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さぶめにゅー。
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<登場人物>
美沙(みさ)♀:紅音に対し扱いが酷い(無視、嫌がらせなど)。普段は猫被り。
猛(たける)♂:美沙の彼氏。彼女大事。美沙と共に紅音へ嫌がらせをしている。
彼方(かなた)♂:今回の企画を提案した人物。傍観者のようで、実はいじめに協力する非道。
紅音(あかね)♀:か弱く控えめな性格。あまり自己主張できず、口数も少なめ。
遊(ゆう)♂:愛想笑いが得意な少年。紅音に気があるらしく、そっと迫っている。金持ち。
ナレ♂♀:もはや言うまでもない。
美沙(みさ)♀:
猛(たける)♂:
彼方(かなた)♂:
紅音(あかね)♀:
遊(ゆう)♂:
ナレ:
※この台本は、「贖罪~Only You Knows~」
の別エンディングです。
終盤までほとんど内容は変わりませんので、ご注意ください。
!━━━≡≡≡⊂´⌒⊃゜Д゜)⊃━━━ここから本編━━━⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡━━━!
紅音「私たちはただ、旅行に来ただけだった。
・・・でも、私の心のどこかで、胸騒ぎがしていた。」
間。
彼方「あと、1時間くらいか。楽しみだな~」
美沙「見て見て猛!外真っ白だよ!」
猛「昨日降ってたもんなぁ。寒いんだったら、俺があっためてやるよ」
美沙「キャー!あたしを抱いてー!w」
ナレ「ある冬の頃。
連休を利用して、5人の男女で構成された学生グループが小旅行に出かけた。
高校生からの付き合いがある5人は、
偶然にも全員同じ大学に進学し、交流が続いていた。
グループの一人である遊の家の別荘にて泊まる事になった彼らは、
遊の家の車で別荘へ向かっていた。」
彼方「いや~、ホントに宿泊費とか出さなくていいのか?遊?」
遊「えぇ、構いませんよ。
別荘に泊まるくらい、どうってことありませんし」
猛「さっすが、金持ちは違うよなぁ!」
美沙「せめて紅音からぐらいはお金取ってもいいんじゃない?」
紅音「っ!?」
猛「そうだよなぁ、ハハハッ!」
彼方「お前らなぁ・・・まぁ、俺も同感っちゃ同感だけど」
紅音「・・・・・。」
遊「・・・・・ご気分が優れませんか?」
紅音「っ!だ、大丈夫・・・あり、がと。」
遊「車酔いなどされましたら、すぐに仰ってください。常備薬もありますから」
紅音「うん・・・」
。
ナレ「そうこうしているうちに、車は別荘へと辿り着いた。
彼らが住んでいる街からはおよそ3時間、
一番近い街から車で30分ほど離れた場所にある、木々に囲まれた建物。
白を基調とした、2階建ての広い建物だった。」
美沙「うっわ~!超豪邸じゃん!!!」
猛「すっげ~・・・・真っ白で綺麗な建物だなぁ。」
遊「普段は執事やメイドたちの訓練等を行っている場所ですので、
少々大きいでしょうかね。」
彼方「ほ~!こういうもん見せられたら、遊ってますます金持ち~って思うわ~」
遊「恐縮です。さ、どうぞ中へ。皆さんの部屋もご用意しております。」
ナレ「遊に促され、建物の中へ入っていく猛たち。
しかし、何か不安そうな表情を浮かべたまま建物を見上げ、立ち止まる紅音。」
紅音「・・・・・」
遊「・・・・紅音」
紅音「!?」
遊「荷物、お持ちしますよ。」
紅音「ぁ・・・・だ、大丈夫・・・だか、ら・・・・・」
遊「そうですか?では、お部屋の方へ。」
紅音「うん・・・・・」
ナレ「遊に背中を押され、紅音も慌てて建物の中へ。
先に入った3人は、すでに部屋に辿り着いていた。」
美沙「こんな豪華な部屋、ホテルでも入ったことなーい!」
猛「スイートルームってやつ、こんなのに近いんじゃねぇか!?なぁ、遊!」
遊「そうですね。
内装に関しては、父の好みで作られていますから、
雰囲気はホテルのスイートルームに似ているかと。」
彼方「ホント~に!
こんな広くて綺麗な部屋、タダで使っちゃっていいのか!?」
遊「えぇ、もちろん。皆さんのためにご用意させていただきましたから。」
美沙「ふっかふか~♪おっきなベッド独り占めとか最高~!」
遊「皆さんがおくつろぎいただければ幸いです。」
猛「おろ、けどこの部屋、ベッドは3つだけだぞ?」
彼方「一人は床、とか?」
遊「あぁ、本当は4つあったんですが、そのうちの1つが壊れてしまいまして。
俺は個室の方に、紅音にはその隣に部屋を用意しました。」
猛「へぇ~。ま、陰気な奴がいなくていいか」
美沙「そうそう!夜とか気味悪くて寝られなくなっちゃう!」
猛「そんときは俺が添い寝してやるよ」
美沙「キャー!猛ってば大胆ー!」
彼方「落ち着けそこのバカップル。
まったく、要らない奴連れてきたのはお前らのくせに。」
紅音「・・・・・。」
遊「紅音、こっちへ」
紅音「あ・・・・うん・・・・・」
間。
遊「紅音の部屋はこちらですよ」
紅音「あ、ありがと・・・・・。」
遊「何かあったら、すぐ俺に言ってくださいね?」
紅音「・・・・・。」
遊「・・・・・いいですね?紅音・・・・」
紅音「!!わか・・った・・・・」
遊「クスッ・・・では、夕飯まで各自自由行動ですから、ごゆるりと。」
間。
ナレ「彼らが別荘に着いてから数十分後の、午後4時すぎ。
遊が猛たちのいる部屋のドアをノックした。
3歩ほど下がった位置には紅音もいる。」
猛「はーい?」
遊「皆さん、少し早いかもしれませんが、お風呂でもいかがですか?
