<登場人物> [ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー(フィーネ)]♀ 表記:Seraphine von Schweizer 年齢:19 詳細:騎士の家に生まれた才色兼備の女騎士。 冷静かつ気丈で、あまり感情を表に出さない。 魔剣側の教団に所属しておらず、担い手を配下扱いにしている。 [シグルズ]♂ 表記:Sigurd 年齢:(外見)20代半ば 詳細:魔剣『ダーインスレイヴ』の担い手で、フィーネの契約者。 狂信的なまでにフィーネを気に入っており、常に状況を楽しんでいる。 軽い表現をしても、どこか陶酔しているような、重みや含みのある言い方をする。 魔剣の能力:永遠に癒せない傷を与える(代償:剣が血を浴びるまで鞘に納まらない) ※鞘の能力=全ての聖剣・魔剣が持つ能力による事象を鎮静化・解除する [アガーテ・クラインハインツ]♀ 表記:Agathe Kleinheinz 年齢:(当時)25 詳細:快楽主義者の戦闘狂。 年齢の割には知能が低く、魔弾の影響により罪悪感が欠如している。 戦うことに快楽と楽しさを見出している上、躊躇いがないため非常に凶悪。 [ルシファー(ルキ)]♂ 表記:Lucifer 年齢:(外見)20代後半 詳細:魔弾『フライクーゲル』の担い手。 契約者を罪へ誘う体質を持ち、これに耐えられる者を探して契約を繰り返している。 物静かで常に無表情だが、どこか悲しい雰囲気を纏っている。 魔剣の能力:射出した魔弾をコントロールする(代償:1発ごとに消費、継続可能時間63秒) 魔弾に触れた人間を一時的に支配する(代償:継続可能時間63分) ※ルキの能力:血を与えることで、万物の傷を瞬時に癒す ※Fahr zur Hölle:地獄に堕ちろ。 !━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━! [人気のない広い通り。フィーネとシグルズが曇天の下を歩いている。] ルキM「太陽が世界に光をもたらす時間帯だというのに、 俺の見える世界は薄暗く、空気は少し冷たい。 分厚い雲に隠された空を見ようと宙を眺めていると、 俺の隣にいた契約者が嬉しそうに笑みをこぼした。」 アガーテ「ふふっ、来た来た♪」 ルキM「視線を下げたその先にいたのは、暗紅色(あんこうしょく)の女と、 女とは対照的に、白に包まれた男。 彼らの目には、ただ1つの感情だけが宿っていた。」 アガーテ「お久しぶりかしらん?魔剣の契約者さん?」 フィーネ「・・・・・。」 アガーテ「挨拶ぐらい交わしてくれてもいいんじゃなぁい?愛想ないわねぇ。」 フィーネ「・・・必要もないことを。」 アガーテ「クスッ、それもそうね。けど、まともに名乗りもしないのは失礼だわぁん。 ・・・・・アガーテ・クラインハインツ、魔弾の射手(しゃしゅ)よ。よろしく♪」 フィーネ「・・・・・ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー。咎負いし騎士なれば。」 アガーテ「ふふっ!じゃあ、さっさとヤりましょう?ルキ!」 フィーネ「シグルズ。」 シグルズ「あいよフィーネ。待ちに待った決着の時だ、存分にやろう。」 フィーネ「えぇ。マージ・・・!」 アガーテ「ウェイク!」 ルキM「避けられないことは知っていた。 だからこそ、満身創痍で戦闘態勢に入る2人に対し、 俺は諦めを以て自らの契約者の手を取った。 シグルズはゼラフィーネと、俺はアガーテと一体となり、 それぞれがそれぞれの武器を構える。」 シグルズ「『揮(ふる)えよ その身で刻みし鮮血を喰らえ ダーインスレイヴ』!」 ルキ「『舞い踊れ その身で咲かせよ罪の華 フライクーゲル』」 フィーネ「黒い魔弾が2つ、あれが本体。でも、狙う必要はない。」 アガーテ「勝つことじゃなくて、私を殺すことが目的のようねぇ? だったら、勝利条件は著しく絞られちゃうわよぉ?」 フィーネ「構わない。