Arc Jihad(アークジハード) -愛するは強き者-


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・少しでも疑問があれば利用規約を読んで、それでも分からないなら問い合わせください



<登場人物>
 [ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー(フィーネ)]♀
表記:Seraphine von Schweizer
年齢:19
詳細:騎士の家に生まれた才色兼備の女騎士。
   冷静かつ気丈で、あまり感情を表に出さない。
   魔剣側の教団に所属しておらず、担い手を配下扱いにしている。

[シグルズ]♂ ※シドニウス
表記:Sigurd
年齢:(外見)20代半ば
詳細:魔剣『ダーインスレイヴ』の担い手で、フィーネの契約者。
   狂信的なまでにフィーネを気に入っており、常に状況を楽しんでいる。
   軽い表現をしても、どこか陶酔しているような、重みや含みのある言い方をする。
魔剣の能力:永遠に癒せない傷を与える(代償:剣が血を浴びるまで鞘に納まらない)
	  ※鞘の能力=全ての聖剣・魔剣が持つ能力による事象を鎮静化・解除する

[ヒラサカ・ミキ]♀
表記:平坂 実希
年齢:16
詳細:怖がりかつ意地っ張りな少女。
   小心者で強い者に逆らえず巻かれやすいタイプ。
   戦闘には不慣れで魔剣の力を上手く使えていない上、感情的になりやすい。

[ブリュンヒルデ]♀ ※ベルンハルデ
表記:Brunhild
年齢:(外見)20代半ば
詳細:魔剣『ノートゥング』の担い手で、実希の契約者。
   勇敢なヴァルキュリアだが、シグルズへの愛に病んでいる。
   力を持たない人間が嫌いで、実希と共に殺人を繰り返している。
魔剣の能力:自身の周囲の地面に炎を発生させる(放つことはできない)
   ※兵装『ニーベルカッペ』の能力:光を操作し、姿のみ透明になる




!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!



[路地裏。実希が興奮気味に息を切らしている。]

実希「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・!
   っ、なぁんだ、全然弱いじゃない!
   散々あたしの事蔑んでくれたくせに、ぜんっぜん強くないじゃない!」
   この!この!この!ただのっ、阿婆擦れの、クセに!!!」

シグルズN「薄暗い路地裏で、ピクリとも動かなくなった人型の肉塊を、
   魔剣を携えた少女は興奮気味に踏みつけた。
   何度も、何度も。
   そして、ひとしきり肉塊を踏みつけた少女に、甲冑をまとった女が声をかけた。」

ブリュン「気は済んだかしら?実希」

実希「・・・えぇ、今回のは、ね」

ブリュン「そう。」

実希「どいつもコイツも、私がいつまでも弱いままだって決めつけやがって・・・!」

ブリュン「力を持たない人間なんて、なんの魅力も感じないわ。
   さぁ、早く帰って血の匂いを消しま・・・!?」

実希「どうしたの?ブリュンヒルデ」

ブリュン「魔剣の気配がする。近くに来てる可能性があるから、少し遠回りしましょ。」

実希「っ、わ、わかった。」

フィーネN「魔剣の気配を察知した実希とブリュンヒルデは、
   路地裏のさらに暗い方へと足を向け、その場を静かに去った。
   残ったのは、真っ赤に染まった、人だった何かだけ。」



間。



[街中。フィーネがシグルズを連れて歩いている。]

シグルズM「曇天の下を、黒のコートに身を包んだフィーネが歩く。
   後ろに続くはその契約者である担い手の俺。
   日本では、俺たちの・・・いや、フィーネの姿が、幾人もの目を魅了していた。」