そろそろ夕暮れ時ですし、露天風呂から綺麗な夕焼けが見られますよ。」
美沙「わーロマンチック!それに露天風呂とかホンット贅沢!」
遊「西側の露天風呂を開放してありますから、よろしければ混浴でどうぞ。」
彼方「え、マジで?」
遊「えぇ。美沙のことですから、
猛と一緒であれば混浴でも問題ないと思いまして。」
美沙「ラッキー☆猛とおっ風呂~!」
猛「素っ裸にして、隅から隅まで弄ってやろうかぁ?」
美沙「いやん、猛のエッチ~!」
彼方「お前ら・・・・・」
遊「・・・・紅音はいかがなさいますか?」
紅音「っ・・・わ、私は・・・・・シャワー、借りられれば・・・・・」
遊「わかりました、では後ほど。
入浴準備ができましたら、皆さんを露天風呂へご案内します。」
彼方「おぉ、サンキュー」
ナレ「数分後、彼方・猛・美沙の3人は、遊の案内により露天風呂へ向かった。
そこに紅音の姿はない。
脱衣所を出た先には、源泉かけ流し風呂から立ち込める湯気に包まれた、
真っ赤に燃える夕焼けが見えた。」
美沙「キャー!すっごい綺麗~!」
彼方「おいおい、はしゃいで転ぶなよ?」
猛「お~!温泉引いてるとか、やっぱ金持ちんとこだなぁ!」
遊「恐縮です。」
美沙「遊くんは入らないの?」
遊「俺はやることがありますので。それに、紅音をシャワー室に案内しませんと。」
彼方「あー、悪ぃな、任せて」
美沙「あんな根暗、ほっとけばいいのに!」
猛「まぁそう言うなって。
陰気女なんざ元々いてもいなくてもよかったけど、
楽しみはこれから、あるだろ?」
美沙「クスッ、そうだねぇ・・・!」
遊「では、ごゆるりと。」
ナレ「3人を露天風呂に移動した後、遊は紅音の部屋へ向かった。
紅音は、準備を済ませて部屋で待っていた。」
遊「お待たせしました。さ、こちらへ。」
紅音「・・・うん・・・・・」
遊「紅音は、騒々しいのは苦手でしょう。
彼らのいる露天風呂とは離れた場所にありますから、
ゆったりできると思いますよ。」
紅音「あ、ありがと・・・・・」
遊「どうしたしまして。」
紅音「・・・・・。」
遊「・・・・・。」
紅音「・・・・・。」
遊「・・・・紅音」
紅音「っ!?」
遊「大丈夫ですよ。紅音は、俺が守りますから。」
紅音「え・・・・?」
遊「さ、着きましたよ。こちらです。」
紅音「あ・・・・・うん。(風呂の戸を開ける)・・・・あれ、ここ・・・・・」
遊「少人数用の露天風呂です。
こちらの方が景色もいいですし、気を遣う事もありません。」
紅音「わざわざ・・・・?遊、は?」
遊「俺はまだしなくてはならないことがありますから。
それとも・・・俺と一緒の方が、いいですか?」
紅音「っ、ううん、だい、じょぶ・・・・」
遊「クスッ、では、ごゆるりとどうぞ、紅音。」
紅音「・・・・・。」
ナレ「一方、彼方たちは。」
猛「ふぅ~。それにしても、いいダチ公持ったよなぁ俺ら。
こんな豪華な別荘にタダで泊まれるとか、普通学生じゃ無理だろ!」
彼方「まぁそうだよな。
旅行行こうって言い出したのは俺だけど、
実際の経費とか場所までは考えてなかったからなぁ。」
美沙「出費はいざとなれば紅音に払わせてたところだけど、
遊くんのおかげで羽伸ばせそ~♪」
彼方「そういえば、さっき楽しみがどうのって言ってたけど、何企んでだ?お前ら」
猛「あー・・・・・紅音のヤツを、別荘の外に出してみるってやつ」
彼方「なんだそりゃ。ってかお前ら、そんなことのためにあの女連れてきたのか?」
美沙「だって、やっぱ刺激ってほしいじゃん?何事にも、さ♪」
彼方「はぁ。で、何するんだ?」
美沙「アイツおどおど気持ち悪いしさー、別荘の外に出して、
内側から鍵かけちゃって締め出してみようって!」
猛「雪ん中で泣きながら『開けてー』って懇願してこねぇかな~ってさ!
