蝉時雨


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<登場人物>
クレア:10代後半。赤い髪と赤い眼の少女。語りは全て成長した少女視点。

ケイ:10代半ば→20代半ば。茶髪に青い目の青年。穏やかな人。





※本編中の括弧について
「」:通常の台詞  / 【】:モノローグ(一人語り)  /  [ ]:情景描写(not台詞)
!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



クレア【夏。
   日本の夏はジメジメしてるし、陽射しは痛いし、いい思い出なんてろくにない。
   蝉時雨が煩くて、聞いてるだけで暑苦しい。
   都会じゃクーラーなんかが毎日動いていて、その部屋だけ冷蔵庫みたいに寒い。
   おまけに、クーラーの効いた部屋にずっといると、具合が悪くなる。
   夏は、嫌いだ。】


[広い田舎。広い木陰を作る大木の下で、少女が木を見上げている。]

ケイ「どうしたの?何か探し物かい?」

クレア【子供の頃、田舎にある大きな木を見上げていたら、声を掛けられた。
   白いTシャツに麦わら帽子、いかにも田舎の人間らしい格好の青年。
   ただ、その顔立ちやら髪色やらには、どことなく西洋の雰囲気があった。】

ケイ「ここらへんに住んでいる子・・・じゃないね。
   どこから来たの?お父さんやお母さんは?」

クレア【どうやら、迷い子だと勘違いされたらしい。
   今のご時世、幼い子供に声なんて掛けているのを誰かに見られたら、
   若い男と言えど通報されてもおかしくないだろうに。
   幼かった私は何の返答もせず、木の方へ歩みを進めた。】

ケイ「あ・・・・・」

クレア【その人は何か言いたげだったが、呼び止めるための言葉が思いつかなかったのか、
   伸ばしかけた青年の手は私を捕らえることができなかった。
   大きな木に歩み寄った私は、その根元に座り込んだ。
   木陰はとても涼しくて、蝉時雨に耳を侵されてはいたが、
   吹き込んでくる涼しい風が心地よかった。】

ケイ「涼みに来たんだね。でも、一人でいたら危ないよ?」

クレア【青年は私の様子を見て、また近づいてきた。
   私が口を開かずにいると、青年は諦めたように私の隣に座った。
   肩から下げていたクーラーボックスを地面に置き、フタを開ける。
   中には、瓶に入ったジュースがあった。】

ケイ「飲む?おいしいよ」

クレア【ジュースを勧めてきた青年に、私は黙ったまま小さく頷いた。
   青年は瓶を取り出し、栓抜きで器用に王冠を取って、瓶を私へ差し出した。】

ケイ「はいどうぞ。可愛いお嬢さん。」

クレア【受け取った瓶に口をつけ、ジュースを喉へ流し込む。
   ジュースはよく冷えていておいしかった。
   しかし、喉が潤ってふと、自分の迂闊な行動に気が付いた。
   知らない人からもらったものを、何の警戒もなく口にした。
   あぁ、親に見つかったら怒られてしまうかもしれない。
   ・・・いや、大丈夫か。
   私が怒られることはないだろう。
   それが、私がここにいる理由なのだから。】

ケイ「君、綺麗な眼だね。ここらへんの子じゃないみたいだけど・・・・・
   もしかしたら、僕と同じ境遇なのかな。」

クレア【そう言った青年の青い瞳は、少しだけ悲しそうに見えた。
   当時の私は、年齢の割にませた性格だったらしく、
   なんとなく、青年が辛い思いをしたのだろうと感じた。
   それは私も同じであり、私は同情の意を込めて、青年の頭に手を伸ばした。】

ケイ「ん・・・慰めてくれるの?クスッ、ありがとう。」

クレア【向けられた笑顔に、少しだけ安心した。
   すると、青年は私の身体を軽く持ち上げ、自分の膝の上に座らせた。
   よく見てみれば、青年の肌は私と同じように白く、
   あまり日に焼けていなかった。】