あなたとて、私の命以外に興味などないでしょう?」 アガーテ「アッハハハハ!よくわかってるじゃなぁい! 武器を壊したところであなたの身体も心も死にはしない。 その魔剣が壊れても、あなたは新しい武器を見つけて私の前に立つでしょうね! だったら、私の勝利条件だって同じよ!あなたを殺す!」 ルキM「向けられた殺気は鋭く、僅かな揺らぎも見せることはなかった。 アガーテが銃口を上げ、フィーネが切っ先を向ける。 先に動いたのは、魔剣の方だった。」 シグルズ「1年前のケリ、テメェを殺してつけさせてもらう! 『圧(の)し掛かるは闇 その身を蝕む悠久の呪い シュヴァルツ・フルーフ』!」 アガーテ「ふふっ、そんなぬるい風で私を捉えられるとでも!? 『フライクーゲル、ツィーレン』!」 シグルズ「フィーネ!」 フィーネ「わかってる、叩き落とす必要はない・・・!」 シグルズ「追従の弾丸、俺らを狙ってるだけなら、動きは単調だ!」 ルキM「放たれた魔弾は、何度も屈折を繰り返しつつゼラフィーネへ向けて飛んでいく。 だが、ゼラフィーネは決して魔剣を振るわず、着実に距離を縮めてきていた。」 アガーテ「あらあら頑張るわねぇ?今宵は舞踏会だったかしらぁん?」 フィーネ「ダンスは嫌いよ。踊るのも、躍らせるのも!」 アガーテ「じゃあ、もっと踊ってもらおうかしら!『ドッペル』!」 シグルズ「2つ目・・・・・いや、あれは!」 フィーネ「構わない。片方に集中して。」 シグルズ「鏡合わせの動きならまだ、ふっ!」 アガーテ「これならどう!?『シュネル』!」 フィーネ「っ!?」 シグルズ「フィーネ!」 アガーテ「ざぁんねん、かすっただけなんて。」 シグルズ「フィーネ、コントロールを!」 フィーネ「いいえ、このまま!」 ルキM「飛行する魔弾が一瞬だけ加速し、ゼラフィーネの黒衣をかすめた。 直撃を避けられた魔弾は、今も2つとも宙を舞い、ゼラフィーネを襲う。」 アガーテ「ほらほらほらほら!逃げてるばかりじゃ私の首なんて取れないわよぉ!?」 フィーネ「耳障り、煩わしい。」 シグルズ「だったら、さ!さっさと、やっちまおう、っと!はあああああああああ!」 アガーテ「突っ込んでくるつもり?無駄よ、迎え撃ってあげる!『フライクーゲル』!」 シグルズ「いつでもいいよ、フィーネ!」 フィーネ「『蔓延るは霧 その身へ絡む無形(むけい)の鎖 シュヴァルツ・ニーベル』!」 アガーテ「煤けた煙なんて出して、何を・・・・・あぁっ!」 ルキM「魔剣の鞘から黒い霧が放たれた。 魔弾が霧に触れた瞬間、それはただの弾丸に変わり、自由に飛び回ることなく、 真っすぐどこかへ飛んでいく。 向かってきた弾丸を紙一重で回避したゼラフィーネは、 そのまま魔剣を構えて突進してくる。」 アガーテ「ちょっとちょっと、聞いてないわよ!?」 シグルズ「その首ぃ、もらったぁあああああああ!!!」 アガーテ「あぁもう!『レオパルト・デア・ブルート』!」 フィーネ「そんな壁、斬り捨てる!はぁっ!」 アガーテ「ふふっ、その隙だけで十分よ?『シュターブ・デア・ヴィーナス』!」 フィーネ「くっ!?」 シグルズ「やべっ、一旦下がれ!」 アガーテ「『フライクーゲル』!」 フィーネ「っ、一発程度、ふっ!」 ルキM「魔弾のコントロールを失った以上、こちらに攻撃手段はなくなる。 咄嗟の判断で防御壁と発光弾を使ったアガーテが追撃を放つものの、 距離をとったゼラフィーネの魔剣に薙ぎ払われてしまった。 しかし、アガーテが追撃の失敗を気に留める様子はなく、 再生成した魔弾を悠長に装填し始めた。」 アガーテ「さっきの霧、相手の能力を無効化するのねぇ。 それじゃあ狙いづらくなっちゃうじゃない。」 シグルズ「チッ、目眩(めくら)ましなんざしやがって。 だが、テメェの魔弾はまともにゃ当たらねぇよ、昔とは違う。」 アガーテ「ふふっ、そう慌てなくても、魔弾はまだいっぱい残ってる。 ちゃぁんとあなたの心臓を貫いてあげるわん♪」 フィーネ「お断りよ。あなたは、ここで殺す・・・!」 