冬の終わる頃


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<登場人物>
雪(ゆき):
 過度の精神的ストレスにより失声症を患った少女。
 元々物静かで抱え込みやすい性格。
秀(しゅう):
 雪の父方の従兄で、同い年の晴とルームシェアをしている。
 一人っ子だったため、雪を妹のように可愛がっていた。感情が表に出やすい。
晴(はる):
 雪の母方の従兄で、同い年の秀とルームシェアしている。
 雪を女性として愛していた。秀とは対照的に冷静だが、無感情ではない。



※「」:通常セリフ / 【】:語りセリフ
 〈 〉:雪の台詞(秀・晴には聞こえていない) / [ ]:情景描写(not台詞)
!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



雪【あの時も、ちょうどこんな季節だった。】


[マンションの一室。秀が出先から帰宅する。]

秀「ふい〜、ただいま〜。」

晴「おかえり。」

秀「お、晴。帰ってたのか。」

晴「まぁな。チケット、どうだった?」

秀「なんとか取れた。けど道路がグシャグシャで、途中渋滞にハマっちまった。
  こりゃしばらく渋滞起きやすいぞ〜」

晴「そうか。最近急にあったかくなってきたから、一気に融けたんだろう。」

秀「駅まで車出そうと思ってたけど、荷物だけ送って徒歩で行った方が良さそうだ。」


雪【冬が終わる頃、雪融けが始まっていて、外が少しずつ暖かくなってきた頃。
  私は、声を失った。】


晴「ん・・・3月、か。」

秀「どうした?」

晴「いや、雪を引き取った日の事、思い出した。」

秀「あぁ〜、3日頃、だった気がする。ひな祭りぐらい。」

晴「バイト代貯めて、綺麗な着物を着せてやろうって、言ってたもんな。」

秀「うん。」


雪【失声症(しっせいしょう)を患った私は、強引に従兄弟の元へ引き取られることになった。
  包帯だらけの身体、素肌が見えれば大抵痣(あざ)があった。
  父だった人に殴られ、母だった人に叩かれ、祖父だった人に物を投げられ、
  祖母だった人に閉じ込められていた。
  心を壊された私から、神様は声を奪ってしまった。】


秀「・・・・・静かだな。」

晴「ん?」

秀「なんというか、前よりも静かになった気がする。」

晴「あぁ・・・そうだな。」

秀「声を発する人間の数は、変わっちゃいないのにな。」

晴「・・・・・。」

秀「っ、なぁ晴。お前の親父さんたち、どうだった?
  いっぺん実家戻ったんだろ?」

晴「ウザいだけだった」

秀「え?」

晴「見合い相手の写真、見せられたよ。
  3枚から先は数えてないけど、たぶん10枚くらいはあったと思う。」

秀「ぁ・・・・・なんだ、お前んとこもか。」

晴「秀の家も?」

秀「うん。『男2人で同居してないで、早く嫁さん連れて来い』ってさ。
  一人息子の気も知らないで、勝手ばっか言ってる。
  ムカついたから、『一生結婚しない』って宣言してきてやった。」

晴「ははっ、お前らしいな。」

秀「だろ?ハハハハハハ!」


雪【明るくて元気な秀と、真面目で優しい晴。
  2人と一緒に居られて、私は幸せだった。
  でも・・・・・ダメだったんだ。】

晴「秀」

秀「ん〜?」

晴「・・・雪の事、どう思ってた?」

秀「い、いきなりなんだよ?」

晴「答えてくれ。」

秀「・・・・・・今更って感じの質問だな」

晴「あぁ、本当に。でも、知らないままでいたくないんだ。」

秀「・・・・・・大好きだったよ。可愛い妹って感じで。」

晴「妹?」

秀「お前には兄貴と姉貴がいるだろ?俺は一人っ子。
  兄妹っていいな〜って、ずっと思ってたんだ。
  だから、お前と同居することになって、同い年でも兄弟みたいで嬉しかったし、
  あとから雪も一緒になって、ご飯作ってもらった時は本当に妹が出来たみたいでさ。」

晴「そうか。」

秀「ぶっちゃけ俺、雪が妹ならシスコンって言われてもいいって思ってたし?」

晴「それはダメだろ」

秀「あ、やっぱ?」

晴「はぁ。」


雪【秀は、私のためにたくさん動き回ってくれた。
  親族からの罵声や理不尽な非難を遮断してくれたり、
  遊びに出たことのない私に洋服を買ってくれたり、外に連れ出してくれたり。
  私を元気づけようと、私の進む先にいてくれた。】


秀「そういう晴こそ、どうなんだよ」

晴「何が?」

秀「雪の事。どう思ってたんだ?」

晴「・・・俺のは」

秀「(食い気味に)『俺のはいい』とか『言いたくない』は却下な?
  俺だって答えたんだ、お前も答えろよ」

晴「・・・・・(深呼吸)好きだった。」

秀「どんなふうに?」

晴「1人の、女性として見てた。家族以上の存在だった。
  お前と違って、俺は3人姉弟の末っ子だから、
  資産家の家にでも婿入りしろって、しょっちゅう言われてた。
  おかげで恋愛やら結婚やらを強く意識するようになった時には、
  気が付いたら、昔から文通続けてた雪のことが愛しくて仕方なかった。
  子供の頃からずっと繋がってて、可愛がってたのもあるんだろうけど。」
 
