Flower Cat


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<登場人物>
シオン:
 野良猫。ケガをして倒れていたところを拾われる。ただで甘えるのは性分ではない。
綾乃(あやの):
 若い女性。俊樹のことが気になっている。自分に自信を持つまでが長い。
俊樹(としき):
 男性。綾乃に淡い思いを寄せている。人間相手に自分の気持ちを伝えるのが苦手。





※括弧表記 「」:人間の言葉 / 【】:人間には聞こえてない言葉
!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



[雨の中。道端にシオンが倒れている。]

シオン【水嫌いの小生は、もちろん雨も大っ嫌いだった。
   冷たくてべちゃべちゃして、体が重くなるから。
   ただ、雨から逃げたいのに、小生の体は動かない。
   人間に嬲られた体は、痛くて冷たくて重たくて、動くことができなかった。】

綾乃「あれ・・・にゃんこさん?大丈夫?」

シオン【ふと、雨が止んだ。
  ゆっくりと瞼に力を込めて、視界を確保すると、
  大きな何かが小生を見下ろしていた。
  これは・・・・・あぁ、人間だ。】

綾乃「よかった、まだ生きてた。にゃんこ、頑張れ。すぐ病院連れて行ってあげるからね。」

シオン【軽くて重い小生の体を、人間はタオルに包(くる)んで持ち上げた。
   その腕はとても優しくて、暖かかった。
   小生を甚振った小さい人間とは違う。
   余計な抵抗などせず、小生は大人しく、人間にされるがままになっていた。】



間。



[綾乃のマンション。シオンがタオルに包まれたままソファーに寝かされている。]

綾乃「よかったね、にゃんこ。ちゃんとゆっくり休めば、すぐケガも良くなるって。」

シオン【小生は『動物病院』というところへ連れていかれ、体のあちこちに治療を受けた。
   幸い出血はしていなかったせいか、大事には至ってないらしい。
   人間の女は、先ほど小生を治療した人間が言うに、
   『綾乃』という名前らしい。
   どうやら小生は、しばらく綾乃の元で静養することになるようだ。】

綾乃「お魚・・・食べれるかな?ごはん用意してくるからね〜」

シオン【小生の頭を一撫でした綾乃はどこかへ行ってしまった。
   と言っても、足音が消えたわけではなかったから、そう遠い場所でもないだろう。
   追ってみようと思ったが、怠い体を引きずるのも億劫で、仕方なくじっとしていた。
   ・・・・・しばらくすると、焼き魚のいい匂いがしてきた。】

綾乃「にゃんこ〜、お魚焼いたよ。食べれる?」

シオン【綾乃は、美味そうに焼かれた魚を持ってきて、小生のすぐそばに置いた。
   人間に餌をもらうなどという義理を作るつもりはなかったが、
   空腹はどんな欲求にも勝(まさ)ってしまうものらしい。】

綾乃「お、食べた。お腹空いてたんだね。いっぱい食べて、早く元気になってね。」

シオン【美味い、魚美味い、けど熱い、だが食う、猫舌など知ったことか。
   最近美味い魚にはあまりありつけていなかったから、よりいっそう美味く感じる。
   綾乃はなぜこんなにも優しいのか。
   ケガをして倒れていたただの野良猫に、美味い魚まで与えてくれるとは。
   もしかしたら、綾乃に飼われていれば毎日美味い魚にありつけるんじゃなかろうか。
   それなら、人間の匂いがする場所で暮らすのも、悪くないかもしれない。】



間。



[二日後、綾乃のマンション。俊樹が花束を持ってくる。]

俊樹「こんにちは。」

綾乃「あ、俊樹さん。こんにちは。」

俊樹「おや、猫を飼われたんですか?」

綾乃「はい、放っておけずに保護したんです。
   少なくとも、ケガが治るまではここにいてもらおうかなって。」

俊樹「そうでしたか。」

シオン【小生が拾われてから夜が2回来た後、綾乃の部屋に人間の男がやってきた。
   綾乃が言うに、『俊樹』という名前らしい。
   小生を襲ってくる気配はないので、大人しくしていれば無害であろうと思う。】