フィーネ「・・・不機嫌そうね。」

シグルズ「そう?気のせいじゃない?」

フィーネ「この国の人の目を引いてしまうことぐらい、想定できたことでしょう?」

シグルズ「(小声)・・・・・なぁんだ、バレちゃってたんだ。」

フィーネ「帯刀が許されていない以上、あなたが気配を察知する以外、
   戦闘を回避する方法はない。」

シグルズ「わかってるよ。そのために俺も一緒に外出、でしょ?」

フィーネ「えぇ。」

シグルズ「ちぇ~、せっかくフィーネと二人っきりでお出かけだっていうのにな~。
   周りの目がウザいったらありゃしない」

フィーネ「ただの外出じゃないわ。ミスティオンの方から情報が入った。」

シグルズ「お?」

フィーネ「近頃、人気のない場所で斬殺死体が発見されている。
   被害者は9人、適合者でもないただの一般人よ。
   傷の大きさから、包丁程度の短い刃物ではなく、
   刀・剣の類が凶器と見て間違いない。
   おそらく、魔剣でしょうね。」

シグルズ「まさか、殺人犯の始末を俺らがするの?」

フィーネ「行動範囲的に私たちが最適な位置にいた。
   それと、詳細は教えてもらえなかったけれど、
   『シグルズと因縁のある相手』という可能性を示唆されたわ。」

シグルズ「俺?う~ん、連続殺人しちゃうような相手になんて、
   恨みを買った覚えはないんだけどなぁ~」

フィーネ「・・・そう。」

シグルズM「とは言いつつも、俺は無意識のうちに笑みを失っていた。
   担い手としての自分と、元の世界にいた自分。
   そのどちらにも、因縁と思しき女になら、心当たりがあった。」

フィーネ「・・・・・シグルズ。」

シグルズ「っ、何?フィーネ。」

フィーネ「・・・『Bis spater.(ビス・スピーター)』」(訳:またあとで。)

シグルズ「!クスッ、『Ja.(ヤー)』」(訳:はい。)

実希N「ドイツ語で、『またあとで。』と言われたシグルズは、
   その短い言葉に込められたフィーネの意図を察し、人混みの中へと消えた。
   フィーネはシグルズと別行動となり、シグルズとは反対の方向に歩み始めた。」



間。



[路地裏。より一層薄暗い場所を、実希とブリュンヒルデが進んでいる。]

ブリュン「そろそろ大丈夫かしら。表に出ましょう。」

実希「そ、そうだね。いつまでも路地裏にいるわけには・・・」

ブリュン「(食い気味に)待って。誰か来る。」

実希「!?」

シグルズN「実希が耳を澄ますと、確かに足音が聞こえてきた。
   特に急ぐわけでも、ましてや潜むわけでもないその足音の主(ぬし)は、
   決して広くない路地裏の曲がり角から姿を現した。」

実希「え・・・お、女の、人・・・?」

フィーネ「・・・・・。」

実希「っ、ここ、こんに、ちは・・・あの、私外国語とか無理で・・・・!」

フィーネ「ごきげんよう、日本のお嬢さん。この国の言葉は、祖父から学びました。」

実希「あ、そ、そうですか・・・・・」

フィーネ「さて、最低限の挨拶は済ませた。あとは。」

シグルズN「一度伏せられ、再び開かれたフィーネの目は、
   適合者以外の人間には視認できないはずの姿を捉えていた。
   それは、互いが互いに、聖剣または魔剣に関わる者であることを示していた。」

