Arc Jihad(アークジハード) -零すは乙女の心-
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<登場人物>
[ゼラフィーネ・フォン・シュヴァイツァー(フィーネ)]♀
表記:Seraphine von Schweizer
年齢:19
詳細:騎士の家に生まれた才色兼備の女騎士。
冷静かつ気丈で、あまり感情を表に出さない。
魔剣側の教団に所属しておらず、担い手を配下扱いにしている。
[ハイディングスフェルト・フォン・シラー(ハイド)]♂
表記:Heidingsfeld von Schiller
年齢:21
詳細:シュヴァイツァー家に仕える心優しい執事。
幼少の頃からフィーネの付き人であり、フィーネには強く物を言えなかったが、
魔剣を手にして以来決意を固め、時に強く行動に出ることも。
執事としての能力は当然高く、聖剣・魔剣なしでもそれなりの戦闘能力を持つ。
[シグルズ]♂
表記:Sigurd
年齢:(外見)20代半ば
詳細:魔剣『ダーインスレイヴ』の担い手で、フィーネの契約者。
狂信的なまでにフィーネを気に入っており、常に状況を楽しんでいる。
軽い表現をしても、どこか陶酔しているような、重みや含みのある言い方をする。
魔剣の能力:永遠に癒せない傷を与える(代償:剣が血を浴びるまで鞘に納まらない)
※鞘の能力=全ての聖剣・魔剣が持つ能力による事象を鎮静化・解除する
!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!
[日本にあるシュヴァイツァー邸。深夜、フィーネが書斎で書類を眺めている。]
シグルズM「月も高くなった頃。
薄暗い書斎のランプを灯し、フィーネは書類に目を通していた。
俺はフィーネの邪魔をしないよう、少し離れた場所から部屋の様子を窺う。
静まり返っていたその部屋に、誰かが入ってきた。」
ハイド「(ノック音)失礼します。フィーネ様、ミスティオンから手紙が届いております。」
フィーネ「(手紙を受け取る)・・・・・先日の、魔剣の処分について。」
ハイド「魔剣『ノートゥング』と、その担い手ブリュンヒルデ。
それと、契約者の平坂実希(ひらさか みき)。
近頃起きていた連続殺人事件実行犯の処分の依頼。
後片付けは、全てミスティオンに任せたのですか?」
フィーネ「えぇ。この手紙は、事件の処理に関する報告。
『連続殺人事件の実行犯・平坂実希は、事件当時、刀のような刃物を所持していた。
銃刀法違反により拘束されるはずだったところを、隙を見て逃走。
途中、路地裏の袋小路に入ってしまい、持っていた凶器で衝動的に自害。
連続殺人事件は、11人の犠牲者と実行犯の死を以て終結。』」
ハイド「あれだけの大きな事件の隠蔽・・・・・ミスティオンは、
日本の警察関係者も押さえているようですね。」
フィーネ「だからこそ、聖剣と魔剣の戦いの事後処理ができる。
私たちが余計なことを考えずに戦える。
・・・奴の諸行も、おそらくは。」
ハイド「アガーテ・クラインハインツ。魔弾の射手(しゃしゅ)、ですね?」
フィーネ「・・・・・。」
シグルズM「応答の代わりに、手に持った書類を睨みつけるフィーネ。
あんな表情をしてるってことは、書類の内容はおそらく。」
ハイド「アガーテについての情報を整理していたのですか?」
フィーネ「えぇ。それと、ユリアの様子についても。
花蓮(かれん)の監視下にあるとはいえ、適合者である以上、
担い手と不本意な契約は避けなければならない。」
ハイド「まだ入院中のユリア様を、戦い巻き込むわけにはいきません。
そのためにも、一刻も早くバジル様の仇敵(きゅうてき)を・・・・っ!」
シグルズM「不意に、ハイドが何かを見つけたらしい。
視線の先にはフィーネ・・・特に変わった様子は見当たらない。
しかし、ハイドは深刻そうな表情になり、フィーネに近づいた。」
フィーネ「?他に何か?」
ハイド「フィーネ様。今日はもうおやすみになってください。」
フィーネ「まだ情報の整理が残ってる」
ハイド「(食い気味に)そちらは、お急ぎであれば私がしておきます。」