俊樹「あぁ、用件を忘れてしまうところでした。これを綾乃さんにお渡しに来たんです。」

綾乃「え?・・・わぁ、綺麗なお花!」

俊樹「カキツバタの花です。ちょうど綺麗に咲きましたので、すぐお届けしたくて。」

綾乃「今日はシフト入ってなかったのに、わざわざありがとうございます。」

俊樹「いえ、喜んでいただけたのなら幸いです。」

シオン【俊樹は綾乃に花を届けに来たようだ。
   確かにこの部屋には、いくつか花が飾られている。
   綾乃は花が好きなのだろう。
   小生の嗅覚を刺激する花の香りは、まぁ悪いものじゃない。】

俊樹「それではまた、失礼しました。」

綾乃「今度は、何かお菓子くらい出したいので、私からお誘いしますね。」

俊樹「クスッ、ありがとうございます。」

シオン【大した長居をすることもなく、俊樹は去って行った。
   カキツバタと呼ばれた紫の花は、綾乃が大きな花瓶に挿し、
   ガラスのテーブルに乗っけられた。】

綾乃「はぁ〜、ビックリした。まさか直接来訪されるとは思ってなかったぁ・・・」

シオン【何やら緊張の糸が解けた様子。どれ、話でも伺おうか。】

綾乃「わっ、どうしたのにゃんこ?」

シオン【ソファーに座った綾乃の膝上へ飛び乗る。
   走り回るにはまだ体が言うことを聞かないが、この程度なら十分できる。
   綾乃の膝上を介してテーブルに乗り、花の挿された花瓶を見やる。
   花など愛でるような小生ではないが、これが綺麗なものであることくらいはわかる。】

綾乃「ふふっ、にゃんこはお花好きなのかな。これね、カキツバタって言うんだよ。」

シオン【小生の頭を撫でながら、花について説明を始める綾乃。
   名前くらい、先ほど俊樹が言っていたのを聞いていたぞ。】

綾乃「『幸せは必ず来る』『幸せはあなたのもの』っていう花言葉があるんだ。
   俊樹さん、ホント綺麗なお花持ってきてくれるんだよね〜」

シオン【綾乃がとても嬉しそう。花が好きなのだろうか。
   ・・・いや、それだけじゃないな。】

綾乃「俊樹さんはね〜、私の働いているカフェの店長さんなんだけど、
   とってもカッコよくて、優しくて、私が中学生の頃からお世話になってるんだ。
   私、お父さんとお母さん、早くに亡くしちゃったから、寂しかった。
   でも、俊樹さんが居てくれたから、元気でいられたんだ。」

シオン【小生を撫でつつ、嬉しそうに語っている。
   綾乃は俊樹のことが好きなのだ。
   だが、なぜそのように辛そうな目をしているんだ?】

綾乃「優しくしてもらえるんだけど・・・それは、私が可哀想だからだよね。
   中学生で両親を亡くして、一人ぼっちで、人付き合いもそんなに上手じゃなくて。
   せいぜい私は、俊樹さんにとって妹みたいにしか見られてないんだろうなぁ。」

シオン【なんという過小評価。綾乃のような優しい人間には殆ど会ったことがないぞ。
   猫に優しい人間は皆いい人間だ、小生が言うのだから間違いない。】

綾乃「・・・異性として好き、なんて言ったら、俊樹さんの迷惑だよね。
   これ以上、近づいちゃいけない、かな。」

シオン【さっきまでの幸せそうな綾乃はどこへやら、泣きそうな顔をしている。
   まずい、居心地の悪い空気だ。
   話を無理やり切り替えてやろうと、思わず『にゃー』と鳴いてみせた。】

綾乃「っ、いけない!悪いことばっかり考えてた!・・・はぁ。」

シオン【うぅむ、まだ悪い空気を引きずっているようだ。
   人間の心情とはやはり難しい。
   小生を助けてくれた人間だ、何か手助けをしてやりたいものだが。】

綾乃「あ、そういえば、いつまでも『にゃんこ』じゃなんかアレだよね。う〜ん・・・・・」

シオン【綾乃が悩み始めた。なんだ、呼び方を変えるつもりなのか?
   ちなみに小生は名前など持っていない、野良猫だからな。】

綾乃「ん〜・・・っし!にゃんこ、今日から君は、『シオン』だ!よろしくね、シオン!」

シオン【シオン、それが小生に与えられた名前か。
   猫という総称ではなく、小生だけの呼称。
   ・・・まぁ、綾乃が笑顔になったのだから、今日からシオンとなろう。】

綾乃「よいしょっと。そろそろお昼御飯にしよっか。」

シオン【小生をソファーに下ろし、綾乃が立ち上がる。
   今日の飯は・・・・・ネコマンマらしい。ちょっと残念。】



間。



[俊樹の営むカフェ。あちらこちらに花が飾られている。]