アガーテ「いいわぁ、その目!私への憎悪で満ちあふれて、ゾクゾクしちゃう!」 フィーネ「戯言はもう、聞き飽きた!はぁああああ!」 アガーテ「ふっ!危ないじゃない、『フライクーゲル』!」 フィーネ「その程度!!!」 アガーテ「また紙一重で避けるつもり?」 フィーネ「っ!」 アガーテ「『楽園を這う蛇絡(だらく)に呑まれよ!シュランゲ・ディー・ブルート』!」 フィーネ「っぁ!?」 シグルズ「蛇!?まずっ・・・!」 アガーテ「捕まえた♪『フライクーゲル、ドッペル』!」 シグルズ「避けきれねぇか・・・・・『シュヴァルツ・ニーベル』!」 フィーネ「ぅぐぁ!?」 シグルズ「フィーネ!腕は・・・・・動かせなくはない、か。」 ルキM「ゼラフィーネに向かって放った魔弾が赤い蛇となり、魔剣ごと捉えたのも束の間、 続けて2発の魔弾が襲ってきたところを、片腕を犠牲にして逃げてしまう。 かすめるように抉られたゼラフィーネの左腕からは、 黒衣を染めるように血が流れ落ちている。」 アガーテ「あぁん、やれたのは片腕だけぇ?両方やっちゃうつもりだったのにぃ~。」 フィーネ「ぐ、っ・・・はぁ、はぁ・・・・・!」 アガーテ「ふふふふふ!殺しがいのある女ねぇ! 魔弾を喰らってもなおその目から憎悪の念を揺るがせない、 今まででいっちばん素敵だわぁ!絶対殺してあげる!」 シグルズ「近づいてみて確信したが、その黒い魔弾は切り札ってところか。 本体である以上、武器として使えなきゃ意味がない。それなら・・・・・」 アガーテ「使う前に壊すのぉ?そんな暇、あ~げない☆キャハハハハハハ!」 シグルズ「チッ、耳障りな笑い声だ、今すぐ掻き消してやる!」 フィーネ「(さえぎるように)シグルズ」 シグルズ「!?・・・フィーネ?」 フィーネ「・・・・・終わりを呼ぶわ。」 シグルズ「!・・・・・・あぁ、わかったよ。もう聞き返さないから。 とっくの昔に、決めてたことだもんね。」 フィーネ「・・・・・えぇ。」 アガーテ「何なにぃ~?何か始めちゃってくれるのぉ?」 ルキM「ゼラフィーネが、身体のコントロールを完全に明け渡した。 すると、シグルズは傷口から滴る血をとり、魔剣に擦(こす)り付け、そして。」 シグルズ「『招くは災禍(さいか) 狂気に染まりし純潔を以て 鮮血の朱(あけ)を纏え』」 アガーテ「っ、なに?なになになに!?何が起こったの!?」 ルキM「ゼラフィーネの血を吸った黒き魔剣が、瞬く間に白く染めあがった。 その場の・・・・・いや、シグルズの様子もおかしい。 憎悪の念だけを纏っていた彼らが、今は・・・・・狂気を纏っていた。」 シグルズ「ヒャッハハハハハ!さぁ、始めようぜぇ!『カタストローフェ・ヴァイス』!」 アガーテ「フフッ!すっごく楽しそうじゃない!相手してあげるわぁ! 『満たせ満たせ満たせ!無垢なる罪で欲を満たせ! ジーベン・トーツン』!」 ルキM「豹変した敵の様子を見て、アガーテはよりいっそう狂気的に喜んでみせた。 そして6丁の単発式の拳銃を召喚すると、そのうちの1つを手に取った。」 シグルズ「そぉら!さっさと撃って来いよ、さぁ!」 アガーテ「言われなくてもあげるわ!『レヴィアタン』!」 シグルズ「ハッ、その程度かよ!おらぁ!」 アガーテ「あぁん、早い男は嫌われるわよ!?『ベーゼブ』『アスモディオス』!」 シグルズ「これっぽっちじゃ楽しくねぇよなぁ? 『蔓延るは霧 その身を惑わす狂気の静寂 ヴァイス・ニーベル』!」 アガーテ「え?って、魔剣がなくなっ・・・・・違う!」 シグルズ「おっせぇんだよぉ!!!」 アガーテ「キャアアアアアアアア!」 ルキM「動きが、まるで変わってしまった。 契約者の身体を全く気遣うことなく動くシグルズは、 こちらが防御態勢に入る隙を与えなかった。 それに加え、魔剣と同じように白い霧が刀身を隠してしまったため、 攻撃のタイミングが予測しづらい。 ・・・・・それと、先ほどからゼラフィーネの気配が薄くなった気がする。」 アガーテ「いっ、つ・・・・・痛いじゃないのよぉ!