

萌「宜しく頼む。」



間。



[大雨の日、やや古びたアパートの前。]

緋凪【連れてこられたその場所は、以前住んでいた場所とは打って変わって、
   都会のような高層ビルはおろか、大きな駅の1つも存在しない、
   比較的平坦で、やや古めかしい印象の強い場所だった。
   そんなところに突然身売りを余儀なくされ、かろうじて逃げてきたのに、
   行く当ても頼る伝手も、俺にはなかった。】

芙実「どうしたんですか?傘も差さずに」

緋凪「っ!」

芙実「そのタグ・・・もしかして、見世物屋の売り物・・・・・?」

緋凪「た、助けてください、突然こちらに売られてきて、行く当てもなくて・・・」

芙実「不本意に連れてこられたなら、新参屋(しんざんや)かジャッジに・・・
   でも、ずぶ濡れのままじゃ風邪引いちゃうわ。
   私、ここのアパートに住んでるの。
   少し休んでいって、ね?」

緋凪【偶然声をかけてくれた女性は、優しい人だった。
   濡れ鼠となった俺をアパートの部屋に入れ、シャワーを貸してくれた。
   わざわざ大家さんに掛け合って、男物の着替えもいただくことができた。】

芙実「勝手のわからない特区じゃ、誰に頼ればいいかわからなかったでしょうね。
   もっとも、ジャッジにさえ見つかっていれば、少しはマシだったけど」

緋凪「すみません。ここのことは本当に何も知らないんです。
   よろしければ、教えていただけないでしょうか?」

芙実「クスッ、私なんかの説明でよければ。
   ここは『万商店街』、みんなは『特区』って呼んでるわ。
   厳正な審査を通った者だけが居住を認められ、各専門業を営む。
   まぁ、『ある条件』を満たしていれば、むしろ優遇されて居住できるんだけどね。」

緋凪「ある条件?」

芙実「その条件については私も良く覚えてないんだけど・・・・
   あ、お店の看板は見た?どれもこれも『なんとか屋』って書いてあったでしょう?」

緋凪「はい、少し古めかしい印象を受けましたが」

芙実「特区内のお店の特徴よ。アレ以外は認められていないの。
   コンビニとかスーパーとか見なかったでしょう?」

緋凪「そういえば、確かに。」

芙実「あぁそうそう、ジャッジについても説明しておいた方がよかったわね。
   ジャッジは『法と倫理を兼ね備えた者』。
   彼らの独断と偏見を含めた審判によって、私たちは守られ、罰せられる。
   ジャッジの倫理観次第では減刑や重罪化も簡単にされちゃうの。
   特区の外で言う、警察と裁判官に倫理的行動が許された存在、ってところかしら。」

緋凪「特区内の、警察・・・・・」



間。



[相談屋。萌がコタツで微睡んでいる。]

炬炉「主人。浅黄から連絡が入った。
   『漆−拾壱(ななのじゅういち)』にて、濡れ鼠を部屋に招き入れる女が目撃された。」

萌「そうか。・・・ん?『漆−拾壱(ななのじゅういち)』?」

炬炉「どうした?」

萌「炬炉、鬼の子は如何なる経歴を持つ?」

炬炉「見世物屋が公開予定だった情報を探せばわかるはず。(チラシを漁る)・・・あった。
   『現代に転生した酒呑童子』?」

萌「やはりそうか。マズいな。」

炬炉「『漆−拾壱(ななのじゅういち)』に何かあるのか?」

萌「あぁ。酒呑童子と絡むのは、ややマズい相手がそこにいる。」

炬炉「・・・『鬼』?」

萌「否、同族であればむしろ安心の種、ヤツはただの妖(あやかし)だ。
   だが、未熟な鬼には刺激が強すぎる。」



間。



[とあるアパートの一室。座布団に座った緋凪と芙実が会話している。]

