<登場人物> キョウヤ:20代半ば。会社員。体育会系寄りで元気が取り柄。趣味で小説を書いている。 ヨル:キョウヤと同い年。ライター。物腰柔らかでどこか儚さがある。 ※この台本は鏡アキラ様作「エンゼルフィッシュ症候群」をリスペクトしております。 本家様の話題が登場します。(既読だとより楽しんでいただけるかと思います) リスペクト先はこちら⇒http://kagamiya.work/text/angelfish.html !━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━! [キョウヤの部屋。キョウヤがスーパーの袋とカバンを片手に帰宅する。] キョウヤ「ふい〜今日もおつかれさ〜ん、っと」 ヨル「おかえり、キョウヤ」 キョウヤ「おぅわびっくりした、ってなんだヨルか。ビビらせんなよもー」 ヨル「驚かせるつもりはなかったんだけど……ごめんね?」 キョウヤ「ははっ、いいっていいって、気にすんな!勝手に入れっつったの俺だし」 ヨル「恋人でもないのに合鍵渡すのもどうかとは思ってるけど」 キョウヤ「しゃーねーだろ、お前実家ねぇんだし。なのによく悪ぃもんに絡まれちまうし。 避難場所確保しとかねぇとあぶねぇだろ」 ヨル「半年前にお祓いしてもらってから、さすがに治まったよ。 わけのわからない嫌がらせも付きまといも、宗教勧誘も今のところゼロ」 キョウヤ「マジ?厄落とし成功?よかったじゃねぇか!」 ヨル「うん。まぁ、たぶん最後の厄が、その……」 キョウヤ「え゛、なんかあったのか?」 ヨル「……借りてたアパートなんだけど、1階の住人が寝煙草で火事を起こしかけて」 キョウヤ「火事!?おま、ケガしてねぇか!?なんか燃やされたもんとかあったり!?」 ヨル「おおお落ち着いて、消防車が来るほどじゃなかったから。 ただ、今回の件で大家さんがアパート取り壊すって言い出して、それで……」 キョウヤ「え、お前何も悪くねぇのに追い出された的な?」 ヨル「…………そういうこと、になります」 キョウヤ「ほんっっっっっとにこれで最後になることを祈ろうぜ!な? 部屋ならまた借りれるだろ?それまで俺んちねぐらにしとけ、な! 『俺んちはいつでも避難所にしていい』って言い出しっぺの法則!発動! 明日……は仕事だから明後日!明後日にでも荷物引き上げてこようぜ!」 ヨル「荷物は、貸し倉庫に預けたから大丈夫。ごめんねキョウヤ、いつも迷惑かけて」 キョウヤ「だぁから、気にすんなって!ほら、酒!俺の仕事終わりの酒に付き合えー!」 ヨル「う、うん、ありがと……あ、チューハイ」 キョウヤ「(缶を開けゴクゴクと飲む)っぷはぁ!疲れた体に炭酸がきくぅ〜!」 ヨル「振る舞いは中年に近づいてきてるのに、まだビールじゃないんだね」 キョウヤ「うるせぇ、甘いもん好きでもいいだろ?」 ヨル「クスッ、悪いとは言ってないよ。ただ、変わらないなぁって」 キョウヤ「俺がか?お前だって変わんねぇじゃん。 身長まぁまぁ伸びたけど体細ぇまんまだし、ちゃんと食ってんのか?」 ヨル「食べてるよ、いつもお腹いっぱい。キョウヤこそ、その……まだ書いてるの?」 キョウヤ「おう!今書いてんのは7割ぐらいの完成度だから見せらんねぇけど」 ヨル「……そっか、よかった」 キョウヤ「なんだ〜スランプか〜?せっかく仕事にもしてんのに」 ヨル「ううん、スランプではない。人の目線がわからなくて、モヤモヤしてるだけ」 キョウヤ「ひとのめせん?なんじゃそりゃ」 ヨル「先月キョウヤが書いた小説読んだよ、『逃げたお手玉』って話。 規則的にただ投げ回され続け、その手がミスしたら自分は落とされる。 他者の手で落とされるくらいならいっそ、二度と重力に逆らわぬよう、 曲芸師の手から逃げたお手玉。 その正体がまさか人だったなんて、ゾクゾクしてすぐ最初から読み返したくらい」 キョウヤ「へへっ、ヨルからもらう感想はいつもらっても嬉しいな」 ヨル「でも……自分の評価は他人とは一致しないんじゃないかって頭を抱えた。 コンクールへの応募作品だったけど、入賞すらしなかった。 自分が落選した時よりもずっと衝撃的で、視界がグラついたのを覚えてる」 キョウヤ「おいおい、作者の俺よりショック受けてどうすんだよ。 確かに俺は何度も何度も、それこそもう両手両足じゃ足りねぇぐらい落ちてっけど、 筆を折るつもりは微塵もねぇよ。 自分が面白いと思わねぇもんを評価されたってつまんねぇし、 やっぱ渾身の出来が評価されたら一番嬉しいだろ! そりゃあ才能とか素質とかってぇのもあるだろうけど、 いいもん書けたらマル、微妙だったらサンカクって言ってくれるじゃん?