『ベルフィゴア』!」 シグルズ「おせぇ、遅すぎる!そんなんで俺とフィーネを殺すつもりか、あぁ!?」 アガーテ「遊んであげるつもりだったけど、もういいわ! 『マモン』!これで終わらせてあげる!」 シグルズ「これで5つか。全部落とすのはめんどくせぇなぁ。」 アガーテ「何もかもが同じと思わないでちょうだい!」 ルキM「5つの魔弾が一斉に、かつ不規則に襲い掛かる。 しかし、敵は飛び交う魔弾を一切見ることはなく、 鋭い眼光はあくまで、アガーテを捉えていた。」 シグルズ「甘ぇんだよテメェは、この程度で!」 アガーテ「なんで、なんで当たらないのよ!? 魔弾の速さで捉えられないなんて・・・・・・でも、 そんな動きを続けていたら、契約者の身がもたないわね!」 シグルズ「ハッ、そんな心配してる場合かよ!」 アガーテ「もういいわ!これで終わりにしてあげる、『ザターン』!」 シグルズ「最後の1丁・・・・・ん、黒い魔弾か。」 アガーテ「『悪魔の魔弾』を防げると思わないことね! アンタの心臓は、確実に・・・!」 シグルズ「(食い気味に)心臓が、なんだって?」 アガーテ「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 ルキM「刹那、アガーテの左腕に深い切り傷が走った。 握っていた拳銃を落とし悶える中、飛び交っていた魔弾への集中が途切れ、 全ての魔弾がコントロールを失い地に落ちてしまった。 そして、魔剣はなおもアガーテの身体を斬り刻む。」 シグルズ「ほら、ほら、ほら!おすわりしている暇なんざねぇぞ!?おらぁ!」 アガーテ「ガッ!?ぐ、ぅ・・・ぐぁあああ!」 シグルズ「まだだ、まだこんなもんじゃねぇ! バジルを殺し、フィーネを悲しませた、テメェへの憎しみはまだ!」 アガーテ「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 ルキM「白い霧を纏い、無色透明になっていた魔剣の刃が、 アガーテの血を吸って赤く染まりゆく。 致命傷に至らない傷をいくつも作られたアガーテの身体は、 文字通り血塗れの状態で甚振られ続けた。」 アガーテ「ぁが、くっ・・・こンの、私、を・・・・・こんなにィ・・・・・!」 シグルズ「痛ぇか?お前が殺してきた奴らはもっと痛かっただろうよ。 あの時殺されたバジルだって、お前に心臓を撃ち抜かれたんだ、 痛いってもんじゃなかっただろうなぁ? ・・・お前には、たっぷり痛ぇ目見てもらわねぇと、 俺たちの復讐は満たされねぇんだよ。」 アガーテ「く、ふふふふ、アハハハハハハハ!」 シグルズ「っ、何がおかしい!?」 アガーテ「復讐なのに私を殺さないなんてバッカじゃないの!? 契約者の身体を無理やり動かしてボロボロにしちゃったくせに、 私に致命傷を与えず、腕を斬り落とすこともせずぅ? しかも、かろうじて片腕をちょっと動かせるくらいに留めちゃって。 ゼラフィーネの身体にはもう、戦う気力も残ってないでしょぉ~!?」 シグルズ「・・・・・。」 ルキM「すると、アガーテは血塗れで震える手を動かし、ポケットから小瓶を取り出した。 ここに来る前、わざわざ用意しておいた、俺の血が入った小瓶。 ふたを外し、中身を傷の1つに浴びせると、 アガーテの体中の傷がみるみるうちに塞がっていった。 傷が塞がった腕は、足元に落とした拳銃を軽々と持ち上げ、 近くで浮遊していたフライクーゲルの本体・・・・・・悪魔の魔弾を装填した。」 アガーテ「はぁ~あ!すっごく痛かったじゃなぁい!で・も、これでもうおしまいね。」 シグルズ「ハッ、何言ってやがる?」 アガーテ「だってぇ~、その身体、あれだけ派手に動いちゃって、もうボロボロでしょ? 契約者の意識を随分深くに追いやって戦ってたみたいだけど、 そろそろマージ・ウェイクだって限界じゃなぁい?」 シグルズ「ハッ、そんな軟な心は持ってねぇよ、フィーネは。」 アガーテ「クスクス、こっちの呼び出しに答えたってことは、 少しぐらい情報ももらったんでしょう? この、『悪魔の魔弾』について。」 