フィーネ「・・・これは私の問題よ。私がすべきこと。
シュヴァイツァーの当主として、手を抜くわけにはいかない。」
シグルズM「威厳の込められた眼差しを向けるフィーネ。
重苦しい空気が漂う中、ハイドは静かに深く息を吸った。
そして、机を避けるようにしてフィーネに近づき、そっとその体を抱きしめた。」
フィーネ「・・・・・どういう風の吹き回しかしら?」
ハイド「・・・袖のボタン。」
フィーネ「え?」
ハイド「袖のボタンです。外れていました。」
フィーネ「っ、それが?」
ハイド「フィーネ様が本当にお疲れになっている時、
無意識に袖のボタンを外してしまうクセがあります。
ずっとお傍に仕えてきた私ですから、何度も見ています。」
フィーネ「!・・・・・。」
ハイド「フィーネ様。」
フィーネ「ぁっ!?」
シグルズM「隙を突くように、ハイドはフィーネの身体を抱え上げた。
思っていた以上に疲労が溜まっていたらしい、フィーネは悲鳴すらあげられない。
半ば強引なハイドの行動を、フィーネは咎めることさえできなかった。
・・・俺はただ、嫉妬による苛立ちを抑えながら、その後を追った。」
[フィーネの寝室。ハイドがフィーネの身体をゆっくりとベッドへ下ろす。]
ハイド「今日はゆっくりお休みください。
ここのところ、夜更けまでずっと起きていらっしゃるようですし、
先日も戦闘があったばかり。
資産家や法人を始めとした各方面への対応や仇敵に関する情報の整理、
退院間近のユリア様に対する監護、さらには聖剣及び魔剣との戦闘。
加えて、日本の気候にまだ体が慣れていないため、
見えない疲労も溜まっているでしょう。
せめて今日ぐらいは、嫌でも休んでいただきます。」
シグルズM「静かに説き伏せながら、ハイドはフィーネの上着を脱がせる。
ゆっくりと寝かされたフィーネの身体に、もはや起き上がる体力は残っていない。
されるがままになっていたフィーネは、ゆっくり天井を見上げる。
高くなった月の明かりが眩しく、部屋を白く染めていた。」
フィーネ「・・・・・私、疲れていたのね。」
ハイド「はい、とても。」
フィーネ「・・・そう。」
ハイド「お身体もそうですが、気苦労も絶えなかったでしょう。
目の前でバジル様を亡くし、未成熟なまま当主として振る舞うことになり、
他人に甘えることもせず、ただ気丈に、騎士の剣(つるぎ)を握り。
アガーテ・クラインハインツの襲来時、私がお傍に居たなら・・・・・!」
フィーネ「・・・あなたがいなくて、良かったわ。」
ハイド「!?」
シグルズM「唐突な発言に、ハイドは思わず振り返った。
一呼吸して、再びフィーネは、その続きを紡ぎ出す。」
フィーネ「あの時・・・お祖父(じい)様を亡くしたあの時、あなたがいたら。
きっと、私は生娘のまま、泣き喚いて、立ち上がることもできなかったでしょうね。」
ハイド「どうして・・・」
フィーネ「甘えられる相手がいたら、間違いなく自分を甘やかしていたわ。
あなたがいなかったから、自分でどうにかしなくてはと思った。
子供の頃から傍に居てくれる執事だからと、甘えてはいられないと思った。
下手に自分を甘やかすことにならなくて、本当に良かった。」
シグルズM「仰向けのまま、フィーネはどこか安心したような声で呟く。
時折、ゆっくりとまばたきをしており、非常に眠そうな様子を見せている。
俺の知らない、聞いたことのない、フィーネの本音。
零されるその言葉は、純粋な乙女の告白だった。」
ハイド「でも、そのためにフィーネ様は、誰よりも早く大人にならなければならなかった。
13歳の時にご両親を亡くされ、18歳でシュヴァイツァーの当主に。
心惑う思春期を、青春を謳歌することもできず・・・・」
フィーネ「そういえば確かに、少女らしいことなんて、
数える程度しかやってこなかったのかもしれない。
祖父の築いた交流関係を保つために、子供ながらに大人の振る舞いを覚えたし。
話の話題も、愛らしいものは殆どわからない。
同世代の人たちとは、今更話なんて合わないでしょうね。」
ハイド「・・・・・終わったら」
フィーネ「?」
ハイド「この戦いが・・・いえ、せめて、アガーテを討ち取った暁には!