綾乃「こんにちは〜」

俊樹「綾乃さん、こんにちは。いつもの通り、表(おもて)の掃き掃除からお願いできますか?」

綾乃「はい!すぐ着替えてきますねっ!」

シオン【また1つ夜が過ぎて、綾乃は花だらけの店を訪れた。
   掃除、ということは、綾乃はここで働いているらしい。
   先ほどドアの近くに紫の花があった気がする。
   綾乃の部屋に持ってこられたカキツバタは、ここから持ってこられたようだ。
   ん?なぜ小生がここにいるのか?
   まぁ、それはその・・・・・・あれだ。】

綾乃「ええっと、箒は・・・」

俊樹「おや」

綾乃「?」

俊樹「猫さんも一緒にいらしたようですね。」

綾乃「え?・・・って、ええええええ!?シオン、ついてきちゃったの!?」

シオン【うぬ、綾乃の鞄に勝手に入ってみた。
   思いのほかバレなくて、逆に小生が驚いたぞ。】

俊樹「クスッ、あまりに大人しくしていらっしゃるので、一瞬置物かと思いましたよ。」

綾乃「すす、すみません!すぐに部屋に戻してきま・・・」

俊樹「(食い気味に)あぁいえ、大丈夫ですよ。暴れまわったりしなさそうですからね。
   何かあれば、別室で待っていてもらいましょう。」

綾乃「あ・・・・・すみません。ありがとうございます。」

俊樹「お気になさらず。猫は元々、自由が好きな生き物ですから。」

シオン【どうやら俊樹は、小生を追い出す気がないらしい。
   モノを壊したり人を襲ったりしなければ大丈夫だろう。
   綾乃は掃除をしに外へ行ってしまった。
   小生は俊樹の腕でじっと・・・・・しているのも退屈だ。】

俊樹「おっと」

シオン【俊樹の腕を抜け出し、店内に飾られている花でも鑑賞することにした。
   無論、人間がモノを食べるであろうテーブルには乗らなかった。
   なんか気が引けたし。
   ・・・ん、これは何の花だろう?】

俊樹「その花が気になるようですね。」

シオン【一応小生を監視していたらしい俊樹が声をかけてくる。
   小生は人間ではないため、返答はできない。
   ちょっと振り返って、また花のほうを見る。
   小生よりずっと背の高い、カキツバタとは違った紫の花。
   興味深く眺めていると、俊樹が説明してくれた。】

俊樹「シオンの花。今年は開花がやや早かったですね。」

シオン【シオン?小生と同じ名の花なのか。
   もらったばかりの名前と同じとは、なんと奇遇な。】

俊樹「・・・『遠い人を思う』、ですか。今の私を表すようだ。」

シオン【ん、俊樹が寂しそうな目をしている。少し前の綾乃みたいだ。】

俊樹「どうも私は、自分の気持ちを伝えるのが下手なようで。」

シオン【小生を抱え上げながら、吐き出すように呟いた。
   この表情は小生でも知っているぞ、呆れ顔というやつだ。
   俊樹は自分に呆れているのか。】

俊樹「もう少し、真っ直ぐ気持ちを伝えられればいいのですが・・・。」

シオン【そう言った俊樹の視線の先には、外で箒を左右に振っている綾乃の姿があった。
   あぁ、この人間たちは、恋慕の情に揺れているのか。
   互いに互いを思っているというのに、どうやら通じ合ってはいないらしい。
   綾乃と俊樹は、ずいぶんともどかしい状態にあるようだ。】



間。



[カフェ。外は雨が降っている。]

シオン【小生は小さい人間が嫌いだ。いわゆる子供というやつが大嫌いだ。
   人間の子供は大体横暴で、野良猫相手ともあればなおさら扱いがぞんざいになる。
   先日は雨の日に殴られたり蹴られたりと酷い目に遭った。
   痛いし、べちゃべちゃになるし、散々だった。
   ・・・・・だが、綾乃に助けてもらえたのは、本当に幸運だった。】

綾乃「シオン、ごはんだよ〜。俊樹さんが猫缶用意してくれたんだ♪」

シオン【ケガをして倒れていた小生が綾乃に拾われてからもう、12度目の夜が過ぎた。
   実を言うと、ケガはもう殆ど癒えている。
   綾乃は『少なくとも怪我が治るまで』と言っていたが、
   小生を追い出す気配は微塵も感じられない。
   それどころか、すでに飼い猫同然の扱いを受けている気もする。
   綾乃に甘えて生きていたほうが、生きやすいことは確かだろう。
   だが、ただ甘い蜜をすするだけというのは、小生の性分が許さぬのだ。】