楽しそうじゃね?」
彼方「ふぅん。
けど、紅音のことだから、
黙って外でうずくまってるだけとかありえるんじゃ・・・・」
美沙「だぁかぁら、言わせてやるためにもう一押しすんの!」
彼方「ほう?どうやって?」
猛「雪とか冷水とかぶっかけりゃあ寒さ倍増するだろ。
風呂入って身体温まったのによぉ!」
美沙「ちょうど水風呂あるみたいだし、こっから用意すれば良さそうだよね」
猛「桶に適当に汲んで、外に出た紅音に桶ごと投げて大丈夫だろ」
彼方「けど、水運んでて使用人さんにでも見つかったらアウトじゃね?怪しまれるだろ?」
美沙「あ~・・・そうかも。」
彼方「お前ら、やり方がガキだなぁ。
もっとスリルのある方法でやろうぜ?」
猛「たとえば?」
彼方「そうだなぁ・・・俺が行方不明になるってのはどうだ?」
猛「彼方が?それでどうするんだよ?」
彼方「真夜中に俺が居なくなった~って紅音に知らせて探させる。
実際俺は空き部屋にいて、猛と美沙は紅音を上手く誘導する。」
猛「ほう?」
彼方「もし抗うようなら、猛が力ずくで紅音を俺のいる空き部屋に放り込めばいい」
美沙「その後はどうするわけ?」
彼方「ククッ、アイツ処女だろ?ちょ~っと悪戯してやれば・・・・」
美沙「あぁ・・・・クスッ、それいいね!」
猛「今までにないくらい泣きまくるんじゃね!?」
彼方「決定だな。じゃ、深夜行動開始。
ケータイは出れるようにしとくから。
あぁあと、くれぐれも遊に気づかれんなよ?」
美沙「紅音、今度こそ泣かせてやるんだから・・・アハハッ!」
ナレ「3人が紅音への嫌がらせを計画している中。
その会話を立ち聞きする影が一つ。
その存在に、猛も美沙も、そして彼方も気づかない。
立ち聞きしていたその者の目は、酷く冷たかった。」
間。
美沙「わぁ~おいしそ~!ねねっ、これぜ~んぶ遊くんが作ったの!?」
遊「お恥ずかしながら、腕を振るわせていただきました。」
猛「すっげぇ~・・・・」
彼方「豪勢な食事だな・・・船盛りとか初めて見た」
美沙「トロもウニもこんなにいっぱい乗ってるとか超贅沢!」
紅音「・・・っ!・・・・・そう、だね。」
遊「さぁさぁ、温かいうちにどうぞ、召し上がってください。」
美沙「それじゃっ、いっただっきま~す!」
紅音「・・・いただきます。」
ナレ「美沙・彼方・猛は、目の前に並べられた高級食材の数々に目を輝かせ、
その食事を堪能していた。
しかし、この時紅音は気づいてしまった。
自分に用意された食事に使われている食材が、
彼らとは異なるものであることに。
ふと紅音が遊の方を見ると、遊は意味ありげな笑みを浮かべていた。」
彼方「ん、うんめぇ!」
美沙「ほんっと、おいしい~♪」
遊「お口に合われたようで光栄です。
デザートもございますから、楽しみにしていてくださいね。」
彼方「何から何までありがとな、遊」
遊「いえいえ。皆さんがお楽しみいただければ、それで何よりです。」
彼方「よーっし、明日は散策するし、ガッツリ食べるぞ~」
遊「クスッ、心ゆくまで、堪能なさってください、ね。」
間。
ナレ「夕食後、彼らはラウンジにてジェラートを堪能していた。
誰より早くジェラートを食べ終えた彼方は、
先ほどの計画通り、嫌がらせのための準備をするために席を立った。」
彼方「あ、俺風呂場にケータイ忘れてきたかも。ちょっと取りに行ってくるわ」
猛「おー」
美沙「いってらっしゃ~い」
紅音「・・・・・?ねぇ、遊は?」
美沙「遊くんなら、夕食の片づけしてるって。手伝い無用らしいよ~」
紅音「・・・・そう。」
猛「なんだぁ紅音?お前、もしかして遊に惚れてんのかぁ?」
紅音「ち、ちがっ・・・」
美沙「アッハハハハハ!夢見すぎだって!
それに、アンタなんか相手にするわけないっしょ!」
猛「そうだな、ハハハハ!」
紅音「・・・・・。」
ナレ「美沙と猛が紅音をからかっていた一方で、
彼方は紅音を陥れるための空き部屋を探していた。
ケータイを忘れたなどとは当然嘘だったが、紅音を欺くには十分だろう。
しかし彼は、何も気づいていなかった。」
彼方「えーっと、できれば鍵のかかってくれる場所・・・
お、こことか・・・がっ!?」
(殴られる)
遊「しばし気絶していただきますよ、彼方。」
彼方「な・・・・おま・・・え・・・・・」
間。
ナレ「彼方がケータイを取りに行ってから1時間が経過した。
部屋を探しに行くだけにしては遅すぎる。
美沙と猛は、心配になって彼方に電話をかけた。が、つながらない。」
美沙「あっれ~おかしいなぁ・・・・・ちゃんとアンテナ3本立ってるのに」
猛「つながらねぇのか?」
美沙「うん。ちょっと紅音、アンタのケータイから彼方にかけてよ」
紅音「う、うん・・・・・」
猛「・・・・・繋がったか?」
紅音「ううん、ダメ。電源が入っていないか、電波の届かないところに、って・・・・・」
遊「いかがなされましたか?」
猛「うっ・・・彼方が、ちょっとな。」
遊「そういえば、彼方の姿を見かけませんね。」
美沙「電話かけたけど繋がらないし、ほっつき歩いてるにしても自由行動すぎだって。」
遊「ふむ。いくら別荘が広いからとはいえ、ケータイぐらい繋がるはずなんですが・・・・・」
紅音「・・・地下、とかは?」
美沙「え、ここ地下室あるの!?」
遊「えぇ、ありますよ。しかし、普段は鍵をかけていますから、入れるはずが・・・・・」
猛「じゃあ地下に行ったわけじゃないな。
けど、なんで地下なんて思いついたんだ、紅音?」
紅音「っ、で、電波・・・・届かないかな、って、思ったから・・・・」
遊「確かに、それはごもっともですね。
ケータイが繋がらないだけならいいのですが・・・心配です。」
猛「しゃあねぇ、探しに行くか。」
美沙「そうね。」
遊「しかし、入れ違いになっても困ります。
紅音、すみませんが、俺の部屋にいてくれませんか?」
紅音「え?」
美沙「なんで?なんで紅音が居残り?」
猛「そうだよ。コイツこそ働かせた方がいいじゃねぇか。」
遊「彼方が戻ってきたとき、誰もいなかったら困るでしょう?