その・・・・・・お買い物に、行きましょう。」
フィーネ「!」
ハイド「洋服も靴もアクセサリーも、日本にだってたくさんありますし。
敵を討つ頃には、ユリア様も退院されている頃だと思います。
ですからっ、その、えっと・・・・」
フィーネ「・・・・・・・クスッ」
ハイド「っ、フィーネ、さま?」
フィーネ「そうね、買い物。いいと思う。
でも、服なんて仕立ててもらったものしか買ったことがないから、
ノエルかユリアを連れて行かないと。
私一人じゃとても難しいでしょうね。
(ハイドに向かって)・・・案内くらい、頼めるかしら?」
ハイド「!は、はい!もちろん、喜んで。」
フィーネ「それじゃ、その時はお願いするわ。」
ハイド「お任せください、フィーネ様。」
シグルズM「普段めったに浮かべない笑みを浮かべ、
殆ど見せることのない甘えを、執事の前では零すように見せてる。
二人のやり取りを、俺は陰ながら窺うしかできなかった。」
フィーネ「ん・・・眠くなってきた。本当に、休んだ方が、良さそう・・・・・」
ハイド「あ、申し訳ありません。
早く休んでいただくはずが、私が長引かせてしまいました。」
フィーネ「気にしないで。たまには、ゆっくり話すのも、ね。」
ハイド「フィーネ様・・・・・」
フィーネ「おやすみ、ハイド。良い夢を。」
シグルズM「そう言って、フィーネは今度こそ瞼を完全に閉じ、眠りについた。」
ハイド「えぇ、おやすみなさい。・・・・・ゼラフィーネ。」
シグルズM「それは、フィーネの知らない、ハイドの顔。
眠るフィーネの髪を優しく撫で、そっと名前を口にする。
それは、あまりにも衝撃的で・・・俺の嫉妬を煽るには、十分すぎた。」
[フィーネの寝室の外。ハイドが渡り廊下を歩いている。]
ハイド「(軽くため息をつく)」
シグルズ「意外と強気に出たなぁ、執事さん?」
ハイド「!?ぁ、シグルズ・・・」
シグルズ「お前がフィーネをあんなふうに呼ぶなんてな。」
ハイド「見て、いたんですか。」
シグルズ「まぁな。俺は担い手だ、契約者の身辺は守らねぇと。」
ハイド「・・・・・私は、幼少の頃からお傍に仕えさせていただいております。
今夜はもうお眠りになられましたから、あなたもそろそろ休まれては?」
シグルズM「ムカつく。普段は様って付けて呼んでるくせに、
フィーネが眠っている時だけ、ちゃんと名前で呼んでるなんて。
素直に甘えられることも、笑顔を見ることも、俺にはできない。
嫉ましい、妬ましい、ねたましい、ネタマシイ。」
ハイド「シグルズ?どうされました?」
シグルズ「いいや?お前、ロキと契約してから、随分強く出るようになったんじゃね?」
ハイド「フッ、気のせいでは?
私はただ、フィーネ様のために動いているだけですよ。」
シグルズ「・・・名前を、呼ぶことも?」
ハイド「!」
シグルズ「まるで、想い人の名前を呟く、恋する男みたいだったぜ?ハイド。」
ハイド「・・・・・・・・・さぁ、どうでしょうね。」
シグルズ「誤魔化しきれてねぇぞ」
ハイド「誤魔化しているつもりはありません。
自分の気持ちが、理解できていないんですよ。
私にとって、フィーネ様はかけがえのない存在であるのは事実。
主従関係である以上、恋心なんて芽生えるはずが・・・」
シグルズ「(食い気味に)でも実際、お前はフィーネを女として見た。それも事実、だろ?」
ハイド「・・・さぁ。私にはわかりません。・・・・・でも」
シグルズ「?」
ハイド「そのうち、わかる気はしています。そう遅くないうちに。」
シグルズ「ケッ、どうだか。」
ハイド「・・・失礼します。」
シグルズM「俺の挑発に乗る気配は、ハイドには微塵もなかった。
自室へ戻るため、壁に寄り掛かる俺の前を通り過ぎていく。
眩しいくらいだった月は、丁度雲に隠れてしまったところだった。」
間。
[翌朝、シュヴァイツァー邸。フィーネが眠るベッドに、シグルズが腰かけている。]
フィーネ「ぅ・・・っ・・・・?」
シグルズ「おはようフィーネ。随分ぐっすり眠ってたみたいだけど」
フィーネ「(体を起こす)・・・・・寝坊してしまったわ。」