俊樹「綾乃さん、少しよろしいですか?」

綾乃「あ、はい。なんでしょう?」

シオン【小生は猫ゆえ、所詮『にゃー』としか言えない。
   せめて感謝ぐらい伝えたいものだ。
   それと、恩返しの1つもしたい。】

俊樹「こちらのブーケを、信号の先にあるレストランに届けてほしいんです。」

綾乃「はい、ええっとレストランは・・・・・きゃあっ!?」

俊樹「っ!?だ、大丈夫ですか?」

綾乃「は、はい、すみません・・・」

シオン【テーブルの上からひょいっと跳んで、綾乃の背中を押してみた。
   期待通り、綾乃は俊樹のほうへ倒れこんだ。
   情のある男女は抱き合うものだ。】

俊樹「おやおや、悪戯な猫さんですね。」

綾乃「そう、ですね。・・・あ、あの」

俊樹「どうされました・・・・・っ、すみません!」

綾乃「い、いえ、私の方こそ・・・」

シオン【あぁ、せっかくくっついていたのに、離れてしまった。
   うぅむ、あれではダメだったのか。】

綾乃「わわ、私、行ってきますねっ!」

俊樹「お、お気をつけて。・・・・ふぅ。」

シオン【綾乃が顔を赤くして、店の外に走り出てしまった。
   あ、まずい、俊樹がこっちを見ている。
   おおお怒られるのだろうか!?】

俊樹「全く、あなたという方は・・・・・・困った猫さんですね。」

シオン【む・・・頭を撫でられた。ついでに抱きかかえられた。】

俊樹「彼女に触れられるのはありがたいのですが、それだけではダメなんですよ。
   この思いは、ちゃんと言葉にしないと伝わらない。
   はぁ、何を臆病になっているんでしょうね、私は。」

シオン【溜息混じりに自分を責める俊樹。
   人間は本当にめんどくさいな。
   好きなものを好きと言えばいいだけなのに、その一言すら上手く紡げないという。
   どうにかして伝える方法はないだろうかな。】



間。



[カフェの隣にある庭。たくさんの綺麗な花が咲いている。]

綾乃「あれ、シオン?シオン〜」

俊樹「猫さんでしたら、庭で花を眺めていらっしゃいますよ。」

綾乃「え、し、シオン、花壇を荒らしたりしてませんか!?」

俊樹「クスッ、元々大人しい猫さんですから。
   ひなたぼっこにはちょうどいいのではないでしょうか。」

シオン【綾乃が店の外に出ている間、小生は店の隣にある庭で花を眺めていた。
   ここには本当にたくさんの花が並んでいる。
   そう言えば、前に綾乃が、カキツバタには何か意味があると言っていた気がする。
   なんだったか・・・・・・・忘れた。】

綾乃「あ、いたいた。一人でここにいたの?」

シオン【綾乃が戻ってきた。正確に言うと小生は猫だから、一人ではなく『一匹』だ。】

綾乃「よしよ〜し。あ、カキツバタ。家にあるお花と同じだから、見てたのかな。
   ・・・『幸せは必ず来る』、か。
   俊樹さんのことだから、この花の花言葉くらい、知ってるよね。」

シオン【あぁそうだ、花言葉だ。花には特別な意味があるのか。なるほど。】

綾乃「私の幸せはなぁ・・・ちょっと難しい気もするけどね。ね、シオン?」

シオン【なんだ、花を贈ればいいのではないか。我ながら名案を思い付いたぞ。】

綾乃「ぅぁ、シオン、どこ行くの?」

シオン【綾乃の腕を抜け出し、花壇に落ちていたカキツバタの花を銜え、
   俊樹のもとへと急ぎ走る。
   猫が人間に意思を伝えるのはかなり困難なことだが、
   そこは・・・あれだ、ノリってやつで。】