緋凪【特区のことを大方聞いた後、俺は自然と身の上話をしていた。
   自分が特区に来た、見世物屋に売られたことを。】

芙実「・・・そう。ご両親に売られて・・・」

緋凪「はい。俺はもう、人間じゃないから、って・・・・・」

芙実「人間じゃない?どうして?あなたは見るからに人でしかないのに。」

緋凪「・・・・・俺は、『鬼』になってしまったんです。」

芙実「鬼?」

緋凪「酒呑童子という鬼を、ご存知ですか?」

芙実「えぇ。名前と、絶世の美青年だった、っていう話ぐらいなら。」

緋凪「俺は、自分自身は何とも思ってないんですけど、
   生まれ持った美貌と才覚があったそうです。
   物心がついた頃には流暢に話し、中学生程度の数学の問題なら難なく解け、
   おまけに容姿の良さも相まって・・・・・。」

芙実「周りからの評判は良かったんじゃない?
   そんな天才少年、周りが放っておくとは思えないし」

緋凪「周りには、常に人がいましたよ。主に女性がね。
   まぁ、老若男女問わず告白されましたし、一番堪(こた)えたのは、ラブレターです。」

芙実「・・・え?」

緋凪「毎日、郵便受けを見るのが嫌で嫌で仕方なかった。
   最初は多少流し読みくらいはしましたけど、
   狂気的な文章があまりにも怖くて、読まずに捨てるようになりました。
   出待ちやストーカー、付きまとい、その他諸々に疲れてしまって、
   縁切りもかねて手紙を焼いてもらったんです。」

芙実「・・・・・ラブレターを、燃やしたの?」

緋凪「はい。あまりに狂気じみていたので、お寺で焼いてもらいました。
   けれど、手紙の中には呪いのようなものが混じっていたらしく、
   その怨念が俺に襲い掛かってきて。
   耳は尖り、牙が生え、目は金色(こんじき)に・・・角こそありませんが、
   鬼としての俺の姿を見た親は、様々な言葉で俺を罵倒しました。
   (自嘲気味に)晴れて人間から鬼になって、親とはめでたく絶縁です。
   最後は金(かね)にされて、売り飛ばされたんですよ。
   こんな・・・こんなの・・・・・」

芙実「・・・・・。」

緋凪【ハッと、我に返った。
   事実とはいえ、気まずい話題を自嘲気味に話してしまっていた。
   言い過ぎたことに気が付き、空気を変えようと口を開こうとしたが、
   俺より先に、女性の方がぽつりとこぼした。】

芙実「ラブレター、捨てたの?」

緋凪「え?」

芙実「せっかく、書いてくれたのに・・・思いを込めて、書かれたのに・・・・・」

緋凪【様子がおかしい、というか、部屋に漂う空気が、とても重い。
   気が遠くなりそうな、妙な感覚を覚える。】

芙実「限りある時間の中で、星の数ほどある言葉を選んで、
   あなたに寄せた思いを、1つ1つ、筆に乗せて、文字に込めて、
   どうか届いてと、儚くも眩しい期待に胸を膨らませながら、
   他の誰でもないあなたに送った、恋文なのに・・・」

緋凪【空気の重さが、体全体にのしかかる。
   女性がゆっくり立ち上がるのに反して、俺の体は重みを増していく。
   頭を上げることができず、視線が動かせない。】

芙実「可哀想・・・その手で綴った思いも届かず、
   恋文も、その役割を果たすことができなかった。
   どうして、何1つ受け取ることなく、燃やしてしまったの?」

緋凪【体の力が抜けていく。
   上げることのできない視界に、にじり寄る女性の足が見えた。
   動けずにいる俺の頭に、そっと女性の手が乗った感覚がした。
   身の危険を感じるのに、逃げら・・・れ・・・・ない・・・・】

萌「止まれ、『文車妖妃(ふぐるまようび)』。」

芙実「!」

浅黄「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ま、間に合ったぁ!」

炬炉「空気が重いな。怨念に満ちている。」

浅黄「鬼の人、大丈夫!?生きてる!?」

緋凪【声が聞こえる。若い、少女の声?他にもいくつか・・・でも、
   視線を上げられなくて、その姿を確認できない。】

芙実「あなたは・・・確か、相談屋の・・・・そう、相談屋の主人。」

萌「小生のことは覚えていたか。だが、自分のことに対する意識が欠けている。」

芙実「え?」

萌「美馬芙実という人間として生き、『文車妖妃』であることの意識が欠けた。
   それゆえに、貴殿の琴線・・・恋文をぞんざいに扱われた事実が目の前に来て、
   思わず鬼の子の妖力を奪ってしまったようだ。」