それに、美沙はじっとしているよりも行動する方が性に合っていると思いまして」
美沙「ま、まぁ、そうだけど・・・・」
猛「でも、それだったらここで待ってりゃいいじゃねぇか」
遊「彼方が戻るとすればこのラウンジでしょう。
しかし、紅音に何かあっては大変です。
俺の部屋は2階ですし、内側から鍵をかけられます。
電波が途切れることはないと思いますので、
紅音は彼方に何度か電話をかけていただけますか?」
紅音「う、うん、わかった・・・・・」
遊「では、手分けして探しましょう。
俺は浴場の方を見てきます。
美沙は一階、猛は二階をお願いします。」
猛「りょーかい。」
美沙「わかったわ。」
ナレ「行方のわからない彼方を探すため、それぞれ探索に向かった。
紅音は遊に連れられて遊の部屋へ。
途中、階段の下に扉があったのを、紅音は見ていた。
そこは重そうな鉄の扉で、南京錠がついていた。」
紅音「・・・・ねぇ、遊」
遊「はい?」
紅音「あそこの扉・・・・」
遊「あぁ、あれが地下への扉ですよ。
しかし、設計と建設に不手際があったらしく、
安全を考慮して普段は立ち入り禁止状態なんです。」
紅音「・・・・そっ、か。」
遊「さすがにあそこは開きませんよ。
何せ、あの南京錠が外れても、扉そのものにも鍵が必要です。
いくら器用な彼方が扉の中に入ったとしても、
ドア付近にいれば電波ぐらい拾えるでしょう。」
紅音「・・・うん、そうだね。」
ナレ「遊が紅音を部屋へ送っている一方で、美沙は一階を捜索していた。
美沙は、単独行動をいいことに、
普段は直接口にすることのない愚痴を並べながら歩いていた。」
美沙「まったく、彼方ってば。
ちょうどいい空き部屋探しにいくだけで迷子になってんじゃないわよ。
大体、なんで紅音が待機なわけ?
アイツの方が働くべきじゃない。
しかも何?遊くんにエスコートされて、ふざけんじゃないわよ。
本当なら猛なんかより遊くんとラブラブして、将来は玉の輿に乗る予定だったのに。
おかげで猛は調子に乗っちゃって、今は周りからもセットで見られてるし、
見切りつけにくくなっちゃったじゃない。
あ~あ!あんな馬鹿じゃなくって、
遊くんみたいな才色兼備で財力ある男子がよかったな~。」
ナレ「美沙は所謂、同性から嫌われる人間だった。
今までで交際し、切り捨てた男は数知れず。
とにかく多くの女性には嫌われている彼女が今までやってこられたのは、
彼女の媚び諂(へつら)いの上手さと、紅音という使いっぱしりのおかげだった。」
美沙「あたしの下僕のくせに、遊くんに優しくされてるなんて許せない。
あんな根暗女、あたしがいなかったら一人で何もできないくせに。」
ナレ「美沙にとって、紅音はいつもおまけ的な存在だった。
実際には、紅音にも美沙以外の友人はいる。
それを無理やり引っ張っているのは美沙であり、
紅音はただ、自己主張の弱さから黙って従っているだけなのだ。
それも、高校生の頃から。」
間。
猛「彼方ー、どーこだー?」
ナレ「その頃、2階では猛が彼方の捜索にあたっていた。
時折通りかかった部屋を覗くが、やはりいない。
本来なら、今頃夜が更けるのを今か今かと待ち侘びていた頃であろう。
しかし、高校からの同期である彼方が行方不明になった以上、それどころではない。
やや横暴な態度を取ることの多い猛は、
いつも彼方の制止やフォローのおかげでやってこられたのだ。」
猛「おいおい、まさか殺人鬼が潜んでたりとか・・・しないよなぁ?