フィーネ「魔剣の担い手。連続殺人事件を起こしているのは、あなたたちね?」

実希「な、なんで、どういうこと!?」

ブリュン「適合者が単独で行動しているなんて。
   確かに気配で察知されてしまえば、私たちは逃げるだけ。
   でも、この日本という国で、その行動は命取りよ!」

フィーネ「そうね。武器が持てないんじゃ、担い手と離れるのは危険が伴う。
   されど、相手の逃走を阻むには、わずかに離れるだけで十分よ。」

実希「え?」

シグルズ「ホ~ントホント、ほんの一瞬さえ隙を突ければ、それで十分だよ。」

実希「に、担い手!?なんで、こんな近くに!」

ブリュン「ぁ・・・ぁ・・・・・・!」

フィーネM「シグルズが現れた瞬間、相手の担い手が目を見開いた。
   横目でシグルズの様子を見てみると、さっきよりも不機嫌そうな顔をしていた。」

シグルズ「(小声)チッ、因縁って、やっぱこいつかよ・・・・・」

ブリュン「シグルズ・・・シグルズなのね!」

実希「ブリュンヒルデの、知り合い?」

ブリュン「会いたかったわシグルズ!いいえ、シドニ・・・」

シグルズ「(さえぎるように)その名で呼ぶな!!!」

フィーネ「・・・よほどの因縁みたいね。」

実希「ぶ、ブリュンヒル、デ?ねぇ、どうしたのブリュンヒルデ!?」

ブリュン「ごめんなさい実希。彼は私の最愛の人なの。少し、話をさせて頂戴。」

実希「あ・・・うん、わかった。」

フィーネ「シグルズ」

シグルズ「俺はさっさと切り捨てちゃいたいんだけど?」

フィーネ「向こうにその気があるとでも?」

シグルズ「・・・・・はぁ。さっさと終わらせて来る」

フィーネ「えぇ。」

ブリュン「あぁ!待って、シグルズ!」

実希「ちょっと、ブリュン・・・」

ブリュン「(さえぎるように)実希は残って。これは私と彼の問題なの。
   相手はなんの武器も持ってないんだから大丈夫。
   できるだけすぐ戻ってくるわ!」

実希「っ・・・・」

フィーネM「路地裏の奥へ逃げるシグルズを、相手の担い手が追いかけて行った。
   その場に残されたのは血の匂いと、武器も持たないただの契約者二人。」



間。



[路地裏を進んだ場所。行き止まりになっている。]

ブリュン「シグルズ!」

シグルズ「チッ、うるせぇな。お前になんざ呼ばれても嬉しくねぇよ」

ブリュン「やっと、やっと会えたって言うのに・・・!」

シグルズ「俺は会いたくなかったよ。二度と、その顔を見たくなかった。」

ブリュン「あなたはいつだってそう。担い手になる前もそうだった。」

シグルズ「・・・・・。」

ブリュン「強くて勇敢で、どんな脅威にだって立ち向かってみせた。
   なのに・・・恋愛のことは、異性のことだけは不器用だった。
   私を奪うことも、ライバルを見返すこともしなかった。
   どうして?私に愛を囁いてくれたあなたは、間違いなく英雄だったわ。」

シグルズ「ハッ!何が英雄だ、バカバカしい。
   あんなので英雄と呼ばれるなら、誰だって英雄だ。
   疲弊した世界で、荒廃した世界で、戦い潰れて死んでいくだけの人間が英雄?
   褒め称えてくれるような人間なんざ残ってねぇのに?
   いや、その話はどうでもいいか。」

ブリュン「シグルズ・・・・・私、強くて勇敢なあなたを愛していた。今もそうよ。」

シグルズ「・・・俺だってそうだったよ。けれど、先に裏切ったのはお前だろ?」

ブリュン「それはっ、あなたが奪い返してくれるって、信じてたから!」

シグルズ「言い訳なんざ聞き飽きた!強い俺が好き?強い俺に惚れた?
   そんなに強い男が良けりゃそいつに尽くせばいいだろ!
   お前は、俺が必死に怒りを抑えて与えてやった優しさを捨てた。
   だから・・・俺は優しさなんてもんを捨てたよ。
   二度とお前を見たくなかった、こっちに来たのだってそれが理由だってのに。」

ブリュン「シグルズ・・・どうして・・・・・」

シグルズ「どうしてもなにも、全部お前が・・・!」

ブリュン「(さえぎるように)どうして、あの女なの?」

シグルズ「!?」

実希N「思わぬ問いかけに振り返るシグルズ。
   恍惚に満ちていたはずのブリュンヒルデは今、憎悪を露わにしている。
   しかし、その憎悪は、シグルズには向けられていなかった。」