ケイ「よかったら、僕のお話、聞いてくれないかな?
   誰にも話せなくってね、ずっと溜め込んでるんだ。」

クレア【青年は、私の髪を優しく撫でながら言った。
   ませていたとはいえ、子供であることに違いなかった私には、
   悲しそうな目をする青年を放っておけなかった。
   青年を見上げつつ、私が黙って頷くと、青年は嬉しそうに目を細めた。】

ケイ「僕のお母さんはね、日本人じゃないんだ。
   ヨーロッパって言う、日本のず〜っと西の方にある地域の人でね。
   そんなお母さんから生まれたから、日本人みたいな黒い髪と眼をしてなくて。
   おじいちゃんとおばあちゃんがいるから、夏にはいつもここに来るんだけど、
   いろんな人から避けられちゃうんだよね。
   僕の髪が、目が、日本人のそれと違うから。
   生まれつき肌も白くて、日焼けしにくい体質みたいでさ。
   大人の人達には特に気味悪がられちゃって。
   だから・・・・・僕は、この村が嫌いなんだ。」

クレア【青年は、絞り出すような、震えた声でそう言った。
   日本人らしくないから、周りの人達から気持ち悪いと一蹴されてしまう。
   受け入れてもらえないことに、青年は苦しんでいた。
   ・・・私だってそうだ。
   『異国の血が混じった子供など、我が家に入る権利はない。』
   そう言って私を追い出したのは、父方の祖父母。
   辛かったけれど、どうせ私の入れる家屋なんてないのだからと、
   私の好きなように行動してしまえと自棄(やけ)になっていた。
   青年も、私と似たような状況だったのだろう。】

ケイ「とっても苦しいよ。
   学校でもね、全然友達できないんだ。
   僕がもっと日本人らしく生まれていたら、友達もいっぱいできてたのかなって、
   何度も何度も考えては、誰にも言えなかった。
   そんなこと、もしお母さんの前で言ってしまったら、
   悲しむのはお母さんだからね。
   僕を生んで育ててくれた、優しいお母さんを泣かせるなんて、僕にはできないよ。」

クレア【自分を生んでくれた人に、罪はない。
   全く以てその通りだ。
   幼少期の私も、お母さんが大好きだった。
   大好きな人だからこそ、悲しんでほしくなかった。
   ・・・この人は、私と同じなんだ。】

ケイ「はぁ・・・夏は嫌いだな。この村に来なくちゃいけないから。
   この村には、僕とお話してくれる友達なんて、いないから。」

クレア【悲しそうに、呟くように言葉を零す。
   私だって嫌いだ、夏なんて。
   みんなが暑さで嫌な思いをするのに、自分だけ人より苦しまなければならないから。
   友達も・・・・・いない。】

ケイ「あ、ゴメンね、つまんなかったよね。でも、聞いてくれてありがとう。」

クレア【ふと我に返った青年は、私の視線に気が付いて慌てて笑みを浮かべた。
   私自身、とても無愛想というか、感情表現の下手な子供だったから、
   青年には私の様子が退屈そうに見えたのかもしれない。】

ケイ「それにしても暑いね〜。ジュース、もう一本飲む?
   父さんが持たせてくれたんだ、まだいっぱいあるよ。」

クレア【再びジュースを勧めてくる青年。
   普通の子供であれば、素直にジュースに気を惹かれるものだろう。
   でも、私はジュースなんかよりも、青年の言っていたことが気にかかっていた。】

ケイ「どうしたの?」

クレア【青年が、何の反応も返さない私の顔を覗き込む。
   私はそっと、青年の手を取った。
   握手するように、ギュッと握る。
   無口な私には、それが最大限の意思表示で、それ以上は難しかった。】

ケイ「え、な、何?握手?」

クレア【やっと起こした私の数少ない行動に、青年は驚きと困惑を隠せていなかった。
   小さな手でしっかりと握られた、青年の右手。
   じっと手の方を見つめる私を見た青年は、こんなわかりづらい表現でも、
   私の言いたいことを察してくれた。】