シグルズ「・・・聖剣及び魔剣、兵装その他を一切無視する絶対貫通能力。 標的を逃さず、狙った場所を外さない、文字通り必殺の弾丸だってな?」 アガーテ「攻撃を流すことも、弾丸を回避することも、その身体じゃもう無理よ。 必中必殺のフライクーゲルは、絶対に逃がさないわ」 シグルズ「ククッ、そうだろうなぁ。このままじゃ、絶体絶命ってやつだ。」 アガーテ「キャハハハハ!でっしょぉ~!?だから・・・・・」 シグルズ「(食い気味に)けど、それも含めて俺は、フィーネのために動いた。 全ては、フィーネがお前にトドメを刺すための前座、下準備ってわけだ。」 アガーテ「なんですって?」 ルキM「シグルズが、アガーテの血で染め上げた魔剣を両手で持ち、 その切っ先をゆっくりと下げる。 そっと目を伏せると、シグルズは優しい口調で契約者の名を呼んだ。」 シグルズ「フィーネ、俺のは終わったよ。今度は、フィーネの番だ。」 ルキM「シグルズの気配が薄れてゆく。 代わりに、先ほどまで失せかけていたゼラフィーネの気配が強くなってきた。 一度伏せられた目が再び開かれた時、そこにいたのは、ゼラフィーネだった。」 フィーネ「『迎えるは終焉 心意(しんい)を連ねし罪過(ざいか)を以て かの者を極刑に処せ カタストローフェ・ロート』」 ルキM「ゼラフィーネが唱えた瞬間、血塗れの白い魔剣が完全に赤く染まった。 そして、辺りに立ち込めていた白い霧もまた、赤に染まっていく。」 アガーテ「ま、また何かやるつもりぃ?こっちは完全回復してるのよぉ? 魔剣を真っ赤に染め直したところで、疲れ果てたあなたが私を殺すなんてこと・・・」 フィーネ「『蔓延るは霧 咽ぶ咎人(とがびと)よ 訪れる断罪より 己が罪の重さを知れ』」 アガーテ「追加詠唱?って、今度は赤い霧・・・・ぅわっ!?」 ルキM「赤い霧に触れた瞬間、突然身体が重くなった。 いや、それだけじゃない、握っている拳銃さえ落としてしまいそうなほど、 体の自由がきかない。 マージ・ウェイク状態とはいえ、コントロールは完全にアガーテが握っているため、 アガーテは拳銃を落とさぬように、その場に立っているのがやっとだった。」 アガーテ「な、によ・・・なんなの、よ、これ・・・・・!」 フィーネ「『ロート・ニーベル』。聖剣と魔剣の能力を封じ、触れたものに重荷を担がせる。 纏う霧が濃いほど、担ぐ重荷は大きくなる。」 アガーテ「これ、私の周り、だけ、霧が・・・!」 ルキM「身動きが取れないアガーテに対し、ゼラフィーネは自らの足を引きずるように、 一歩、また一歩と歩みを進め、徐々に近づいてくる。 おそらくは、ゼラフィーネにもこの霧の効力が働いているのだろう。 重苦しい霧の中、ゼラフィーネはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。」 フィーネ「この霧は、咎負人(とがおいびと)に纏わりつく。 生きとし生ける者、皆、罪を負わずして、生きること能(あた)わず。 さらば私とて、咎を負いし者に、変わりはない。」 アガーテ「ルキ、ちょっとルキぃ!どうにかできないのこれ!?」 フィーネ「私の罪の象徴たる剣(つるぎ)は、罪の重さを持たない。 咎を負うは、あくまで私。 武器は罪を持たず、抱えず、されど咎人(とがびと)に逆らわず。」 アガーテ「ルキってば!聞いてるの!?早く動かないと、もう目の前まで来てるのよ!?」 ルキM「着実に距離を縮める敵を前に、アガーテが焦り喚いている。 俺はただ、ゼラフィーネの言葉に耳を傾けていた。 『武器は罪を持たない』。 すなわち、『担い手は武器であり、担い手に罪はない』。 それは暗に、『俺を殺すことはない』と宣言されているようなもので、 俺がとるべき行動を教えてくれているようだった。」 アガーテ「もうっ、『レオパルト・デア・ブルート』! ・・・・・嘘でしょ!?魔弾の力が封じられてる!? け、けど、銃口が上げられなくても、魔弾さえ撃てれば、 アンタの心臓を、確実に撃ち抜ける!