秀「いつから手紙のやりとりしてたんだ?」

晴「雪が小学校に入ったあたりだったはず。
  手紙の出し方覚えて、最低でも1か月に1通は出してくれてた。
  時々写真とかも入れてくれてさ。」

秀「へ〜。可愛いじゃん。」

晴「あぁ、ホントにな。」


雪【晴は、ずっと私の傍にいてくれた。
  仕事も早めに切り上げてきて、私といる時間を増やしてくれた。
  秀と違ってたくさん動くわけじゃないけれど、手を握っていてくれたり、
  寄り添っていてくれたり、抱きしめてくれたり。
  私を安心させようと、私の背中を守ってくれていた。】


晴「愛していたんだ、雪の事を。
  でも、俺の愛情は全然、大したことなかったな。
  手紙の様子から、雪が凄惨な環境にいることを悟れなかったなんて。」

秀「バカ、お前が雪の事、そんだけ思ってたから・・・
  3年前、雪からの手紙が途絶えて、晴が不思議に思ってて、
  それで俺が、雪に会いに行こうって提案して。
  雪の家の近くで、痣だらけの雪を見つけられたんだろ。」

晴「秀が言い出さなかったらきっと、俺は手紙を待つだけだったと思う。
  自分の行動力の無さに呆れるよ。」


雪【私は2人に守られていた。
  たくさんの元気と、安心と、愛情をもらった。
  幸せだったのは、私の人生の中の、10分の1にも満たない時間だけ。】


晴「結局、俺の思いは隠し続けたまま。
  伝えたとしても、雪の心が耐えられないと思った。
  だから、せめて少しでも長く雪の傍にいようと、雪に触れていようと思った。
  なのに・・・・・。」

秀「一緒に飯食ったり、雪の勉強手伝ったり、買い物行ったり、旅行も行ったりして。
  せめて雪が生きてきた時間の倍くらいは楽しいことしようって、
  あれだけ必死になったってのに・・・できたのは、たったの2年だけで・・・」


雪【穏やかに過ごしていたはずだった。
  ずっと幸せが続くのだと疑わなかった。
  秀と晴の両親に、追い詰められるまでは。】


晴「全部・・・全部、年単位で昔の今頃だった。
  雪が声を失ったのは3年前、俺達が雪を引き取ることにしたのは2年前。
  ・・・・・・雪が倒れたのが、去年の話。」

秀「俺ら、慌てて病院行ったもんな。
  着いたら着いたで、酸素マスク付けられた雪が眠ってて。
  『話しかけたら急に倒れた』だっけ?親共の言い訳」

晴「雪の友達の目撃証言ですぐバレたがな。」


雪【秀と晴の両親に詰め寄られ、私は倒れた。
  『息子たちを誑(たぶら)かすな』
  『色目を使って』
  『売女(ばいた)のくせに』
  『穢らわしい』
  それはあまりにも酷い暴言で、中傷で、事実無根の言葉の鞭だった。】


秀「結局入院したけど、ストレス過多で上手く呼吸できなくなって、
  俺と晴でなんとか落ち着かせようってしてたのに、な。」

晴「ただでさえ肺活量も呼吸数も減ってたのに・・・・・」


雪【入院した翌朝、私は口に当てられていたマスクを外した。
  上手く息を吸えない私に、秀と晴は慌ててマスクを当てようとした。
  けれど、私はそれを拒んだ。
  彼らの優しさを、もう受け取ることができなかった。】


秀「っ、なんで、なんでなんだよ!
  アイツは何も悪いことしてないだろ!?
  俺達との同居とか、高校に通うこととか、全部俺たちが勝手に決めたことで!!!」

晴「秀・・・」

秀「何が結婚だ、何が孫だ、ふざけんな!
  自分たちの息子が社会人になったらすぐこれだ!
  子離れできない老害共が、知った口ききやがって!!!」

晴「秀!」

秀「・・・・・・・・・・雪は、悪くない・・・・・!」

晴「・・・あぁ。雪は悪くない。俺達も、悪くない。」


雪〈ゴメンね、秀、晴。
  2人と過ごした時間は、本当に幸せでした。
  でも、耐えられなかった。
  弱い私には、無慈悲な言葉の嵐に耐えられるだけの心はなかった。
  私が傷つくことで、2人に悲しい顔をさせるのも嫌だった。
  何もできない私には、あれ以上生き続けることも、辛かったの。〉


秀「(泣きながら)守れなかった・・・雪・・・大好きな・・・・・!」

晴「っ・・・・・雪はもう、眠ったんだ。
  これ以上、俺達が守ることも、救うこともできないけど、
  誰かに傷つけられることもない。
  俺たちが自分の無力さを嘆いていても仕方ないんだ。
  ・・・雪の好きなお菓子でも買ってさ、会いに行ってやろう?
  きっと喜んでくれる。」

秀「ぅぐ・・・ぅ・・・・・うん、うん・・・・・!」


雪【それは、冬の終わる頃。
  『ユキ』が消えゆく季節に流れた、涙の声だった。】

晴【覚えていよう。たとえ彼女が消えてしまっても。】

秀【絶対に忘れない。二度と会えないとわかっているから。】


雪〈サヨウナラ。私はもう、空の向こうへ帰ります。〉



End.





〜嘘みたいだろ?〜
どうも、犯人です。
メリーバッドエンドだと思った?残念、ガッツリBad Endingですた(白目)
いやそれにしたってさ、この話だけ見たら、平和作者が書いたとは思われないよね←
べ、別にっ、ギャップを狙いに行ったわけじゃないんですホント信じてお願いだから(必死)
台本が完成した季節はすでに桜が散り始めた頃ですが、よかったらどうぞ。
		






   
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