シグルズ「そうでもないよ。昨日も結構遅くまで頑張ってたんじゃない?」
フィーネ「・・・・・。」
シグルズM「完全には取れなかった疲労ゆえか、はたまた眠気がまだ残っているのか、
フィーネの反応が少し鈍い。
そこへ、軽いノック音が響いた。」
ハイド「(ノック音)フィーネ様。ハイドです。」
フィーネ「・・・入りなさい。」
ハイド「失礼します。おはようございます、フィーネ様。」
フィーネ「おはよう。悪いけれど、着替えを用意して頂戴。」
ハイド「はい、かしこまりました。」
フィーネ「・・・ノエルとマナは?」
シグルズ「今朝から厨房に籠ってるよ。
疲れてるフィーネのために、とびっきりのお菓子を作るんだってさ。」
フィーネ「そう。あの子も大概、忙しいのね。」
シグルズ「パティシエとして仕事もするし、子供らしくお遊びもするし、
一番平和な頭してるからねぇ、ノエルは。」
フィーネ「・・・平和、ね。」
シグルズ「ミスティオンの連中のとこに『遊びに』行くような子供だし。
まぁそれが許されるのも、狂犬を飼い慣らしているおかげかな。」
フィーネ「あれだけ利口な犬なら、多少は自由もきくのでしょうけれど。」
シグルズ「クスッ、俺はフィーネの『犬』、じゃないの?」
フィーネ「あなたは魔剣。犬のように言うことを聞くどころか、
物として主(あるじ)に忠実な隷(しもべ)よ。」
シグルズ「へぇ〜、初めて聞いたよ。」
フィーネ「そうだったかしら」
ハイド「フィーネ様、お着替えの用意が出来ました。」
シグルズM「さっきまでクローゼットの方を見ていたハイドが声をかけてきた。
ちぇっ、せっかくフィーネとお話ししてたのに。
ベッドから抜け出し、自力で立ち上がったフィーネは、
用意された着替えのある方へと歩み出した、けど・・・」
ハイド「フィーネ様!」
フィーネ「っ!?」
ハイド「大丈夫ですか?どこか、具合でも・・・・・」
フィーネ「少し、ふらついただけ。大丈夫。」
ハイド「フィーネ様・・・」
フィーネ「心配性ね、ハイド。(小声)・・・・・・・ありがとう。」
ハイド「!・・・はい。食事の用意をしてまいります。」
フィーネ「お願いするわ。」
シグルズ「俺はフィーネの着替えの手伝いでも」
ハイド「(さえぎるように)シグルズは、こちらの手伝いをしてくださいますか?」
シグルズ「(ハイドを睨む)・・・俺を使うたぁ、随分な御身分になったんじゃねぇか?」
フィーネ「嫌だったら、大人しく出ていきなさい。
淑女の着替えの観覧なんて、悪趣味にもほどがある。」
シグルズ「うっ・・・は〜い。大人しく出ていきますよ〜、っと」
フィーネ「・・・・・・はぁ。」
フィーネM「『一人でなんとかしなければ』。
そう自分に言い聞かせ、この1年間、ひたすら歩んできた。
手にした魔剣も担い手も、今まで仕えてきた執事でさえ、
道具のように扱ってきたというのに。
私はまだ、彼らほど強くはない。
彼らがいなければ、立っていられないのだろう。
どうか、最も大きな咎を討つ時には。
その時だけは、私の足だけで立って、私の腕で、断罪を。」
ハイドM「魔剣を手にしてわかった。
聖剣や魔剣なんて所詮、言い訳でしかなかったのだと。
フィーネ様を守るのに、そんなものは必要なかったのだと。
この手で強く、ただ強く、その細い身体を抱きしめるだけで、よかった。
でも・・・・・それがいつでも許される行為でないことは、
心のどこかで感じていたのかもしれない。」
シグルズM「どうせ俺は担い手、フィーネにとっては武器、魔剣、復讐のための道具。
いや、今はそれでいいんだ。
俺がフィーネの剣でいて、フィーネが立っていられるなら。
それが精一杯の譲歩で・・・・・それ以上は、絶対に譲らない。
誰にも、どんなものにも、フィーネは奪わせない。
愛してるよ、フィーネ。俺だけの、可愛い、フィーネ。」
To be continued.
こちらの台本は、コンピレーション企画「
Arc Jihad(アークジハード)」にて書かせて頂いたものです。
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