『フライクーゲル』! っ!?引き金が引けない!?指すら、動かせないなんて・・・!」 フィーネ「アガーテ・クラインハインツ、魔弾の射手。 己が罪の重さに跪き、その命を以て、贖(あがな)いを・・・・・!」 ルキM「とうとうアガーテの眼前まで距離を縮めたゼラフィーネが魔剣を構える。 憎悪と憤怒を宿したその目がアガーテを睨んだ時、 ゼラフィーネが突き刺すように言葉を放った。」 フィーネ「・・・・・出ていけ。」 ルキ「!・・・っ、マージ・ウェイク、解除。」 アガーテ「え!?ちょっ、何してるのよルキ!?ねぇ!」 フィーネ「私が殺すべきは、あなただけよ、アガーテ!」 アガーテ「キャアアアアアアアアアア!!!」 ルキM「俺がアガーテから離れるのとほぼ同時に、 魔剣がアガーテの身体を斬り裂いた。 かろうじて地に足を付けていたアガーテは、衝撃のあまりバランスを崩し、 自らの血だまりに倒れ込む。 一方ゼラフィーネは、魔剣を逆手に持ち直し、倒れたアガーテを見下ろしていた。」 アガーテ「ぅぐ、ぁ・・・こ、の・・・・・・!」 フィーネ「あなたの罪が纏わりつく限り、もう魔弾を放つことはできない。 切り札だった悪魔の魔弾も、放たれなければただの鉄の塊。 マージ・ウェイクも解除された。 これで・・・・・・・・終わりよ。」 アガーテ「冗談じゃないわ、こんなとこ、ろで、死ぬなん、て・・・! まだ、まだ殺し足りない・・・・・!」 フィーネ「Fahr zur Hölle(ファーツァヘレ)。っ!!!」(魔剣を突き刺す) アガーテ「がぁっ!?ぁ・・・ぁ・・・・・・・。」 ルキM「使い手の全ての負の感情を纏った魔剣が突き立てられ、 今、目の前で命が1つ消えた。 ・・・今まで何度も、命が消される瞬間を見てきたというのに。 契約者を失い、実体を保てなくなったというのに、 俺が感じていたのは絶望でも悲嘆でもなく、納得と解放感だった。」 フィーネ「はぁ・・・はぁ・・・ぁ・・・・・・」(倒れる) シグルズ「ぅわ!?っ、フィーネ!」 ルキM「ゼラフィーネの精神力が尽きたらしく、マージ・ウェイクが強制解除された。 その場に倒れてしまったゼラフィーネを、シグルズがそっと抱き起こす。 但し、シグルズの手には、未だ魔剣が握られたまま。」 シグルズ「待っててねフィーネ。今、後片付けしちゃうから。 ・・・動くなよ?堕天使ルシファー。」 ルキ「断罪を受ける覚悟は、とうの昔にできている。弁明などしない。」 シグルズ「だったら・・・・・!」 フィーネ「(食い気味に)やめ、なさいっ・・・」 シグルズ「フィーネ?なんで!?コイツを殺して、バジルの仇を!!!」 フィーネ「仇は、もう、討った。・・・・・もう、十分よ。」 シグルズ「担い手を逃がすっていうのか?」 フィーネ「(ルキに向けて)・・・・・・好きなところへ、いきなさい。 あなたの、贖罪は、これで・・・・・っ!」 シグルズ「フィーネ!クソッ、屋敷に戻るまで頑張ってくれ!」 ルキM「力なく倒れているゼラフィーネを抱え上げ、シグルズは立ち上がった。 身体能力を超える活動によって行動不能となった契約者を腕に、 シグルズは一瞬だけこちらに振り返り、鋭い憎悪を孕んだ目で俺を睨んだ。」 シグルズ「次に会った時にゃ、俺がテメェを殺す。首洗って待ってろ。」 ルキM「重い呪詛のような言葉を残し、シグルズはゼラフィーネと共に去っていた。 視線を下げた先には、俺が契約していた女の死体がある。 悲しみも哀れみも感じないが、これで俺がこの女と共に行動する理由がなくなった。 あとは、殺されるのを待つだけ。 『さようなら、アガーテ。』 一度繋がりを持った女に別れを告げ、俺は最後の約束を果たすため、 ある場所へ足を向けた。 分厚い雲に覆われていたはずの太陽が、沈む直前に眩しさを増して現れ、 俺の行く先を照らしていた。」 To be continued.
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