Arc Jihad(アークジハード) -受けるは誉れなる咎-
・男女逆転は絶対にやめてください
・ネットブロードキャスト以外の利用はご一報ください
・少しでも疑問があれば利用規約を読んで、それでも分からないなら問い合わせください
＜登場人物＞ [ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー(フィーネ)]♀ 表記：Seraphine von Schweizer 年齢：19 詳細：騎士の家に生まれた才色兼備の女騎士。 冷静かつ気丈で、あまり感情を表に出さない。 担い手は自分以外と契約した者も含め皆従者扱いしている。 仇敵を討ったことで、僅かながら心に余裕ができてきた。 [シグルズ]♂ 表記：Sigurd 年齢：(外見)20代半ば 詳細：魔剣『ダーインスレイヴ』の担い手で、フィーネの契約者。 どこか含みのある物言いをするほか、狂信的なまでにフィーネを気に入っている。 やや短気な面があり、仲間内以外には不機嫌さや憎悪などを露呈しやすい。 魔剣の能力：永遠に癒せない傷を与える(代償：剣が血を浴びるまで鞘に納まらない) ※鞘の能力＝全ての聖剣・魔剣が持つ能力による事象を鎮静化・解除する [ハイディングスフェルト・フォン・シラー(ハイド)]♂ 表記：Heidingsfeld von Schiller 年齢：21 詳細：シュヴァイツァー家に仕える心優しい執事。 幼少の頃からフィーネの付き人であり、フィーネには強く物を言えなかったが、 魔剣を手にして以来決意を固め、時に強く行動に出ることも。 執事としての能力は当然高く、また変幻自在なロキ合わせる柔軟さを持つ。 女運に恵まれていないようで、推しや誤解に振り回されることが多い。 [ロキ]♀ 表記：Loki 年齢：(外見)20代半ば 詳細：魔剣『ミスティルテイン』の担い手。 芝居じみた言動をしており、適合者以外には嘘や真逆の表現を使うことが多い。 悪戯好きで、信頼ゆえによくハイドを振り回す。 また、「楽しそう」という理由で、フィーネを第二の主人のように捉えている。 魔剣の能力：光・熱・視力を奪う(代償：マージ・ウェイク状態でなければ一瞬のみ有効) !━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(ﾟДﾟ⊂⌒｀つ≡≡≡━━━! [日本のシュヴァイツァー邸。フィーネの部屋の前で、ハイドが深刻そうな顔をしている。] ハイドM「フィーネ様がご帰還されてから、44時間が経過しようとしていた。 左腕を負傷し、担い手であるシグルズの腕に抱えられた姿を見た時は、 最悪の事態すら想定できた。 しかし、フィーネ様は・・・・・ただ、疲労のあまり眠っていただけだった。」 ロキ「丸2日も寝たきりとは、シグルズはどれほど優しく扱ったのやら。」 ハイド「マージ・ウェイク状態での戦闘でここまで様態が悪化したのは異例ですが、 命に別状はないとのことですから、問い詰めるのはまたの機会にします。」 ロキ「ふむ。お前は感情を隠すのが本当に下手だな、ハイド。」 ハイド「え？」 ロキ「2日前の黄昏時、ボロボロのフィーネと、フィーネを抱えて戻ってきたシグルズ。 大切な主人をぞんざいに扱ったシグルズに怒り、 自分に何も伝えず復讐相手のもとへと赴いたフィーネに悲しみ、 そして、全てを終え、生きて帰ってきたフィーネに安堵し、己が如く喜ぶ。 堅物の主人に比べ、感情が駄々漏れだ。」 ハイド「っ！ず、随分、観察力が高いんですね。」 ロキ「なぁに、嬉しそうなお前が少々ムカついただけのこと。ククッ」 ハイドM「そう愉快そうな笑みをこぼすロキの方こそ、私には喜んでいるように見えた。 今は、かつてシュヴァイツァー邸で家政婦をしていた花蓮(かれん)さんが、 わざわざ有休を使ってフィーネ様を看護している。 同じ女性の方が、身動きの取れないフィーネ様の面倒は見やすいと思う。 と、その時。」 ロキ「お？もう起き上がれたか。強い人間だ。」 