ブリュン「すぐにわかったわ。あなた、あの女を愛しているのね。どうして?」

シグルズ「あの女って・・・フィーネのことか。」

ブリュン「あんな女のどこがいいの?戦うことも知らない、弱い女のどこが!!!」

シグルズ「ハッ、何知ったような口きいてんだ?あぁ!?
   弱ぇ契約者をつけてんのはお前だって同じだろうが!」

ブリュン「契約者なんて関係ない!あなたの愛が、他の女に行くなんて・・・・」

シグルズ「・・・お前の影響を受けたのかもな。」

ブリュン「え?」

シグルズ「強い者に惹かれた。強い女に。その結果が今だ。」

ブリュン「私より、強いっていうの・・・!?」

シグルズ「あぁ。どんな脅威にも屈しない、決して弱みを見せてくれない。
   女性らしく扱ってやったって、絶対に靡くことはない。
   媚びることも、嘆くことも、泣き喚くことも、何1つしない!
   フィーネは、自分が弱いままでいることを許さない。
   それでいて・・・・・フィーネの戦う姿は、本当に綺麗だ。」

フィーネN「フィーネへの愛を、ブリュンヒルデへの怒りを込めて唱えるシグルズ。
   その恍惚とした笑みを初めて目にしたブリュンヒルデは、1つの結論に達した。」

ブリュン「そう。あの女が・・・・・あなたを魅了しているのなら。」

シグルズ「っ、どこへ行く?」

ブリュン「実希に身体を借りましょう。そしたら、心置きなく、殺せるわ!」

シグルズ「待ちやがれ!『フロッティ』!!!」

実希N「兵装の剣を投げつけるも、ブリュンヒルデには当たらなかった。
   愛する者の危険を感じたシグルズは、彼女のあとを必死に追った。」

シグルズ「フィーネ、フィーネ・・・!」



間。



フィーネM「二人の担い手が去って行った後。
   残された契約者は、まるで小動物のように警戒し、怯えた目をしていた。
   私は、この人間に聞きたいことがあった。」

実希「あなた・・・一体・・・・・」

フィーネ「ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー。あなたの名前は?」

実希「・・・平坂、実希。」

フィーネ「そう。では実希。私はあなたに聞きたいことがある。」

実希「っ、な、なんですか?」

フィーネ「(軽く息を吸って)なぜ、人を殺したの?」

実希「え?」

フィーネ「人目につかない路地裏での殺人。
   目撃者の排除には徹したわりに、その殺し方は全く以て無計画。
   思うがままに斬りつけ、刺し殺していた。
   魔剣に、怒りや嫉妬の念を込めて振り回したような、そんな傷だったわ。」

シグルズN「淡々と述べられたフィーネの言葉に、実希は酷く動揺した。
   核心を突かれ、今の状況に思わず恐怖する。
   微動だにしない冷徹な異国の女と、混乱して身動きが取れない自分。
   互いに武器を持っていない以上戦うことはあり得ないが、
   騎士であるフィーネの威圧は、一般人である実希を震え上がらせるには十分だった。」

実希「・・・あ、なたに、は・・・関係、ない・・・・・」

フィーネ「関係がなければ、答える義務が消え失せるとでも?」

実希「っ、どうでもいいでしょ!そんなこと!」

フィーネ「私は理由を聞いているだけ。あなたが魔剣を握り、振るう理由を。」

実希「・・・・・・うるさい、うるさいうるさい。
   うるさいうるさいウルサイ煩い五月蝿い!!!」

フィーネM「聞かれたくないことを誤魔化せない、言い訳もできない。
   喚くだけ、叫ぶだけ・・・・・子供でもできること。
   この平坂実希という人間は、どこまで私を失望させてくれるのだろう。」

実希「皆みんな、私より少しできるからって上から目線で物言ってきて、蔑んできて。
   嫌なのよ!誰かの腰巾着なんてもううんざり!
   クラスメート、先輩後輩、教師、みんな、みんなみんなみんな殺してやった!
   私の強さを思い知らせてやったのよ!
   認めようとしないから、軽蔑してばっかりだから!
   まだ復讐は始まったばかり、こんなの、序の口よ!」

ブリュン「実希!」

フィーネM「実希が本心を吐き捨てていると、担い手が戻ってきた。
   後方からシグルズの姿も見える・・・・ということは、
   穏便な交渉は無理だったようね。
   もっとも、話し合いだけで解決するような事態ではないけれど。」