俺ら以外の人間はここにいないはずだろ・・・・・?」
ナレ「彼方が見つからないため、徐々に焦り始める猛。
嫌な予感ばかりが頭をよぎり、漫画にあるような展開まで想像してしまう。
しかし、多くの場合は『なんとかなる』で済ませ、
不安が拭えない場合は大抵憂さ晴らしをしていた。
そう、紅音への嫌がらせによって。」
猛「彼方ー!いたら返事しろー!」
間。
ナレ「しばらくして、捜索に行ったメンバーは一度、階段付近に集まることになった。
念のため紅音に確認を取ってみたが、彼方からの連絡は全くないという。」
遊「彼方へは、まったく通じないのですか?」
紅音『・・・何度もかけてるけど、どうしても繋がらないの。』
遊「そうですか。わかりました、引き続き待機していてください。」
紅音『うん・・・・ねぇ、遊』
遊「いかがなされました、紅音?」
紅音『その・・・・ううん、なんでもない。』
遊「クスッ、大丈夫ですよ。また後ほど連絡しますから。それでは」
美沙「・・・彼方、どこ行ったのよ・・・・」
猛「2階も、部屋は粗方見たけど、いなかったぞ?」
遊「俺たち以外の人間が正規の方法以外で入れば、
警報装置が作動するはずですが・・・・・」
猛「窓とか割って入ってくる、とかか?」
遊「えぇ。」
美沙「じゃあ、やっぱり彼方が勝手にどっか行ったってこと!?」
遊「そうなりますね。」
美沙「・・・ねぇ。紅音って、本当に電話かけたのかな?」
遊「え?」
猛「もしかして、紅音が彼方をどっかにやったんじゃねぇだろうな?」
遊「・・・やめてください、二人共」
猛「けどよぉ!」
遊「彼方がいなくなった時、紅音はあなた方と一緒にいました。
疑われるべきは、誰の近くにもいなかった俺の方でしょう?」
猛「そ、それは・・・その・・・・・」
遊「・・・・仕方ありません、可能性は低いですが、地下室に行ってみましょう。」
美沙「え?でも、鍵がかかってるんじゃ・・・・・」
遊「幸い、鍵は持ってます。入ろうと思えば、鍵さえあれば入れるんです。」
猛「その鍵って、遊だけが持ってるのか?」
遊「えぇ、まぁ。ここを管理していた方からお預かりしましたから。
ただ、地下室は普段立ち入り禁止にしてますので、あまり長居はしませんよ?」
美沙「あああ、あたしやっぱ、紅音と残っていい、かな・・・?」
猛「美沙?」
美沙「ほらぁ、やっぱ危ない場所って、男子らが行くもんじゃない?なぁんて・・・・・」
猛「そ、そりゃあそうだよな・・・・・」
遊「おすすめしませんね。ここに女性だけを残すのは。」
美沙「え?」
遊「俺たち以外の人間が潜んでいるという可能性は消えていません。
管理人が、他の誰かに鍵を渡していないとも言えません。
万が一侵入者に襲われた場合、女性二人で太刀打ちできるとは到底思えません。
幸い鍵はついていますが、何らかの方法で壊されてしまえば元も子もありませんし、
二人でいれば気配も隠し切れないでしょう。
あ、紅音と交代するというのも1つの方法ではありますが・・・・
いかがいたしますか、美沙さん?」
美沙「あ・・・ぁ・・・えっと・・・・や、やっぱり猛と一緒にいる!
ああ紅音なんて、一人で十分でしょ!」
猛「おう!美沙を一人になんてさせられねぇよ!」
遊「そうですか。では、行きましょうか。」
ナレ「美沙が同行すると宣言した直後、
遊は先を急ぐかのように地下への扉にかかっている南京錠に鍵を差し、開錠した。
大きな南京錠が外れると、次は扉の鍵を。扉は、見た目とは裏腹に軽く開かれた。」
遊「電気は通ってますね。
明かりはありますが、何があるかわかりません。
気を付けてくださいね。」
猛「あ、あぁ。」
美沙「この階段、ただのコンクリート・・・?」
遊「地下は元々土足で出入りするために作ったようです。
手すりもありますから、ゆっくりでも下りてきてください。」
猛「なんか、建設途中の建物みてぇだな。上とは大違いだ」
遊「まぁ、1つしかない目的のために作られたらしいのでね。
内装は不必要だったようです。」
美沙「1つしかない、目的?」
遊「部屋は1つだけなので、階段を下りてまっすぐ行くだけです。
何もなければ、引き返しましょう。」
猛「あぁ、わかった」
ナレ「薄暗いコンクリートの階段と廊下を、3人は進んだ。
遊を先頭に、続いて猛と美沙が歩く。
ふと前方を見やると、奥には金属製の、両開きの扉が見えた。
扉にはガラス窓もついているが、中が暗くて何も見えない。」
遊「待ってください。今、鍵を開けます・・・・」
ナレ「遊が持っていた鍵で開錠し、扉の片方をゆっくりと引いた。
廊下からの光が入った扉の向こうに、何かある。
ようやく照らされたそれは・・・・・彼方だった。」
猛「彼方!」
美沙「彼方、大丈夫!?」
ナレ「彼方であると理解した猛と美沙は、思わず部屋の中へ駆け込んだ。
しかし、遊は慌てる様子もなく、静かに彼らを見やっている。
猛が彼方の体をゆすると、反応があった。」
彼方「っ・・・く・・・・・・」
美沙「彼方、しっかりしてよ!」
彼方「ぁ・・・あれ・・・・ここ・・・は・・・・?」
猛「地下室だとよ。お前、なんでこんなところに・・・・誰かに襲われたのか?」
彼方「襲われ・・・・?」
美沙「だって、鍵のかかった地下室にいるのよ?
誰かに連れてこられたとかじゃないの?」
彼方「連れて・・・・あ!遊!」
美沙「え?」
ナレ「彼方が遊の名を叫んだその刹那。
金属の重たい扉が閉まる音がした。
3人が振り返った先に見えたのは、
人が変わったように狂気に満ちた、遊の冷たい眼差しだった。」
猛「おい遊!何してんだよお前!?」
美沙「そうよ、冗談でもこんな悪戯しないでってば!ただでさえ薄暗いのに・・・・」
遊「ククク・・・・・アッハハハハハハハハ!!!」
美沙「え・・・な、なに・・・・遊く、ん・・・・・?」
猛「遊!くそっ、鍵かけられたか・・・・!?」
遊「ハハハッ・・・・ふぅ。面白くて笑いがとまらねぇかと思ったわ。」
猛「遊・・・?お前、そんなしゃべり方・・・・・」
遊「あー、めんどかったー。
なんで紅音以外に丁寧語なんざ使わなきゃなんねぇんだっつーの」
ナレ「人が変わったよう、ではなかった。
自分たちが知っている、今まで関わってきた『遊』とはまるで別人だった。
いつもの穏やかな笑みも、口調も、態度も、全てが狂気じみていた。
その変貌ぶりに、猛も美沙も背筋が凍った。
と同時に、彼方が遊を指差して叫んだ。」
彼方「そいつだ!遊が俺を殴って気絶させて・・・!」
美沙「え・・・・!?」
猛「どういうことだよ!?遊!!!」
遊「クスクス、お前らが俺のこと疑わねぇから、ホントやりやすかったわ。
俺が少し話題を振れば俺の思い通りに動いてくれるし、
俺のことを疑わせようにも、
俺だけは信用に値するかのように扱ってくれて吹き出すかと思ったわ!