俊樹「おや、猫さん。」

シオン【おい俊樹、お前に名案を持ってきたぞ。】

俊樹「いかがなされましたか?・・・これは、カキツバタ・・・」

シオン【これ見よがしに俊樹の足元に花を置いてやる。
   俊樹が花を手に取った時、ちょうど綾乃がやってきた。】

綾乃「シオン!もう、急に走り出したかと思ったら・・・」

俊樹「クスッ、私に花を届けに来たみたいですよ。」

綾乃「花、ですか?」

俊樹「えぇ。地面に落ちていたのでしょうね。
   綾乃さんにもお渡ししたカキツバタが・・・・ぁ!」

綾乃「?どうしました?」

俊樹「い、いえ、なんでもありません。奥のテーブルを片付けていただけますか?」

綾乃「はい、わかりました。片付けてきます。」

シオン【綾乃はどうやら仕事をしに行ったらしい。
   一方俊樹は、小生が持ってきたカキツバタを少し眺めた後。】

俊樹「・・・いいことを思い付きました。ありがとうございます、猫さん。」

シオン【優しく微笑んで、小生の頭を撫でた。
   小生の伝えたいことは、どうにか伝わったらしい。】



間。



[綾乃のマンション。小包が届き、綾乃が受け取りのサインをしている。]

綾乃「え〜っと・・・・・ん、できた。はい、ありがとうございます。」

シオン【俊樹に名案を伝えてから夜が3度過ぎたあたりで、
   綾乃の家に小包が届いた。
   ちなみに今日、綾乃は仕事がないらしい。】

綾乃「差出人は・・・え、俊樹さん?な、なんだろうこれ・・・」

シオン【どうやら俊樹からのプレゼントのようだ。
   小生の予想が正しければ、箱の中身は花だろう。
   早く開けろと催促するように、綾乃の膝上に乗ってアピールしてみる。】

綾乃「あああ開けたいけど、でも、なんというか、開けづらいっていうか・・・」

シオン【早く開けろ〜てしてしっ】

綾乃「こらこら、猫パンチしないの!今開けるから!」

シオン【分かればいい。さぁ開けろ。】

綾乃「ん〜・・・・・(箱を開ける)ば、バラの花!?真っ赤なバラが、なんでこんなに!?」

シオン【箱に入っていたのは、やっぱり花だった。
   しかも棘がついてるヤツがいっぱい。
   つまり小生は銜えられない、痛いから。】

綾乃「バラ・・・ううん、気のせい!愛を表す花なんて、気のせい・・・・あれ、これは?」

シオン【箱には花ではないものも入っていた。
   ちょっと長い薄っぺらな紙、しかも2枚。
   よく見ると花がついている。】

綾乃「栞・・・これ、胡蝶蘭だ。こっちは、ええっと、そう、リナリア!
   ・・・・・・なんでこの2つ?」

シオン【そんなもん、小生が知りたい。】

綾乃「何か、意味でもあるのかな・・・そうだ、花言葉の本は、っと」

シオン【すると綾乃は、棚に飾られていた1冊の本を開いた。
   その間、小生はテーブルに置かれた栞とやらをまじまじを眺める。
   どちらも綺麗な花がくっついている。
   ただし、どちらも平べったい。】

綾乃「胡蝶蘭胡蝶蘭・・・・・あった!花言葉は『あなたを愛しています』・・・えぇ!?」

シオン【何やら綾乃が驚いている。なんかわたわたしている。】

綾乃「どうしよう、い、いや、気のせいかもしれないし!リナリアは・・・嘘・・・・・」

シオン【さっきから何を一人でわたわたしているのだ?
   これらの花言葉に何か別な意味があったのだろうが、
   小生には全く以てさっぱりわからん。】

綾乃「これって・・・告白、だよね。
   バラも胡蝶蘭もリナリアも、全部、同じ花言葉だなんて。
   偶然にしちゃ揃いすぎてるし、全部『あなたを愛しています』って・・・」

シオン【綾乃の顔が赤い。いつもより赤い。熱でもあるのだろうか?】

綾乃「小包の宛先は私だし、差出人は俊樹さんで間違いないし・・・・夢じゃ、ないんだ。」

シオン【何度も箱や花や栞を見て、またわたわたしている。
   たぶんだが、俊樹の伝えたいことが、綾乃に伝わったのではないかと思う。
   ならば綾乃、今度はお前が俊樹に伝えたいことを伝える番だ。」

綾乃「・・・・・ょし!いつまでも、黙ってちゃダメだよね。
   もう子供じゃないんだし、言わなきゃ。」

シオン【決心がついたっぽい。
   あとは小生が何かしなくとも、少しはもどかしいアレも解消されることだろう。
   まぁ、頑張れよ、綾乃。」



間。



[カフェ。定休日の店に俊樹がいる。]