実希「ブリュンヒルデ!お願い、力を!」

ブリュン「えぇ。実希、私もあの女を殺したくて仕方がないの。
   だから体を貸してちょうだい。『マージ・ウェイク』!」

シグルズ「フィーネ!」

フィーネ「何をしているの?相手は臨戦態勢よ。」

シグルズ「あぁ、わかってる。・・・わかってるよ・・・・・!」

ブリュン「『示せ その身に宿すは力と愛憎 ノートゥング』!」

シグルズ「『揮(ふる)えよ その身で刻みし鮮血を喰らえ ダーインスレイヴ』!」

フィーネM「二人の担い手が、それぞれ魔剣を召喚する。
   ただ、シグルズが剣を構える頃には、敵はもう眼前に迫っていた。」

ブリュン「はぁあああああああ!!!」

シグルズ「っ!?てめぇ、フィーネに近づくな!」

実希「人の下にいる人の気持ちを知らない人間なんか、殺してやる!」

ブリュン「待っててシグルズ・・・その女殺して、すぐに解放してあげる・・・・・!」

フィーネ「口を開くだけ無駄。さっさとやりなさい。」

シグルズ「あぁ・・・『シュヴァルツ・ヴルフ』!」

ブリュン「ふふっ、どこを狙っているの!?」

シグルズ「チッ、相手が悪すぎる・・・ヴァルキュリアは伊達じゃねぇ・・・!」

実希「殺す、殺す殺す殺す、コロスコロスコロスコロスコロス!!!」

フィーネM「私を殺すことに執着する二人と、いつになく好戦的でないシグルズ。
   魔剣のコピーをもらっていない以上、私は戦闘に参加できない。
   シグルズが渡してこないということは、私に戦わせたくないということ。」

ブリュン「涼しい顔をしていられるのも、今だけよ!はぁっ!」

シグルズ「『グラム』!」

ブリュン「きゃあっ!?・・・兵装を投げつけてくるだなんて・・・」

実希「そんな武器、魔剣の前では盾にもならない!」

シグルズ「ぐっ!まともに受け止めるにゃ、でかすぎるか!」

ブリュン「あら、それくらい、この剣を鋳造したあなたが一番わかっていることでしょう?」

シグルズ「・・・おとぎ話だろ。実際に鋳造をしたのはドワーフだ。」

ブリュン「それでも、これはあなたからの贈り物だと思って使うわ。
   私の命でもあるこの魔剣で、あなたを縛る鎖を断ち切ってあげる!」

フィーネM「幾度も、私に向かってくる斬撃を、シグルズが必死に防ぐ。
   でも、相手の魔剣は身丈ほどある大剣、受け止めることは難しい。
   殺意をまとった攻撃は、簡単に止められるほど軽いものではない。」

ブリュン「邪魔をしないでシグルズ!」

シグルズ「フィーネは殺させねぇ!」

実希「退きなさいよ!アンタは後で殺してあげるから!今はその女を!!!」

シグルズ「ガキが出しゃばんな!
   『放たれるは闇 その身を蝕む悠久の呪い シュヴァルツ・フルーフ』!」

実希「しまっ!?」

ブリュン「(食い気味に)その程度!『シュラーフス・フランメ』!」

フィーネM「シグルズの放った黒い斬撃が敵の炎に当たり、消え失せた。
   敵自身を囲むように燃え盛る炎を見て、シグルズが不意に頭を抱える。」

シグルズ「その、炎は・・・っ、やめろ!」

ブリュン「私が眠っていた、私の眠りを守り続ける炎。
   これを越えられるのは、恐れることを知らない英雄だけ。
   さぁシグルズ、私を迎えに来て!あの時のように、私を眠りから呼び覚まして!」

シグルズ「やめろ・・・くそっ、頭が・・・・・ぁ・・・・!」

実希「ブリュンヒルデ!今ならあの女殺せる!」

ブリュン「シグルズ!さぁ!」

実希「!?なんで、コントロールが戻らない・・・・ブリュンヒルデ!」

シグルズM「担い手としての記憶と、元の記憶がグチャグチャになる。
   頭ン中を掻き回されるような感覚に襲われ、魔剣を握る手が緩み出す。
   やめろ、俺は・・・英雄なんかじゃ、ない・・・・・!」