全く、これだからバカ共は、簡単に誘導しやすいんだよなぁ、ヒャハハハハハハ!」
美沙「ちょっと・・・・嘘でしょ・・・・・遊くん・・・・!」
遊「俺が嘘をついてるとでも?あぁ、元の性格を隠していたのは事実か。」
猛「いい加減にしろ!こんなとこに閉じ込めて、俺たちをどうする気だ!?」
遊「どうする?そうだなぁ。強いて言うなら・・・・『贖罪』ってところか。」
彼方「しょく・・・ざい・・・?」
ナレ「冷酷に、そして静かにそう放たれた言葉に対する3人の反応に遊は、
浮かべていた笑みを捨てたような表情になった。
彼方たちを心底(しんてい)から見下している、そんな目をしていた。」
遊「お前ら、自分でしたこともわかってねぇのか?お前らは罪人なんだよ!」
美沙「わ、訳分かんないし!罪人って、あたしが遊くんに何をしたっていうの!?」
遊「『俺に』とは、誰も言ってねぇだろ?」
彼方「どういう、ことだよ・・・・」
遊「猛、お前は憂さ晴らしに、紅音に嫌がらせしまくってたよなぁ?
物隠したり閉じ込めたりして」
猛「え・・・・・」
遊「美沙、お前は自分の性格の悪さも知らず、
紅音を引き連れ回して奴隷のようにしてたよなぁ?」
美沙「な・・・それは・・・・」
遊「彼方、お前はいつも卑怯だった。
傍観者のフリをしていじめに加担する、まさに外道。」
彼方「まさか・・・遊、お前・・・・・!」
美沙「あたしたちが紅音にしていた仕打ちに対する、報復のために・・・・・!?」
遊「あぁそうだよ!俺は紅音のために、お前らを処刑する!
今日はお前らの贖(あがな)いの日だ!」
ナレ「高らかにそう告げた遊の狂気に、3人はただ呆然とした。
ここに3人が集められた理由、ここに紅音がいない理由。
それを理解した今、自分たちが何をされるのか、
先の恐怖に怯える事しかできなかった。」
猛「ふざけんな・・・・・何が処刑だ、贖いだ・・・・・
ふざけんな!こっから出しやがれ!!!」
遊「あぁ?まぁだわかっちゃいねぇみてぇだなぁ、自分の立場ってもんが」
美沙「ゆ、遊くん!お願い出して!一人ぐらい助けてくれたっていいでしょ!?」
猛「み、美沙・・・?」
遊「うるせぇよビッチが。男に色目使ってりゃあどうにでもなると思うな」
彼方「遊・・・・」
遊「善人ぶってんじゃねぇぞ?
自分は関係ないって顔しながら、楽しんでやがったんだからな。」
彼方「ちっ・・・」
遊「ほ~んとお前ら、残念だよな・・・特に彼方。
お前、自分は傍観者だと思い込んでるだろうけど、明らかに協力者だから。
強いて言うなら、間接的な加害者ってところか。
けど、今回は完璧加害者側になるはずだったなぁ?
空き部屋を探し、紅音を誘い込んで泣き喚かせる。
か弱い女が恐怖の余り泣き出すその表情を間近で見られて、
しかもヤり捨てられるときたもんだ。
今までは手段や方法を提供するだけの立場だったお前も、
結局黙っていられなくなったってわけか、ヒャハハハハハハ!」
美沙「ちょっと、いい加減に・・・・」
遊「猛も可哀想に・・・下衆で自己中のビッチな女に惚れちまってよぉ。
そいつ、男コロコロ変えて遊んでんだぜ?
両手じゃ足りないぐらいの数の男を誘って、股開いてポイ捨てして。
お前、気づかなかったのか?」
猛「なっ・・・・・そ、そんなわけ・・・・・美沙?」
美沙「・・・・・。」
遊「そうそう、言い忘れてた。
お前らが入ってるそこ・・・・『焼却炉』なんだよ。」
美沙「え!?」
遊「しかも、取り付けた奴がバカやってなぁ。
焼却炉なのに、点火スイッチを内側に付けたんだよ。
スイッチを押した10分後に焼却開始。
あぁ、一応緊急の脱出口もあるけど?
でも、停止装置は外側にある上に、電子キーがなければ消火できない。
一度点火されたら内側から解除することはまず不可能。
どっかにある脱出口から逃げる以外助かる道はない。」
猛「俺たちを燃やす気か!?」
遊「決まってるだろ。そこ焼却炉だし」
猛「てめぇ!」
美沙「冗談じゃない!なんでこんなやつらと一緒に死ななきゃなんないのよ!」
猛「っ、美沙・・・」
遊「ちなみに今、この扉は鍵なんてかかってねぇよ。
鉄の閂(かんぬき)がかけられてるだけだ。
だから、俺がここを離れたとしても、
お前らが誤って扉を閉じた際に閂がかかってしまった、と片づけることもできる。
つまりは・・・・・・」
彼方「事故に見せかけて、俺らを殺す算段か・・・!」
美沙「いや!死にたくない!コイツらならどうなってもいいから、あたしだけは!」
遊「お前らが悪いんだよ。
俺の大切な大切な紅音を傷つけた、お前らが。
俺は一度、紅音に言ったことがある。
『報復しないのか?』って。そしたら何て言ったと思う?」
美沙「な、何よ・・・・」
遊「『私は我慢できるから』だってさ。
クスッ、紅音の優しさにまったく気づいてないお前らが滑稽で哀れだ!