ハイド「え・・・・・ぁ、フィーネ様！」 フィーネ「・・・おはよう。と言っても、もう昼過ぎだけれど。」 ハイドM「振り返った先には、電動の車椅子に身を預けたフィーネ様がいらっしゃった。 背もたれに寄り掛かっている様子はないが、声の調子や表情にまだ疲れが見える。 とはいえ、たった2日ほどで起き上がれるまでに回復したこと、 担い手であるシグルズよりも先に復帰できたこと、 そして何より、酷使したはずの右腕を動かせていることに驚きが隠せなかった。」 ロキ「実際の負傷より疲労の方がキツそうだが、調子はどうだ？」 フィーネ「体のどこも死んではいないけれど、今は歩くことさえ困難な状態。 せめて片腕だけでもと思って、右腕の復帰を優先してもらったわ。」 ハイド「マッサージ療法でしょうか？しかし、剣を握ることは・・・・・・」 フィーネ「将来的に不可能なわけじゃない。今は酷く疲れているだけ。 剣を持ち上げるのは無理でも、紅茶の入ったカップを持ち上げる程度ならできる。」 ロキ「ならばよかろう。しかし、今のフィーネはただの生娘というわけだな。」 ハイド「ロキ！」 ロキ「嘘は言ってないぞ？」 ハイド「(小声)ひ、否定はできませんが・・・！」 フィーネ「クスッ、魔剣を握るどころか、立ち上がる事さえできないもの。その通りね。」 ハイド「っ、フィーネ様？」 ロキ「ほれ見ろ、本人も自覚している。ククッ」 ハイドM「あまり見せることのなかった笑みを零すフィーネ様。 しばらくは魔剣を握ることもできなくなったというのに、 仇討ちを終えたフィーネ様が纏っていたのは、とても穏やかな空気だった。」 ロキ「そういえば、看護していた女はどうした？」 フィーネ「カレンには礼を言って、すぐ帰ってもらったわ。」 ハイド「病院でのお仕事もありますからね。 こちらの急な呼び出しに応えて頂いたわけですし、 私からもお礼を申し上げたかったのですが。」 フィーネ「また会うこともあるでしょう。彼女の時間を必要以上に奪うわけにはいかない。」 ハイド「それもそうですね。」 ロキ「ん・・・・・(わざとらしく)どれどれ、主人がやっと起き上がったのだ、 さぞ活気横溢(かっきおういつ)している担い手の面(つら)でも見に行くとするか」 ハイド「あまり刺激してはいけませんよ、ロキ」 ロキ「あぁ〜、任せろ〜」 ハイドM「去りゆくロキの背中を見送り、私はそっとフィーネ様の車椅子を押した。 お茶の話を出されたということは、昼食よりもお茶が欲しいということ。 2日も自室にこもりきりでは、太陽の光にも当たりたいはず。 長年のやりとりから伝わる『なんとなく』という感覚は、 かけるべき言葉が思いつかない時にとても役に立つ。 まぁ、殆ど誤魔化しのような手段であることは、 フィーネ様にはバレているような気がしている。」 間。 [シュヴァイツァー邸、客室。シグルズがベッドの上で息を切らせ苦しんでいる。] シグルズ「はぁっ、はぁ、ぁ・・・・・はぁ・・・くそ・・・・・くそッ！」 ロキ「やれやれ、主人よりも重傷だな貴様。」 シグルズ「！？てめ、ロキ、どっから入りやがった！？」 ロキ「そこの窓だ。施錠もされていない引き戸のような窓だったぞ？」 シグルズ「チッ、兵装か。『空飛ぶ靴』って存在を忘れてたよ。」 ロキ「ケッケッケッ。・・・・・して、随分とまぁ滑稽な。」 シグルズ「うるせぇ、これでも、マシになった、ほうだ・・・はぁ・・・・・」 ロキ「息も絶え絶え、自我を保つのでやっとか。 フィーネの身体を好き勝手動かした代償がそれでは、 自業自得を通り越して哀れみも生まれよう。」 シグルズ「ハッ、お前でも、他の担い手を憐れむとはな、ハハハハハ！」 ロキ「マージ・ウェイクの負荷が軽くないことくらい、貴様らもわかっていたはず。 否、承知の上で強行したとあれば愚行にすぎん。 いくら復讐劇とはいえ、我々が戦闘不能に陥っては元も子もないぞ。」 シグルズ「・・・俺自身はセーブしたつもりだ、一応。 けど、フィーネはあくまで俺を『武器』として扱った、それだけだ。」 