ヨル」 ヨル「え、あ、えっと……嫌、だったかな?」 キョウヤ「全然!お前嘘つかねぇからむしろ嬉しい!直接真っすぐな感想もらえるから!」 ヨル「……キョウヤ、すっごいポジティブ」 キョウヤ「あっはは!今評価されなくたって、ずーっと評価されなくたっていいさ。 いつか必ず、どっかで必ずって思いながら、そん時の力作を生み出し続ける。 俺の場合は仕事にするのが目標じゃなくて、自分の作品が評価される!ってのが夢。 趣味といえど躓こうが転ぼうが俺は止まらねぇよ、知ってんだろ?」 ヨル「うん、知ってる。学生時代からずっと見てきたから」 キョウヤ「一時期は勝手に競争相手に認定してたけど、結局全敗だったしな!はははは!」 ヨル「なんだそれ、っはははは!」 キョウヤ「あ、そうだヨル。最近本屋も行ってなくてヨルの本以外読んでねぇんだ。 たまにはヨルのおすすめの作品とか教えてくれよ」 ヨル「おすすめ、かぁ。う〜ん……そうだ、『エンゼルフィッシュ症候群』」 キョウヤ「お?面白そうなタイトルだな!」 ヨル「アマチュア作家のネット小説でね。印象的なセリフがあって……ほらこれ」 キョウヤ「ほほ〜。ネタバレしようが構わんから、その印象的なセリフ教えてくれ」 ヨル「ネタバレいいの?」 キョウヤ「お前が気になった、その感性に触れたもんが知りたいんだよ!」 ヨル「……『私、あなたといると、まるで水族館にいるような気分になるわ』」 キョウヤ「(考え中)…………タイトルにあるエンゼルフィッシュ、で、水族館。 そのセリフを言った人物がエンゼルフィッシュになったような感じ?を覚えた?」 ヨル「一応そう解釈してるつもり。タイトルにもなってる病名的な単語も感慨深いなって」 キョウヤ「エンゼルフィッシュってあの、よく水槽で飼われてる魚だろ?」 ヨル「人の目からすれば、水槽はとても狭い、窮屈な世界。 海や川といった大自然から切り取られた、箱庭の水の世界。 けれどエンゼルフィッシュはそんな中でゆったりと泳いでいて綺麗だ。 エンゼルフィッシュにとっては充分な環境なんだろう。 たとえ水槽の外に出られず死にゆく命だとしても、きっと」 キョウヤ「ん?どゆこと?」 ヨル「傍から見て否定的な、ネガティブな印象を受ける世界であっても、 住めば都、最初からその世界しか知らなかったとしても、 その場から逃げ出そうとはしないし、自分の中ではそれが正しいと考える。 人間も同じかもね」 キョウヤ「水槽で飼われることに自分は不満なんてないから、 それが不自由だと言われても本人には自由、か。 ん〜、俺らの世界で言うならそうだな…………あぶねぇ仕事してる系?」 ヨル「あまりいい喩えではないけれど、キョウヤは友達や彼女が風俗嬢だったらどう思う?」 キョウヤ「全力でやめさせにかかる!変な病気とかもらっちまうかもしれねぇだろ!?」 ヨル「た、たとえ話だってば」 キョウヤ「あああ、悪い、つい」 ヨル「ええっと……確かにキョウヤの意見ももっともなんだけど、 風俗業で働いている人からすれば割のいい仕事だと思う。 自分の身体を、夜の営みを対価に金銭をもらう。 その生活で安定しているなら、そこから逃げたいなんて思うかな?」 キョウヤ「あ〜確かに。安定していて、自分がいいと思ってんなら仕事として続けるよな」 ヨル「つまりそういうこと。自分の認識する世界が全てで、逃げる気なんてないんだ。 頑なに自分の世界の安寧を信じるし、妨害も亡命も望まない。 この作品を見た時、まるで本物の水槽を見ているような気分になったんだ」 キョウヤ「俺たちから見たら綺麗、他の魚たちから見たら窮屈そう、でも当の魚は満足」 ヨル「魚の気持ちなんて実際にはわからないけどね。綺麗だけど悲しい感じがした」 キョウヤ「なるほどなー、不思議で面白ぇ視点!俺だったら……水槽は会社かな?」 ヨル「ふふっ、上司と殴り合いの喧嘩して、社長に気に入られるような会社員だもんね」 キョウヤ「定年まで飼い殺されてやりますよ〜。 (チューハイを一口飲む)ヨルは自分にとっての水槽とか思いつくか?」 ヨル「ん、そうだな…………ここかな」 キョウヤ「ここ?俺の部屋?」 ヨル「うん」 キョウヤ「別に囚われても囲われてもいねぇじゃん!」 ヨル「そうだけど……うん、そうだね。おかげでいいネタが思いついた」 キョウヤ「お、新作か!」 ヨル「うん。よかったら協賛にキョウヤの名前書く?ネタくれたのキョウヤだし」 キョウヤ「え……ん〜〜〜〜〜〜いや!やめておく! 俺は自分の作品で自分の名前を売りたい!