芙実「妖力・・・奪う・・・っ!私、なんてことを!」

萌「まぁ、幸い御霊は食っていない、鬼の子は生きている。
   元は人の子といえど、丈夫なものだ。」

緋凪【話し声に耳を傾けていると、ふと体が軽くなった気がした。
   やっとのことで視線をゆっくり上げると、麗しい少年の姿が目に入った。
   その瞬間、強烈な飢えを感じた。
   あぁ、甘い香りがする・・・どこから・・・・・この、少年から?】

浅黄「でも、かなり衰弱してるよ。息も荒いし・・・どうしよう萌ちゃん?」

萌「一先ず、新参屋の元へ行かねばまともな医療機関は頼れん。
   雨が止み次第、鬼の子を連れて新参屋へ・・・・ぅぁっ!?」

炬炉「っ、主人!」

浅黄「萌ちゃん!」

緋凪【甘い香り・・・やはり、麗しい少年から、漂ってくる。
   ほしい、これがほしい・・・この香りの、根源・・・・・】

炬炉「貴様、鬼の分際で!!!」

萌「止まれ炬炉。」

炬炉「しかし!」

浅黄「ここは木造建築のアパートなんだから、鬼火なんて使ったら全部燃えちゃうよ!」

芙実「でも、このままでは相談屋さんが・・・!」

炬炉「主人の一大事、手段を選ぶ暇はない!」

萌「動くな炬炉。鬼の子は錯乱しているだけだ。
   見ての通り、小生に掴みかかってはみたが、次の行動がわからずにいる。」

浅黄「え・・・ほ、ホントだ・・・・」

炬炉「だが、様子は明らかに飢えた獣だ。油断はできない。」

緋凪【甘い香りにつられて、少年の小さな両肩を掴んで押し倒したものの、
   強い飢えが思考を鈍らせ、これからどうすればいいかわからない。
   頭がクラクラする、視界が歪む。
   どうすればいい?何をすれば?俺は、何に飢えている?】

萌「鬼の子。喰らいたければ喰らえばいい。
   あぁ、喰らい方が分からぬか。
   人も妖も、生命力を得るには口を使う。
   口はいわば生命力の出入り口・・・・・『妖力もまた然り』。」

緋凪【生命力・・・妖力・・・・・
   それをこの少年から奪えば、この渇きは潤う。
   そうだ、奪ってしまえばいい。
   口を使えば、手に入るなら。
   口を、使う・・・使えば、それで・・・・!】

炬炉「主人!」



間。



[相談屋。緋凪がソファーに横たわっている。]