ブリュン「そう・・・・・・わかったわ、シグルズ。
   あなたはシグルズじゃない。
   北欧神話の英雄、私と永遠の愛を誓った、勇敢なシグルズじゃないのね。
   それなら、弱いあなたを殺さなくちゃ。
   ねぇ・・・・・・シドニウス?」

シグルズ「そ、れは・・・!?」

ブリュン「クスッ、兵装『ニーベルカッペ』。
   シグルズが義兄弟に化けるために使ったという外套(がいとう)。
   冷静さの欠けたあなたになら、効果は十分期待できる!」

シグルズ「なっ、なんで、消えて!?」

フィーネ「シグルズ」

シグルズ「!?」

実希N「敵が外套を身にまとった瞬間、シグルズの視界から敵の姿が消えた。
   フィーネの一声により、寸でのところで敵の急襲を防いだシグルズは、
   思わずフィーネの方へと身を引いた。」

実希「姿を消してたのに防ぐなんて、生意気な!!!」

シグルズ「姿が見えない・・・気配だけじゃ、アイツの攻撃は・・・・・っ!」

フィーネ「・・・何をしているの?」

シグルズ「!」

フィーネ「敵は眼前にいる。あの程度の炎も兵装も、盾ですらない。」

シグルズ「フィー、ネ・・・?」

実希「弱いくせに弱いくせに!こっちの攻撃を防ぐなんて許さない!」

ブリュン「シグルズ!そんな女の声に耳を傾けないで!」

シグルズM「敵の喚き声が耳に響く中、フィーネはやっと、数歩だけ前進した。
   そして、俺の前へ、右手を真っ直ぐ伸ばす。
   『魔剣を寄越せ』。それと同時に、『力を貸せ』という、フィーネの無言の合図だ。」

フィーネ「あなたがそれほどまでに軟弱者だったとはね。失望したわ。」

シグルズ「お、俺は!」

フィーネ「さっさとしなさい。まさか、あなたまで私の機嫌を損ねるつもりかしら?」

ブリュン「シグルズ!」

フィーネ「シグルズ。」

シグルズM「突き刺さる悲嘆と、苛立ちを孕んだ命令。
   あぁ、俺はやっぱり優しかったんだ。
   優しさを、捨てきれていなかったんだ。
   ・・・取るべき手は、わかってる。」

実希「あの担い手、何して・・・・ぁ、まさか!」

シグルズ「愛してるよ・・・・・フィーネ。『マージ・ウェイク』!」

ブリュン「シグルズ、どうして!?」

実希「相手もマージ・ウェイクを・・・こうなったら!」

フィーネ「遅い。『シュヴァルツ・ニーベル』」

実希「っ、な、にが・・・・・そ、そんな!」

ブリュン「兵装の力を封じられた!?それなら、『シュラーフス・フランメ』!」

フィーネ「無駄よ。この霧に触れている以上、魔剣も兵装もただのモノと同じ。」

実希「魔剣の力を封じる魔剣・・・・・」

フィーネ「平坂実希。担い手にコントロールを奪われる程度の力で、
   担い手の力に頼って生きているあなたのそれは、復讐ではない。
   ただの八つ当たり、気に入らないから横暴になる、子供でもできること。
   あなた自身は、弱いまま。」

実希「よ、弱くなんか!」

フィーネ「いいえ。あなたは弱い。腰巾着がどうとか言っていたけれど、
   今も担い手の腰巾着に甘んじているでしょう?
   事実、呆然としているだけで、担い手からコントロールを奪うことも出来ていない。」