ケイ「もし、かして・・・・・友達に、なってくれるの?」

クレア【私は、黙って頷いた。】

ケイ「!・・・嬉しいよ。ありがとう。」

クレア【青年は、ふわりと優しい笑顔を浮かべた。
   ・・・・・それからしばらくの間、私は青年と木陰で談笑していた。
   私のお母さんに見つかる頃には、私も口を開くようになっていた。
   実のところ、青年に会えたのは、その時だけだった。
   お父さんの仕事の関係で、お母さんの祖国に行くことになったから。
   痛いくらいの暑さと、煩わしい蝉時雨と、
   大嫌いな祖父母から離れられて清々したけれど、
   青年に会うこともなくなって、少し寂しかった。】



間。



[成長した少女が、あの時と同じ大木を見上げている。]

クレア【夏。
   日本の夏はジメジメしてるし、陽射しは痛いし、いい思い出なんてろくにない。
   蝉時雨が煩くて、聞いてるだけで暑苦しい。
   都会じゃクーラーなんかが毎日動いていて、その部屋だけ冷蔵庫みたいに寒い。
   おまけに、クーラーの効いた部屋にずっといると、具合が悪くなる。
   そんな感想を持ってから早10年、私は今、久しぶりに日本の夏を感じている。
   今では蝉時雨よりも、私の容姿の良さゆえに色目を使い、
   媚を売るようになった祖父母の方が煩わしくなった。
   祖父母の家から逃げるように、ふと思い出した大きな木のもとへ向かった。
   白い日傘に白いワンピース、日本人らしくない赤い髪と赤い眼。
   一際異色を放つ私は、10年ぶりにあの大きな木を見上げた。
   ・・・相変わらず、蝉時雨が耳につく。】

ケイ「あれ、先客か。こんにちは。」

クレア【不意に、背後から声を掛けられた。
   振り返ってみるとそこには・・・・・青い眼の、若い男性が立っていた。
   軽く会釈すると、その男性は私の隣まで歩みを進めてきた。】

ケイ「大きな木でしょう?10年前にもあったんですよ。
   僕が学生の頃だったんですが、まだ立派に立っていたなんて。」

クレア「・・・ここに、来たことがあるんですか?」

ケイ「え?あ、はい。しばらく海外に出ていたので、来られなかったんですけど。
   日本の夏ってすっごくジメジメしてて、陽射しは痛いし、
   田舎だと特に蝉時雨が煩くて、僕にはいい思い出もろくにないんです。
   見ての通り、僕は生粋の日本人じゃないんで、祖父母からは嫌われてますし。
   だから、夏なんて大嫌いだったんです。
   でも昔、この木の下で、とっても綺麗な女の子に会ったんです。
   ちょっと奥手でませている子で、僕なんかと友達になってくれたんです。
   ここに来たら、ひょっとしたら会えるんじゃないかなって思って・・・・・
   あぁ、すみません、一人で喋りすぎちゃいました。」

クレア「いえ、お気になさらず。」

ケイ「ところで、あなたは何をしにここへ?
   ここらへんに住んでいる人には見えないし、何か探し物でも?」

クレア「探し物・・・・・そうですね。探しに、来ました。」

ケイ「何を?」

クレア【煩わしいほどの蝉時雨が、木々のざわめきと共に思い出を呼び覚ます。
   長らく聞いていなかったその声の中に、私の思い出は確かにあった。
   私だけの思い出で、十分だったのに。】

ケイ「っ、その髪と眼・・・まさか、あの時の・・・・・?」

クレア【やっぱり夏は、嫌いだ。】



The End.





〜これだから夏は嫌なんだ(意味深)〜
どうも、犯人です。
道産子が溶ける季節ですね、つらたん(´・ω・`)
3年前の夏は毎日アイス食べないと生きていけないレベルでしたね、えぇ。
あの時に比べればまぁ、まだ生きてる方ですよ(`・ω・´)
そう言えば誕生日にはやっぱりケーキが食べれなかった作者ですが、よかったらどうぞ。
		






   
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