ロキ「ほう？そんな扱いを喜んで受けていたとは、貴様はマゾか？」 シグルズ「うるせぇ、俺は別に、っ、ぅぐ・・・あ・・・・・！！！(頭を抱える)」 ロキ「頭痛か？」 シグルズ「(独り言)違う、俺は俺だ・・・アイツも、もう消えた・・・・・消えたんだ！ 俺はシドじゃねぇ！ベルンも、ブリュンヒルデも、殺して、消した！！！」 ロキ「・・・・・記憶の錯綜、否、トラウマの再燃か。 肉体的疲労による影響は契約者ほどでないにせよ、皮肉なものだ。」 シグルズ「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・・・フィーネ、フィーネ、は？どうなった？」 ロキ「ん？あぁ、貴様とは比べ物にならないほど元気なものだ。 身体こそ不自由な状態とはいえ、強き者よ。 今頃、ハイドと茶でも飲んでいるだろうな。」 シグルズ「(溜息)・・・・・そうかよ。」 間。 [日本のシュヴァイツァー邸。テラスにて、フィーネが庭を眺めている。] ハイド「フィーネ様、お茶をお持ちいたしました。」 フィーネ「ありがとう。」 ハイド「2日振り、ですね。あ、今茶菓子を・・・・・？」 フィーネ「・・・・・。」 ハイド「あの、フィーネ様？」 フィーネ「・・・綺麗ね。」 ハイドM「差し出した紅茶のカップに手を付けず、フィーネ様は庭の方を見ていた。 フィーネ様の視線の先には、私が普段手入れをしている花壇がある。 しかし、何を綺麗と言ったのか確信が持てず、続ける言葉に戸惑ってしまった。」 フィーネ「いつも、あなたが手入れしているのでしょう？」 ハイド「っ、は、はい、花の手入れでしたら、毎日欠かさず・・・」 フィーネ「以前は、霞んで見えていた気がする」 ハイド「え？」 フィーネ「花が美しいものだとは知っていた。でも、知っていただけ。 紅茶も、好きだけれど、嗜んでいただけのような。 私が守った世界は、こんなに綺麗だったなんて、気づけていなかった。」 ハイド「・・・・・魔弾の射手(しゃしゅ)を倒し、少し余裕ができたのではないでしょうか。 一時的戦闘離脱による視点の移動、戦いからわずかに目を逸らせただけでも、 以前のフィーネ様からすれば大きな安寧かと。」 フィーネ「そうね。お祖父(じい)様の跡継ぎだとか、魔剣の契約者だとか、 仇討ちに対する使命感だとか、そんなことばかりに意識を置いていたもの。 シグルズも重傷のようだし、しばらく戦闘はあなたたちに任せっきりになりそうね。」 ハイド「謹んで拝命いたします。」 フィーネ「(小声)・・・あなたがいて、本当によかった。」 間。 [シュヴァイツァー邸、客室。まだ肩で呼吸しているシグルズと、窓際にいるロキ。] ロキ「多少は落ち着いたか？」 シグルズ「まぁ、な。少なくとも、フィーネより先に、完全復帰、しねぇと・・・・・」 ロキ「担い手が使えぬ以上、フィーネとて戦えぬわけだ。 貴様の主人の手を煩わせるような真似は、貴様自身が許せぬのだろう？」 シグルズ「ククッ、俺ぁフィーネの武器だからな。 武器のない契約者はただの人間と同じ、フィーネだってか弱い女の子ってわけだ。」 ロキ「大役は務め上げた。あとはこの戦いが終わるまで、なんとか生き残るだけか。」 シグルズ「・・・聖剣と魔剣、か。んなもん、なんでわざわざ分けたんだか。」 ロキ「争わせたかったか、あるいは争いたかったのか。 それとも、分かれたことが争いとなったか、初めから争いがあったのか。」 シグルズ「いずれにしろ、俺たちが戦い続けなきゃなんねぇことに変わりはねぇよ。」 ロキ「それもそうか」 シグルズ「そういや、お前はなんで担い手になったんだ？」 ロキ「フッ、愚問だなシグルズ。私が『愉快』という言葉に引き寄せられぬとでも？」 シグルズ「・・・・・嘘、だな。んでもってお前、ホント嘘つくの下手だよな。」 ロキ「おや、今更気づいたか？」 シグルズ「改めてわかった、が正しい。」 ロキ「ハッハッハ！なぁに、堅物の主人よりわかりやすかろう！」 シグルズ「フィーネは特別だ。