実希「!?」

ブリュン「私の炎を・・・愛の証を・・・・・許さない・・・・・!」

実希「ちょっと、ブリュンヒルデ!」

ブリュン「はぁああああああああああ!!!!!」

シグルズM「ブリュンヒルデが突っ込んでくる。
   殺意に任せて大剣を振るうが、冷静なフィーネは難なく回避行動を続けた。」

ブリュン「このっ、このっ、こンのォ!」

フィーネ「そんな、大振りな攻撃じゃ、フッ!」

ブリュン「ぐっ!?」

フィーネ「当たるものも当たらないわ。」

実希「まずっ・・・」

フィーネ「隙だらけ。」

実希「きゃああああああああああああ!!!」

ブリュン「う、でが・・・この痛みは・・・・!?」

シグルズ「ダーインスレイヴの力だ。その傷は治らねぇよ、永遠に。」

実希「痛い、痛いよぉ!なんで、なんでこんな・・・」

ブリュン「こんな女に・・・シグルズをたぶらかした、小娘ごときに!!!」

フィーネ「減らず口を叩けるなら、まだ余裕ね。」

ブリュン「これくらい!はぁああああ!!!」

フィーネ「っ!元ヴァルキュリアとは、この程度の力しか持たないのね・・・」

ブリュン「あなたにっ、シグルズの愛は、渡さない!!!」

フィーネ「耳障りよ。そろそろ・・・・・」

実希「ダメ!ブリュンヒルデ!」

ブリュン「もらったぁあああああ!」

フィーネ「・・・黙りなさい。」

ブリュン「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

シグルズM「漆黒の魔剣が、女の腕を斬りつけた。
   両腕に不治の傷を負ったんだ、もう大剣なんて掲げられない。
   魔剣『ノートゥング』は、持ち主の眼前に突き刺さっている。」

フィーネ「・・・終わりよ。」

ブリュン「ま、まだ・・・『シュラーフス・フランメ』!」

シグルズ「またその炎か。だが!」

フィーネ「(食い気味に)シグルズ」

シグルズ「っ、フィーネ?」

実希「痛い・・・痛いよぉ・・・・血、止まんないよぉ・・・・・!」

フィーネ「・・・・・平坂実希。」

実希「ひっ!?」

フィーネ「・・・選びなさい。
   担い手を切り捨て、自らの力で生きるか。
   あるいは、驕れる愚民として、ここで終焉を迎えるか。」

実希「何を、言って・・・・」

シグルズ「自分で担い手からコントロールを奪うってんなら、
   お前の腕の傷、治るようにしてやるよ。
   その代わり、魔剣は破壊させてもらう。」

ブリュン「シグ、ルズ・・・・!」

実希「ふざけないでよ!両腕使えなくして、魔剣を振るえなくしたくせに!」

フィーネ「これ以上、罪を重ねたいの?」

実希「戦う力を奪っておいて何よ!ブリュンヒルデ、もっと炎を広げて!」

シグルズ「(小声)あぁ~あ可哀想に、もうコントロールも解放されてるってのに。
   しかも、マージ・ウェイクしてんだから、自分で魔剣の力を使えるのにね。」

実希「ブリュンヒルデ!ねぇってば、黙ってないで、動いて!ねぇ!」

フィーネ「・・・終わりに、しましょう。」

シグルズM「フィーネが炎に包まれた敵の方へと歩み出す。
   相手を襲うことも、自らを飲み込むこともしない炎に囲まれた敵は今、
   両腕に癒えぬ傷を負い、その場にへたり込んでいる。」

実希「い、いや、来ないで・・・来ないでよ!!!」

フィーネ「あなたは人を殺し過ぎた。咎人には断罪を。今が、その時。」

実希「違う!私は、私は悪くない!罪人なんかじゃない!」

フィーネ「・・・所詮あなたは、偶然手に入った力に溺れただけの小娘。
   あなたを取り囲む炎は、あなたを浄化することも、断罪することもない。
   ならばその罪、その咎、魔剣『ノートゥング』の破壊とあなたの死を以て、
   仄暗き闇へと葬らん。」

シグルズM「苛立ちを孕んだフィーネの声には、俺ですら恐怖した。
   魔剣の名を聞いて我に返ったのか、マージ・ウェイク状態のまま
   茫然としていたブリュンヒルデが口を開いた。」

ブリュン「シグルズ・・・」

シグルズ「・・・まだ喋れるだけの気力が残ってたか。」

ブリュン「私、あなたを・・・・・あなただけを、愛して・・・・」

シグルズ「(さえぎるように)戯言は、もう聞き飽きた。
   元の世界でも神話でも、俺の優しさは一切受け取ってくれなかった。
   お前が見ていたのは俺の勇敢さと、自分の歪な愛情だけ。
   もう二度と、俺の前に現れんな。」