綾乃「こ、こんにちは・・・」

俊樹「おや、綾乃さん。今日は定休日ですが?」

綾乃「どうしても、その・・・すぐ、お話したいことが、あって。」

俊樹「?」

綾乃「(深呼吸)・・・わ、私!」

俊樹「!」



間。



[カフェ。お客さんがドアベルを鳴らす。]

綾乃「いらっしゃいませ!2名様でよろしいですか?
   おタバコは・・・はい、ではこちらの席へどうぞ。」

シオン【小生が拾われて、もう夜を数えるのも飽きたあたり。
   今では綾乃が辛そうな顔をすることもなくなった。
   毎日笑顔で、幸せそうで何よりだ。
   あぁもちろん、小生も幸せだし、この男も相変わらず微笑んでいる。】

俊樹「あなたには、たくさん感謝しなくてはなりませんね。
   しかし、猫のシオンさんにどうやってありがとうを伝えましょうか?」

シオン【やっと小生の名前を覚えたか。
   綾乃が付けてくれた名前だぞ、忘れるなよ俊樹?】

俊樹「クスッ、悩むまでもありませんでした。これをあげましょう。」

シオン【すると、俊樹は近くにあった花をいくつか、
   小さな花瓶に移して小生の前に置いて見せた。
   なんだこの花?】

俊樹「カスミソウ。『ありがとう』という花言葉があります。
   ・・・猫さん相手になら、直接言葉にして言いやすいのですがね。」

シオン【どうやら言葉の伝わらぬ相手への謝辞のようだ。
   なるほど、これは感謝の意を表す花なのか。
   これもまた綺麗で愛らしい花だ。】

俊樹「気に入られたでしょうか?」

シオン【気に入ったぞ、と伝えるべく、俊樹の方を見て『にゃー』と鳴いた。】

俊樹「それはよかった。」

シオン【理解したらしい。こいつはエスパーなのか?】

綾乃「俊樹さん!いつもの常連さんがいらっしゃってますよ!」

俊樹「おや、もうそんな時間でしたか。
   ちょうどいい時間ですし、綾乃さんは少し休憩なさってください。」

綾乃「はい、わかりました。シオ〜ン、いい子にしてた〜?」

シオン【俊樹を入れ替わる形で、仕事をしてきた綾乃が小生の頭を撫でる。
   今日はかなり優遇されているぞ。
   俊樹から猫缶ももらったし、さっきは感謝の意を込められた花を・・・・あ。】

綾乃「わっ、シオンどうしたの?」

シオン【忘れてた、というより、抜けてた。
   小生はまだ、綾乃に感謝の意を伝えていない。
   拾ってもらった、世話をしてもらっていることの感謝ができていない。
   一応恩返しはしたつもりだが、本人に伝わっていなければ意味がないではないか。
   少し前までの小生には、感謝を伝える手段がなかった。
   しかし、今は目の前にある。】

綾乃「え?どうしたの、お花持ってきて。」

シオン【花瓶に挿された花を1つ銜え、綾乃の前へ運んだ。】

綾乃「私にくれるの?」

シオン【小生はただ『にゃー』と鳴く。】

綾乃「ふふっ、ありがとう、シオン。でもこれ、カスミソウ・・・・・・あ!」

シオン【綾乃もまた、カスミソウの花言葉を知っていたらしい。】

綾乃「カスミソウ・・・『ありがとう』・・・そっか。どういたしまして、シオン。」

シオン【どうやら、伝わったようだ。よかった。】

俊樹「綾乃さん、すみませんが、お手伝い願えますか?」

綾乃「あ、は〜い!」

シオン【花を誰かに贈る行為は、その人へ自分の思いを伝えることと同じ。
   人とは不器用でもどかしい、めんどくさい生き物ゆえ、
   花に伝えたい思いを託すのだろう。
   まぁ、人語を解(かい)せぬ小生にもできる、気持ちの伝え方というやつだ。
   拾ってくれてありがとう、綾乃。
   今度は小生から、カキツバタでも贈ろうか。】



End.





〜お約束のォあとがき〜
どうも、犯人です。
コメディーばっか書きすぎていたので、軌道修正(?)してみたかった\(^o^)/ムリダッタ
花言葉を調べていたらテンションが上がってきちゃってこのような形に(´ω`)テヘ
花で思いを伝えられるなんて、人間はなんてロマンチックなんでしょうねヽ(´∀` )ノ
にゃんだかず〜っと猫がひたすらモノローグやってますが、よかったらどうぞ。
		






   
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