そんなこだわり!」 ヨル「君らしい」 キョウヤ「その代わり、最初に俺に読ませてくれよ!編集さんとかよりも前に!」 ヨル「わかった、いいよ。約束」 キョウヤ「っしゃ!(チューハイを飲みきる)っふう!1缶飲んだから晩飯作る!」 ヨル「食前酒……」 キョウヤ「さ〜て食材は〜〜〜…………サイコロステーキ丼な!」 ヨル「あ、キョウヤの半分の量で……」 キョウヤ「あいっかわらず小食だなー!」 ヨル「キョウヤが大食漢なだけだよ」 キョウヤ「♪〜♪〜……なー、新作のタイトルとかもう決まってんのかー?」 ヨル「うん。『アクアリウム・ホリック』」 キョウヤ「うお、ほ、ホリックって、なんか重そうな単語だな……」 ヨル「和訳だと中毒、って意味になるもんね」 キョウヤ「さっきの『エンゼルフィッシュ症候群』のオマージュか?どんな病だよ?」 ヨル「たとえ自分を脅かす可能性があっても、それを手放すことができない。 肉体的に、社会的に良く思われなくても、ついそこへ戻りたくなってしまう。 穏やかで閉塞感がなく、自由よりも自由とさえ思えるような、安寧の場所へ」 キョウヤ「あ〜なるほど、中毒か。 アル中だったら酒やめれねぇってことだから、アクアリウムが手放せねぇ。 外の世界に行っても、住み慣れた水槽のがいいって気持ち、どうだ!?」 ヨル「さすがキョウヤ」 キョウヤ「ふふん、伊達にヨルのファン第1号名乗ってねぇぜ?」 ヨル「ありがとう」 キョウヤ「完成が楽しみすぎてますます腹減ったわ!ほい、ヨルの分!」 ヨル「ありが…………よく食べれるね、その量」 キョウヤ「普通だろ?」 ヨル「もう1つのどんぶり使って山にしたような量は普通じゃないよ」 キョウヤ「まじか。ま、燃費の違いってことで!いっただきまーす!」 ヨル「いただきます」 キョウヤ「(咀嚼)そういや、なんで俺の部屋が水槽なんだ?」 ヨル「え?」 キョウヤ「さっきヨルにとっての水槽がここって答えただろ」 ヨル「あ、あぁ、それは……一番安心できる場所だから」 キョウヤ「俺の部屋が?」 ヨル「正確には、キョウヤの近くが、かな」 キョウヤ「ん?俺そんなオーラみたいなの出してる?」 ヨル「それはわからないけど。 う〜ん、『エンゼルフィッシュ症候群』の言う水槽とはまた違うのかもしれない」 キョウヤ「違うって?」 ヨル「『エンゼルフィッシュ症候群』における水槽の定義は、傍から見て、 『あまり良い印象を感じない』『ネガティブな印象を受ける』世界。 キョウヤの近くは、そういうのじゃない」 キョウヤ「逆ってことか?」 ヨル「そうでもなくて、『ありきたりな』『なんてことはない』、そういった印象。 ポジティブでもネガティブでもない、好悪で分けられない感じ。 だからきっと、誰の共感も得られないんじゃないかな」 キョウヤ「うう、今回のはさすがに難しいな…… けど、せめて完成したもん読んだら絶対読み解いてやる!」 ヨル「クスッ、頑張って」 キョウヤ「そうだ、話変わっけどヨル、いっそルームシェアしねぇ? わざわざ他で借りて行き来するより楽だろ。 そしたら気兼ねなくなるだろうし!よしそうしよう!」 ヨル「い、いいの?料理、できないんだけど」 キョウヤ「飯以外やってくれりゃ助かる!あとはパソコンありゃ執筆できるだろ!」 ヨル「……依存症って、なかなか治せないんだけどね」 キョウヤ「ん?うち来る依存症か?酒とか煙草とかより健康的な分マシだろ、っはははは!」 ヨル「自分にとって居心地のいい場所は、他人の目にまで魅力的には映らない。 ありきたりな空間であっても、他愛もないこじんまりとした部屋であっても、 ある魚にとっては本当に素敵なアクアリウムなんだ。 『エンゼルフィッシュ症候群』。 自ら水槽に閉じこもることを選ぶような病。 けれどこの体を蝕むのは……安寧の味を覚えてしまった結果、 結局元の場所へ戻りたがるホリック。 悩みも迷いも全部晴らしてくれる素敵なアクアリウムなんだよ、キョウヤ」 End. 〜久々にときめきのようなものを感じた〜 どうも、犯人です(約3年ぶり)。 折れかかった筆がこうなるとは…………しゅごいときめきをありがとう。 囚われることを肯定するような、ちょっとだけでも救いが表れていたらいいな((((´ω`)))) ぜひ、ぜひ!本家様を読んで!拙作も!よかったらどうぞ。 (余談) キャラ名もハル⇔ヨルで似せました。 キョウヤは原作者様のお名前の一部「鏡」+「ヨル=夜」で「鏡夜=キョウヤ」でございます。
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