紅音がそう言ったから、俺も仕方なく黙って見守ってた。
だが、お前らはちっとも学ばない。
大学に行ってもなお同じ行為を繰り返し、腐った性根のままだ。
だから・・・・・・・もう終わりにしてやる。
紅音が苦しまなくてもいいように、ぜぇんぶ燃やしちまう。」
猛「遊・・・この野郎・・・・・!」
遊「あーそうそう、ケータイ通じねぇぞ?
紅音が言っていた通り、ここ地下だから。ヒャハハ!」
ナレ「酷く愉快そうに高笑いする遊。と、ここで彼方が、ある事実に気が付いた。」
彼方「・・・遊、お前、点火スイッチは内側にあるって言ってたよな?」
遊「あぁ、確かにそう言ったぜ?」
彼方「だったら、お前は俺たちを燃やせない。
俺たちがそのスイッチを押さない限りは」
美沙「あ!そっか!」
猛「な、なんだよ、ただのハッタリだったのかよ・・・・」
遊「ヒャハハハハハ!
確かに俺は、『点火スイッチは内側にある』と言った。
けど、忘れてねぇか?」
彼方「何?」
遊「俺はもう1つ言った。『スイッチを押した10分後に点火する』って。」
美沙「だ、だからなんだって・・・・・!?」
遊「さっき、ここの扉閉める前に・・・・・俺が押しといたよ。」
ナレ「その瞬間、炎が焼却炉に燃え盛った。
遊はガラス窓から離れ、その場を立ち去り始める。」
猛「遊!出せ!早く、出してくれぇえええ!」
美沙「熱い熱い熱い熱い!なんで、あたしが、こんな目に・・・・・!」
彼方「遊ー!遊ー!開けろぉおおおおおおお!」
遊「・・・・・・然様(さよう)なら。」
間。
ナレ「地下室を出て、いつもの穏やかな笑みに戻った遊は、紅音の元へ向かった。」
遊「紅音、入りますよ?」
紅音「遊・・・・あれ、みんなは?」
遊「おや、やはり戻っていませんか。
ケータイも通じなくて、もしかしたらと思ったのですが・・・・」
紅音「・・・・・。」
遊「みなさんどこへ行ったんでしょう。まさか、新手の嫌がらせですかね?」
紅音「・・・・・・遊。」
遊「?いかがなされました?紅音」
紅音「・・・・・みんなを、どこへ?」
ナレ「紅音からの唐突な質問に、遊は思わず目を見開いた。
しかしすぐ、まるで喜んでいるような笑みを浮かべ、問い返した。」
遊「・・・・・いつからです?」
紅音「・・・別荘に、着いた時から。別荘が、変な感じがした、から。」
遊「変な感じ、とは?」
紅音「・・・雪の降る場所なのに、真っ白で・・・・・
誰にも気づかれないように、建ってる気がした。」
遊「他には?何か変な感じはしましたか?」
紅音「・・・・・食事の、時。」
遊「ほう?」
紅音「猛も彼方も美沙も、気づいてなかったけど・・・・使われてる食材が、違った。
美沙は、近くに座ってたから、すぐわかった。
船盛りに乗ってた、お刺身。
庶民ならわからないだろうけど、見た目の似ている別の魚、使ってた。
明らかに、安物の食材を使ってた。
魚だけじゃない、他の料理の食材だって・・・!」
遊「・・・・・クスッ、やっぱり紅音は、ちゃぁんと俺を理解してくれるんですね。」
ナレ「先ほどまでの穏やかな笑みが、堪えきれなくなったかのように狂気を帯びた。
否、少なくとも彼方たちに向けていたそれとは何かが違う。
そう、遊が紅音に向けているのは、愛情。
殺意ではない。」
遊「あんな庶民のクズ共とはやはり違う。
紅音は良家の生まれ、にもかかわらず淑やかで、美しい。」
紅音「・・・・まだ、私の質問、答えてもらってない・・・・」
遊「あぁ、みんなはどこって聞かれてましたね。
今頃、地下室で真っ黒焦げになっているかと」
紅音「!?・・・・どう、して・・・・・」
遊「決まってるじゃないですか。紅音が好きだからですよ」
紅音「っ、答えになって・・・・!」
遊「紅音が好きだから、俺が殺した。
紅音を傷つける奴らなんて、要らない。」
紅音「・・・・遊・・・・・」
遊「紅音は何も悪くありませんよ?
すべて俺がやったこと。
紅音には何の罪もない。」
紅音「・・・・・。」
遊「紅音・・・愛しています。」
ナレ「ベッドに座っている紅音に迫り、徐々に顔を近づける遊。
すると、紅音は静かに、震える声を発した。」
紅音「・・・・・私の、せいで・・・・・」
遊「え?」
紅音「・・・私が、我慢ばっかりしてたから・・・・・
遊に、こんなこと、させてしまった・・・・・・」
遊「紅音・・・・?」
紅音「ゴメンね、遊。遊の優しい手を、汚してしまって・・・・・・」
遊「っ、紅音は悪くありません!
俺が勝手にしたことです!