緋凪「ぅ・・・・・ん・・・・?」

浅黄「あ、鬼さん起きた〜?」

緋凪「っ、こ、ここは?」

浅黄「相談屋だよ。アパートから移動してきたの。体の調子はどう?」

緋凪「・・・なんだか、軽い気がする・・・・・」

浅黄「ふふっ、そりゃあ萌ちゃんの妖力もらったもんね。
   質の高い妖力を吸収すれば、体の調子も良くなるもんだ!」

緋凪【気が付くと俺は、相談屋と呼ばれる店の一室に横たわっていた。
   傍らには、セーラー服を着た学生と思しき少女。
   俺は、一体何をしていて・・・・】

炬炉「やっと起きたか。全く、主人の妖力を奪っておきながら、呑気な鬼だな。」

芙実「そう刺々しく言ってあげないでください。
   元はと言えば、私の不注意が招いた結果なんですから。」

炬炉「主人が止めていなければ、今頃消し炭にしていたというのに・・・」

浅黄「怖いこと言わないの!炬炉ちゃん女の子でしょ!?
   この人は人間から鬼になったんだし、
   妖力が枯渇したのも今回が初めてっぽいんだから!」

緋凪「っ、妖力・・・枯渇・・・・・?」

浅黄「ん、大丈夫?んっと、自分の名前言える?」

緋凪「俺は・・・鬼灯・・・・あれ、鬼灯・・・・?」

芙実「やっぱり、私のせいで名前が・・・・」

炬炉「名を取られたか。妖力を奪われたときに名も奪われてしまったのだろう。」

浅黄「それじゃあ、新参屋さんが持ってる情報、訂正してもらったほうがいいかな?」

炬炉「名は体(たい)を表す。名無しの状態では、妖は自分を保てない。」

芙実「ごめんなさい、私のせいで・・・!」

浅黄「あああああ芙実さん!やっちゃったものは仕方ないよ!
   そうだ、せめて文字で書けない?自分の名前、書いてみて!」

緋凪【自分の名前がわからない。
   握らされたペンで、用意されたメモに文字を書き落としてみる。
   鬼、灯(ともしび)・・・緋色の『ひ』に、凪・・・あれ・・・・】

炬炉「ほおずき・・・ひなぎ?」

緋凪「いえ、その、『ほおずき ひな』までは出てきたんですが・・・
   もう少し、別の名前だった気が・・・・・」

芙実「名前の一部を奪ってしまったんですね、私。
   私が、自分を忘れていたから・・・」

緋凪「あの、何があったかよく覚えていないので、
   よろしければ教えていただけないでしょうか?」

浅黄「私から説明するよ。
   鬼灯さんは、ここにいる美馬芙実さん・・・『文車妖妃』っていう妖を怒らせて、
   妖力と、たぶん名前の一部を奪われちゃったの。
   それで、体の中にある妖力が枯渇しちゃって、
   突然の妖力の消費に体が慣れていなかったもんだから、
   飢えた挙句にちょっとだけ暴走して、萌ちゃんの妖力を奪ってバタンきゅ〜。」

炬炉「浅黄、それ死語」

浅黄「え?結構わかりやすい表現だと思ったのにぃ」

芙実「懐かしい表現ではありますが、ニュアンスでわかるかと」

緋凪「えっと・・・つまり俺は、人を襲ったんですか?」

炬炉「ある意味な。全く、妖力を奪う相手が主人でなければ、大事件になっていた。」

芙実「妖が人を襲うのは、特区内でも目立ちますからね。
   萌さんがただの人間でなくて幸いでした。」

緋凪「人間、でない・・・?」

浅黄「そういえば萌ちゃんは?」

炬炉「コタツで寝ている。そのうち起きてくるとは思うが」

緋凪「あ、あの!」

炬炉「?なんだ、鬼」

緋凪「・・・皆さんは、妖なんですか?」

浅黄「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇ?」

炬炉「お前・・・あぁそうか。元人間で、鬼になったばかりだからか。」

芙実「まだ妖の気配を見分けられていないのでしょう。
   鬼灯さん、私と炬炉さんは確かに妖よ。
   正確にいうと、付喪神。
   でも、こっちの浅黄さんは、正真正銘、人間の女の子。」

浅黄「私まで妖に見られてたんだ・・・・・しょぼ〜ん(↓)」

緋凪【あまりに自然すぎた。
   人の形をしている妖が、ただの人間と当たり前のように接している。
   俺を助けてくれた女性・・・芙実さんも、人間の女性にしか見えない。
   これは、どうして・・・?】