フィーネ「『蔓延るは霧 その身へ絡む無形の鎖 シュヴァルツ・ニーベル』」

シグルズM「ダーインスレイヴから、黒い霧が放たれる。
   霧と炎がぶつかると、炎はみるみるうちに鎮められた。
   炎の障壁を失った今、実希とブリュンヒルデの方へ、フィーネが歩みを進めた。」

フィーネ「『咎負うは騎士。握りし剣に命を捧ぐ。
   悠久なる時を経てなお、我が命、折れることなく。』」

実希「何、なんなの・・・・・来ないで、来ないでよ!!!」

シグルズ「・・・『下賤を払い、悪を切り伏せ、聖者を守りし刃(やいば)なれば、
   騎士もまた、贖(あがな)いの意を以て罪を振るう。』」

ブリュン「シグルズ、やめて!私は、本当にあなただけを!」

シグルズM「フィーネが、魔剣を逆手に持ち直す。
   へたり込んでいる敵を見下ろしながら、両手で魔剣を高く掲げる。」

フィーネ「『黒き闇満(み)つ道なれど、我が正義ゆえ』」

シグルズ「『咎を負うは誉れなり。』・・・っ!」(魔剣を突き刺す)

ブリュン「がっ!?ぁ・・・・あ・・・・・」

フィーネ「『咎人よ。汝が向かうは、天に非ず。』」

実希「(剣を抜かれる)ぐぁあっ!?あが、あ・・・ああ・・・・・っ・・・・」

シグルズM「心臓を貫かれたその女は、あっけなく倒れた。
   魔剣『ノートゥング』を貫き、女の心臓をも貫いた黒き魔剣は、
   その身に浴びた血に悦んでいるようだった。
   持ち主である俺とフィーネの気持ちとは、裏腹に。」

フィーネ「・・・・はぁ。」

シグルズ「マージ・ウェイク解除、と。お疲れ様、フィーネ。」

フィーネ「・・・・・。」

シグルズ「にしてもこの子、殺しちゃってよかったの?
   日本じゃ勝手がききづらいんじゃない?」

フィーネ「『ミスティオン』にはすでに伝えてある。
   どうしようもない罪人であれば、殺しても構わないと言われた。」

シグルズ「クスッ、そうだったんだ。じゃあ安心だね。」

フィーネ「・・・・・・気分は、晴れたかしら?」

シグルズ「!ははっ、バレちゃってた?」

フィーネ「あなたは自分の感情を隠すのが下手すぎる。」

シグルズ「あ~、そうかも。てか、フィーネが上手なんだよ。
   そうやって気丈に振る舞うのがさ。
   フィーネこそ、苛立ちは治まったの?」

フィーネ「こうもあっけなく死なれてしまっては、無駄に疲れただけ。屋敷に戻るわ。」

シグルズ「は~い。ミスティオンの方にも報告を、だね。」

フィーネ「えぇ。」

シグルズM「肉塊に背を向け歩き出すフィーネ。
   その背中を追う直前、ふと俺は、死体の方に目を向けた。
   そこにあるのは、かつて愛した女の死体ではなく、その契約者の・・・・・
   いや、もういいんだ。
   終わったんだから、もう。」

フィーネ「別れぐらい告げても、罪にはならない。」

シグルズ「っ、先に行ってたんじゃなかったんだ。」

フィーネ「さっさと済ませなさい。血の匂いが移る。」

シグルズ「はいよっと。・・・・・・サヨナラ、ベルンハルデ。」


シグルズM「それは、元の世界での・・・シドニウスとしての別れ。
   シドニウスはもう、どんな女を愛することもないだろう。
   今の俺は、担い手シグルズとして、契約者である女騎士ゼラフィーネを愛してる。
   フィーネへの愛ゆえに、この魔剣で、罪を刻み続ける。」



To be continued.
		



こちらの台本は、コンピレーション企画「Arc Jihad(アークジハード)」にて書かせて頂いたものです。
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