・・・・・お前はわかりやすいが、『わかりづらい』。」 ロキ「ふふん、狡猾神ロキの名は伊達ではないぞ。」 シグルズ「ケッ、そうかよ。」 ロキ「(わざとらしく)さてさて、フィーネにはシグルズのありのままを話してやろう。 できればそのままくたばってくれるよう、神に祈りでも捧げてみるか、ハッハッハ！」 シグルズ「・・・何やってんだか。」 間。 [シュヴァイツァー邸、中庭。] フィーネ「ハイド、もう一杯、お茶が欲しいわ。」 ハイド「はい、只今。・・・・・どうぞ。」 フィーネ「ありがとう。」 ハイド「片腕だけでもすぐ動かせるまでに回復できたのは不幸中の幸いでしたね。 食事を始めとした日常的な行動、特に女性である以上、 お着替えや入浴なども大変ですし、それに・・・」 フィーネ「(食い気味に)それに」 ハイド「っ！」 フィーネ「あなたの淹れるお茶も、満足にいただけなかったでしょうね。」 ハイドM「それは。フィーネ様が見せた数少ない安堵で。 長年仕えてきた私にとって、至上の喜び。 花壇を褒めていただけたことといい、自分が今までやってきたことへの好意は、 自分が辿ってきた道を、費やしてきた時間を肯定できる最大の誉れだった。」 ロキ「(やや大げさに)やれやれやれ我が主人は実にわかりやすい。 犬の如き尻尾をぶんぶん振り回している幻覚まで見えるぞ、ハハハハハ！」 ハイド「ぅわっ、ろ、ロキ！いいいつから！？」 ロキ「ついさっきだ。担い手の方はからかい飽きた。」 フィーネ「その様子だと、再起不能でないのは確かね。十分な朗報よ。」 ハイド「あなたって人は・・・・・」 ロキ「受けたるは誉れなる咎。大一番を無事に終えたのだ、長き休養を得るといい。」 フィーネ「言われずとも。あなたやマーナガルムがいる、焦りも絶望もしていない。」 ハイド「いつ何者が襲ってくるかわからない以上、前線はお任せください。」 フィーネ「えぇ。」 ロキ「さてハイド。私も茶が飲みたいぞ。」 ハイド「え？仕方ないですね。今カップをお持ちいたします。」 ロキ「お〜頼んだ〜」 ハイドM「相変わらず私を振り回すロキの要望も、いつもより楽なものに思えた。 心なしか足取りも軽く感じられ、自分自身が本当に喜んでいることがわかる。 フィーネ様が、安心できる時間をやっと得られた。 それは私が最も望んでいたもので、おそらくは、今は亡きフィーネ様のご両親も、 祖父バジリウス様も、きっと。」 フィーネ「・・・浮かない顔ね。」 ロキ「それは私の顔の事を言っているのか？」 フィーネ「シグルズが何か、あなたの気に障る事でも言ったのでしょう。」 ロキ「やはり主人の素質というものが違うな。私の契約者とは大違いだ。」 フィーネ「あなたはとてもわかりやすいわ。嘘も隠し事もまるで下手。」 ロキ「おや、シグルズには『わかりづらい』と言われたぞ？」 フィーネ「見えていないだけ。あなたの隠し方は、彼の死角にある。 ・・・・・何かを切に願っている、そんな気がする。」 ロキ「さすが我が主人の主人！・・・キッチリしっかり当ててくれる。」 フィーネ「あなたは誰より優しい。ハイドを巻き込みたくないがゆえに、それを願う。 もちろん、『あなたが望んでいるからこそ』でもあるけれど。」 ロキ「あぁ。できれば本当に回避したいのだ。あれだけはシャレにならん。」 フィーネ「・・・・・・無理なのでしょう？」 ロキ「！？」 フィーネ「人の本質を捉えるには、その人の目を見ればわかる。 あなたはすでにその存在を認識している上、向こうにも捉えられた可能性が高い。 巻き込むことを確信しているなら、覚悟を決めなさい。 ハイディングスフェルトは、生半可な覚悟で魔剣を握ったわけじゃない。」 ロキ「・・・私とて同じものを握ったのだ。これ以上『奴』と遊ぶつもりもない。」 To be continued.
こちらの台本は、コンピレーション企画「Arc Jihad（アークジハード）」にて書かせて頂いたものです。
他の参加者様の台本はこちらへ
台本まとめに戻る TOPに戻る