萌「(あくびしながら登場)ふぁ〜〜〜・・・・・やれ、鬼の子も目覚めたか。」

浅黄「あ、萌ちゃん!おはよ!」

炬炉「主人。体の具合はもういいのか?」

萌「うぬ。妖力は確かに吸われたが、上手く吸われなかったようだ。
   思いのほか消耗は少ない。」

浅黄「そっか、よかったぁ〜。」

芙実「以前もお世話になりましたのに、またご迷惑をおかけしてすみません。」

萌「気にするな、文車妖妃。妖が人として生きる以上、障害は付き物だ。
   今回の件はこれにて幕引き、鬼の子はこちらで預かる。
   ゆっくり帰るといい。」

芙実「はい、わかりました。それでは。」

緋凪【萌と呼ばれた少年と俺に軽く頭を下げた芙実さんは、静かに相談屋を去って行った。
   芙実さんの背中を見送った後、少年は再び俺の方へと向き直す。】

萌「さて、鬼の子。名は思い出せたか?」

緋凪「いえ、完全には・・・」

炬炉「どうする主人?本来あるべき名を失っては、そのうち自我も消失する。
   元人間だったのが幸いして、今はかろうじて存在できているが。」

萌「ふむ、名前か。小生の力を以てしても、名の修復は難しい。」

浅黄「萌ちゃんでも難しいのかぁ。」

緋凪【すると、萌と呼ばれたその人は、俺が書いたメモを手に取った。
   読み仮名の振っていない、途中まで書かれた名前を見て、
   その人はそっと口を開いた。】

萌「名の修復は出来ずとも、与えることはできる。
   ただ、名付けは妖にとって、ある種の契約に値する。」

緋凪「!」

萌「特区にいる以上、何かしらの職を持たねば生活できぬ。
   ならば、多少強引なれども、せめて特区という環境に慣れるまで、
   小生のもとで働かせよう。」

浅黄「そっか!おつかいとか掃除とか、そういう雑用ならいくらでもあるもんね。
   鬼灯さん、そうさせてもらおう?
   少なくとも衣食住は困らなくなるよ!」

緋凪「え」

炬炉「行く当てがないなら、それが妥当か。
   正直、腑抜けと共に仕事をする気にはなれないがな。」

浅黄「住むところだって今から用意するのは大変だよ〜?
   ましてや売り物だったわけだし、妖でも住民手当の申請に時間かかっちゃうし」

炬炉「主人から名をいただいた方が、万事が滞りなく解決するか。
   (緋凪の方を見て)・・・決めるのは貴様だ。選べ」

緋凪【俺は何も知らない、何もわからない状態。
   誰に頼ることもなくここで生きることは、あまりに難しすぎることだと思う。
   それなら、今目の前にいる救いの手を、奪うように取ってしまうのが、
   最良の選択なのだろう。】

萌「鬼の子。特区に居を構えるにはまだ経験も不足している上、
   貴殿は鬼としての力を全く使いこなせておらぬ。
   頃合いを見て自らの店を持つのも良し、小生のもとで働き続けるも良し、
   好きにするといい。」

緋凪「・・・名前を、ください。お願いします。」

萌「クスッ、あいわかった。
   では改めて。小生は相談屋の主人、名を久世萌と申す。
   宜しく頼む・・・緋凪。」

緋凪【やや古風な喋り方の少年は、満足そうな笑みを浮かべた。
   与えられた名前を呼ばれた瞬間、ぼやけていた思考が完全に覚醒した。
   鬼灯緋凪、今日からそれが、俺の名前。
   特区、万商店街、相談屋。
   人と妖が交わるこの場所で、俺は、2度目の人生を歩むことになる。
   これはほんの、始まりにすぎない。】



浅黄「『こちらは相談屋です。』次回は、『第2話 人と妖と』」

緋凪「俺、萌さんを襲ったんですよね。でも、ケガはしてないみたいでよかった。」

炬炉「貴様、主人からどうやって妖力を奪ったか、覚えているか?」

緋凪「そういえば、覚えてないです。一体何をしたんですか?」

浅黄「そ、それは・・・えっと・・・・・い、言えない・・・・・」

炬炉「まぁ、また今度な・・・」

萌「此度の事、『知らぬが仏』。」



To be continued.





〜こちらは後書きです〜
どうも、犯人です。
ふと、妖とか付喪神とかってもんが書きたくなってつい昔の設定を引っ張り出しt(ry
にしても、書き貯めまくってる設定が台本化できると、スッキリするね(´ω`*)
いつもコメディーばっかり書いている俺だと思うなよ!ヾ(゚Д゚)ノ
またもキャラ名が初見殺しですが、よかったらどうぞ。
		






   
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