だから、どうか泣かないで・・・・」
紅音「ゴメンね、ゴメンね・・・・」
ナレ「愛しい人から紡がれる言葉に、遊は動揺を隠せなかった。
謝罪の言葉をもらうなど、思ってもいなかったのだ。
不意に見せられた紅音の涙に、遊は罪悪感を拭えなかった。」
遊「・・・・紅音、証拠隠滅はしてあります。
紅音は何も悪くない。彼らは事故で焼け死んだ。」
紅音「・・・世間ではそうなったとしても、私たちの記憶には残る。真実も、罪も。」
遊「それは、俺の罪です。罪を問われるべきは、俺だけです。」
紅音「遊・・・私は、あなたの罪を責めない。
今日のことも、誰にも言わない。全部、偽る。」
遊「紅音?」
紅音「だから・・・・・私も、その罪を背負う。
私にも、その責任と、権利があるもの。」
遊「・・・・・!」
紅音「遊が、私のこと、好きって言ってくれて、嬉しかった。
でも、そのせいで、遊にこんなことを、させてしまったから・・・・・
私は、どうしてもそんな自分が許せない。」
遊「紅音・・・・・」
紅音「お願い、一人で抱えないで。私も、一緒に背負うから。」
ナレ「控えめで、口数も少なく、自己主張の弱い紅音が、
必死に自分の意思を伝えてくる。
遊は、こんなに真剣に訴えてくる紅音を、初めて見た。
やがて遊は、半分呆れた溜息を漏らした。」
遊「・・・・・・はぁ、やれやれ。紅音にはかないませんね。」
間。
紅音「12月某日某所未明、3人の学生が焼死体となって発見された。
生存していた男女2名の話によると、彼らは男女5名で旅行に来ており、
うち1人が行方不明になったため捜索に当たっていたが、
さらに男女2名が姿を消す。
地下室の扉が開いていたため中に入ると、奥の焼却炉が燃えており、
慌てて鎮火したが時すでに遅く、3人は焼け死んでいたという。
点火スイッチが内側についていたこともあり、
『3人が他の仲間を驚かすために焼却炉に隠れ、扉に閂がかかってしまった』
『解除スイッチだと誤認し、点火スイッチを押してしまった』との見解から、
事故として・・・・・」
遊「紅音」
紅音「ぅゎっ・・・・・あ、遊。」
遊「これは・・・・先日の・・・・・」
紅音「うん。ケータイも全部燃えちゃってるから、本当に証拠、残ってないなぁって。」
遊「そうですね。彼らの荷物まで燃やしていたら、完全に殺人事件でしたけど」
ナレ「事件から1か月後、遊と紅音は変わらず大学に通っていた。
紅音は心なしか前向きになり、自分の意見も上手く言えるようになっていた。
そして、彼らは恋人同士になっていた。」
紅音「あれから、もう1か月なんだね。・・・・時間の流れって、ホントに早い。」
遊「・・・・紅音」
紅音「何?」
遊「・・・・どうしても、聞きたいことがあって。
気分を害したら、申し訳ないのですが・・・・」
紅音「うん。大丈夫。なぁに?」
遊「・・・なぜ、俺と付き合ってくれたのですか?」
紅音「え・・・?」
遊「なぜ、俺と交際を・・・?」
紅音「・・・・なんで?」
ナレ「遊の問いに対し、驚きを隠せない紅音。
それでも遊は、言いづらそうに言葉を続けた。」
遊「あんなことをした俺と、
どうして恋人でいてくださるのか、気になってしまって。
もしかしたら、先の件のことを気負って、
不本意に付き合われているのかと・・・・・」
紅音「・・・・・クスッ」
遊「どうしました?」
紅音「私、恋愛まで流れに任せてた覚え、ないよ。」
遊「え?」
紅音「そりゃあ、今まではずっと、美沙に連れ回されてたけど。
でも、もう美沙はいない。
友達も恋人も、自由に付き合って行ける。
誰かを気にする必要もないし、我慢もしなくていい。
そうでしょ?」
遊「それは・・・そうですが・・・・・」
紅音「遊に好きって言ってもらえて、本当に嬉しかったもの。
ほら、私も、一応は良家の生まれだし、そういうの知られた時点で、
大抵の人は金ヅルとして見るか、ちょっと引いちゃうから。
遊は周りにも知られてる通りだから、
自分の家のこととか気にしないで付き合えるって思って。」
遊「・・・・じゃあ、先の件のことは・・・・」
紅音「それはそれ。私なりに考えた決めたことだから、恋愛と一緒にしないで。」
遊「・・・・・。」
紅音「・・・ねぇ、知ってる?」
遊「はい?」
紅音「女の子はね、男の子と交際を始めてから、
どんどん相手を好きになっていくんだって。」
遊「!」
紅音「もちろん、私は遊のこと、好きだよ。
でも、きっとこの気持ちは、遊よりもずっと弱いと思う。」
遊「紅音・・・・・?」
紅音「あの別荘での出来事は、絶対に忘れない。
でも、恋愛とは別。
今まで我慢してた分以上に、私は思いっきり恋愛がしたい。
だから遊も、私に負けちゃわないぐらい好きでいて。ね?」
遊「・・・・・・えぇ、もちろん。気持ちの強さは、負けませんよ。」
ナレ「人を殺した事実、闇に葬られた事実。
それが、二人の外から零れ出ることはないのだろう。
今彼らが笑顔でいられるのは、自分を捉える鎖から解放されたゆえか。
それとも・・・・・。」
The End.
~はい、言い訳のお時間です。~
どうも、犯人です。
悲しいけど、これ長編台本なのよね。
3:2:1なんて初めての比率で泣くかと思ったのは作者です。
何がしたかったのかわけがわからないかと思われますが、よかったらどうぞ。
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